Zoomのエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)。
AP Photo/Mark Lennihan
- 新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、Zoom(ズーム)がここ数週間で大幅にユーザー数を増やし、個人法人を問わない超人気アプリになっている。
- 同社のエリック・ユアン最高経営責任者(CEO)は3月初旬、新たなユーザーの大半が無料プロダクトを使っており、有料に移行させる方法について何かを語る段階ではまだない、と発言している。
- ユーザー数や利用量の増加は、Zoomにプレッシャーをかける面もある。プロダクトの品質を維持し、インフラを増強するための投資が必要になるからだ。
Zoomは3月20日、米証券取引等監視委員会(SEC)に2020年1月期(2019年2月1日〜2020年1月31日)のアニュアルレポートを提出した。
そのなかで同社は、新型コロナウイルスの感染防止策として在宅勤務が増え、コミュニケーションを円滑化するツールとしてZoomもユーザー数を伸ばしているが、それは「諸刃の剣」でもある、と投資家に警鐘を鳴らしている。
個人法人を問わずユーザーが急増していることで、人気の第一の理由である信頼性を維持しながらも、インフラ投資を急ぐ必要が出てきているからだ。
アニュアルレポートのリスク要因には次のような記載がある。
「新型コロナウイルスの感染拡大を背景に利用量が増え、データセンターのキャパシティおよびサードパーティと契約しているクラウドホスティングを増強する必要が出てきており、そのための投資によって、売上原価は近い将来、絶対額、売上高に占める割合とも上昇する見通しです」
サードパーティとはアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を指す。Zoomがクラウドインフラの少なくとも一部にAWSを採用していることはすでに明らかになっている。
もしZoomのインフラ投資が遅れて信頼性の維持に失敗すれば、マイクロソフト「Teams(チームズ)」やグーグル「Hangout(ハングアウト)」、シスコシステムズ「WebEx(ウェブエックス)」などライバルとの競争は厳しくなるだろう。アニュアルレポートにはこうある。
「ユーザーの増加によってサービスの遅延や中断が起きるといった、当社の運営するプラットフォームあるいは当社が利用するクラウドプロバイダ、テクノロジーに関する好ましくない評価や認識は、レピュテーションやサービスの維持拡大能力に悪影響をもたらします」
ウイルス流行の終息後に不安
Zoomは2019年4月18日に米ナスダック市場に上場を果たしている。
REUTERS/Carlo Allegri
新たに加わったユーザーが結果としてどのくらい有料ユーザーに置き換わるのかが不透明ななかで、事業コストを示す指標である売上原価だけが増加するのは、確かに大きな問題だ。アニュアルレポートの記載は以下のようになっている。
「当社のサービスは世界中でユーザーを増やしていますが、有料ユーザーも同じように増える保証はありませんし、新型コロナウイルスの流行が終息したあとも変わらない頻度や時間でサービスを継続して利用いただける保証もありません」
Zoomはウイルス流行によって増えた正確なユーザー数を開示していないが、相当数であることはほのめかしている。ただし、3月初旬に行われた決算発表のカンファレンスコールで、同社の経営幹部らはビジネスに与える影響を評価するのはまだ早いとの考えを示している。
同社は、ウイルスの発生源とされる中国で無料ユーザーの利用時間制限(40分)を当面の間解除したほか、イタリアや日本、アメリカなどの教育関係機関にも同様の措置を導入。また、米Forbes誌によると、ユアンCEO自身がZoomを通じてリモートで、いくつかの学校との無償利用契約を結んだ例もあるという。
ポルノ画像・動画をシェアする「ビデオ会議荒らし」も
Zoomはインフラ増強が遅れた場合に、プロダクトの信頼性を疑う声が出てくることを心配している。レピュテーションのダメージは取り戻すのが大変で、とくにビデオ会議システムやコレボレーション・ツールの市場は競争が激化しており、取り返しのつかない結果になりかねない。
すでにZoom利用拡大の影響を示す記事がいくつか公開されており、少なくともそのひとつでは、ネット荒らしがビデオ会議に割り込んで、ポルノ画像や動画をシェアするケースが出てきていることが報じられている。
また、Zoomを介したリモート授業に不満を募らせた生徒たちが、アップストア(App Store)からZoomアプリを削除させようと、ネガティブなレビューを投稿するケースも出てきている。
こうした事件でブランドやレピュテーションに傷がつくと、回復は簡単ではないし、コストも高くつく。マイクロソフトのTeamsやシスコシステムズのWebEx、あるいはSlackといった競合サービスに乗り換えようという動きにもつながりかねない。
「さらに、当社のプラットフォームも含めた(ビデオ会議という)新たなテクノロジーの普及率が高まると、ネットワークがニーズの増加に耐えられなくなる可能性もあります。
断続的な遅延や中断、長時間のサービス停止が起きるようになれば、当社のシステムやプラットフォームは信頼性が低いとの評価が生まれ、他社サービスに乗り換えたり、当社のプラットフォームを避けるようになったり、今後のビジネス展開が阻害されるおそれがあります」
(翻訳・編集:川村力)