一斉休校、ロックダウンはどうなる? 専門家会議が語る「新型ウイルス対策」日本の現状

専門家会議

専門家会議の見解に関する記者会見は、3月19日の午後10時45分から開催された。

撮影:三ツ村崇志

3月19日に行われた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の会見では、19ページにもわたる資料によって、日本の現状と今後の対策のあり方が示された。

2月下旬から行われた対策は「感染者の爆発的な拡大を防ぐ」という意味で、一定の効果があったといえる。ただし、対策の効果があったことは、新型コロナウイルス感染拡大の収束とイコールではない

今後も、感染者の爆発的な増加(オーバーシュート)を起こさないために、引き続き対策を行っていくことが重要といえる。また、状況に応じて対策を強化することも必要というのが、専門家会議の見解だ。

19日の専門家会議で示されたポイントの概略と、その中から生活を送る上で特に注視すべき点についてまとめた。

「パンデミック」宣言も日本の戦略は変わらず

テドロス事務局長

WHOの記者会見でパンデミック宣言を出す、テドロス事務局長。

World Health Organization(WHO)

まず、日本の感染症対策における基本戦略について。

3月11日、世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的大流行)を宣言した。それで対策のフェーズが一つ変わったと感じた人も多いかも知れない。しかし、専門家会議は日本の対策について特段の変化に言及せず、

「これまでの方針を続けていく必要がある」

としている。

現時点の対策で、社会・経済機能への影響を最小限にしつつ、他国と比べて死亡者数を低く抑えられているという一定の成果があるためだ。

対策の基本方針は次の3つ。

  • クラスター(患者集団)の早期発見、早期対応
  • 感染者の早期の把握・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保
  • 市民の行動を変えて感染の広がりを抑える

加えて、ヨーロッパやアメリカでの感染が拡大している現状から、海外からのウイルスの流入や、都市部で散発的に確認されてい感染者とのリンクを追えない(=感染源の分からない)患者の発生への対策も必要だとしている。

緊急事態宣言の北海道、オーバーシュートは回避

北海道の「感染者

北海道の感染者数は、2月中旬から下旬にかけて急増傾向にあったが、感染者の爆発的な増加が起こるぎりぎりのところで持ちこたえた。

出典:北海道庁

北海道では、2月半ばに急激な感染者の増大が確認されたことから、全国に先駆けて学校の一斉臨時休校や緊急事態宣言など、非常に強い対応が行われた。

専門家会議は、具体的にどの対策がどの程度効果的だったのかを判断することはできないとしながらも、一連の対策によって一定の効果があったと判断している

ただし、あくまでも「爆発的な感染拡大を回避しただけ」であり、いまだに道内で感染者は確認されている。また、感染源の分からない新たな感染者も確認されているため、引き続き対策の基本方針に則った対応を進めていくべきだとしている。

「感染症の広がりをある程度制御できた」ということと、「感染対策を緩めていい」ことは、まったく別の話であることには注意が必要だ。

なお今後、新たな感染者やクラスターの発生によって急激な感染拡大が生じた場合は、該当する地域において、北海道で行った対応と同様の強い対策を実施する可能性があるとしている。

いま注意すべきは「東京や大阪」。感染源の分からない感染者が増加傾向

リンクなし感染者

感染源のわからない感染者数の割合。各期間中に全国で確認された感染者を100としたときの各都道府県の割合。3月12日〜18日(一番下のグラフ)にかけて、東京や大阪で、感染源の分からない感染者が確認されている。

出典:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

日本全国で見た時の感染者数は、3月23日12時の段階で1089人(厚生労働省資料参照)。

都市部を中心に感染者が徐々に増えてはいるものの、1人の感染者から感染させる平均人数を意味する「実効再生産数」は、3月上旬から1を下回り続けている

日本の再生産率

オレンジ色の棒グラフは日本における新規の感染者数(左軸)。青色の実線は、実効再生産数の推定値(右軸)。2月末までは実効再生産数が1を上回る日が続いていたが、3月上旬には1を下回るようになった。

出典:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

この数値が1を下回り続けていれば、いずれ感染者は少なくなる。

このことから、大規模イベント、学校の臨時休校、それに伴い大きく変わった市民の行動によって、新型コロナウイルスの広がりはある程度制御できていると捉えることができる。ただし、北海道の事例同様、何がどう効果的だったのかは科学的に判断することは難しい。

一方で、再生産率が1を下回ったからといって、新型コロナウイルスの流行が収まったわけではない。前出の北海道をはじめ、東京や大阪などの都市部では、感染源の分からない患者が散発的に確認されている。

患者の感染源を特定できなければ、その背後にどれくらい未知の感染者がいるのかを予想することは難しい。そういった患者が増え続ければ、オーバーシュートが発生しかねないという。

そうなってしまうと、他の国々と同様に、数週間にわたって店舗を封鎖したり、強制的な外出禁止をしたりといった「ロックダウン」と呼ばれる強い対応を行わざるを得なくなる

専門家会議は、

「オーバーシュートが生じる可能性は、人が密集し都市としての人の出入りが多い大都市圏の方がより高いと考えられます」

としている。

東京や大阪などでは、依然として予断が許されない状況だ。

世界の感染者数

世界各国の累積感染者数。日本の感染者数は、イタリア、スペイン、ドイツ、フランスなどでは、爆発的に感染者が増加してしまった。

出典:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

医療体制の構築は急務

日本の現状の対策には、当然課題もある。

爆発的な感染者の拡大を抑えるためには、今後も各地域ごとに「クラスター対策」に力を注ぎ続けることが重要となる。

しかし、現場を指揮する専門家の不在や、帰国者・接触者相談センターの運営をはじめとした業務に追われる保健所の負担が増しているのが現状。人員の拡充などの対応が求められる。

また、今後は感染者数が増えていくにつれて、一般の医療機関でもある程度感染症患者の受け入れが必要になるとされている。専門家会議では、この際にすべての医療機関が各々受け入れ体制を取るのではなく、どの医療機関が感染者を受け入れるのか、地域ごとにあらかじめ決めておく必要があるとしている。

また、重症者への対応を優先して死亡者を減らすためにも、地域の流行状況に応じて、受診や入退院の方針を見直すべきだと提案している。

専門家会議が示した入退院における検討指針は、次の通り。

  • 重症化リスクの高い人(高齢者、基礎疾患のある人)は早めに受診する
  • 軽症者、無症状の陽性者は自宅療養。ただし、電話での健康状態の把握
  • 入院対象は持続的に酸素投与が必要な肺炎患者。あるいは、入院が必要な合併症の患者などに限る
  • 症状が回復したら退院、自宅待機。電話による健康状態の把握
  • 軽症の感染者がリスクの高い人と同居している場合は、家族内感染を防ぐために別の場所で生活することを検討(例:宿泊施設での療養)

現時点では、軽症・重症に関わらず、感染者は入院となる。地域の実情に合わせて、死亡者を減らすために上記のような対応に変更すべきだという。

各地域での対策の考え方は?

3条件

この3つの条件が重なると、感染を広げる可能性が高いと考えられている。イベントなどを実施するには、最低限この3つの条件が重ならないような対応を考慮すべきだとしている。

出典:厚生労働省

専門家会議は、今後の対策のあり方として、地域(自治体に限らない)を次の3つの属性に分けて考えるべきだとしている。

まず、感染状況が拡大傾向にある地域

こういった地域では、独自のアラートや一律の自粛などを検討する必要がある。北海道では、この対応がうまくいったことで、爆発的な感染の拡大をギリギリのところで食い止められた形だ。

次に、感染状況が収束に向かい始めている地域

基本的に、感染が広がりやすいとされる3つの条件(下に列記)が重なる状況を徹底的に回避することが求められる。その中でも、リスクの低い活動から徐々に解除することも検討していくことになる。ただし、再び感染者が増加傾向になった際には、すぐに活動を停止する必要がある。

最後に、感染が確認されていない地域

こういった地域では、学校の活動や屋外でのスポーツイベントなど、それぞれのリスクを判断した上で、リスクの低いものから適切な対策のもと実施して良いとしている。

次の3つの条件が重なる場所は感染のリスクが非常に高いとされており、そういった状況が発生しないよう、常に配慮が求められる。

感染が広がりやすい3つの条件

1.換気の悪い密閉空間である

2.多くの人が密集している

3.近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われる

また、「地域」の考え方について、専門家会議の尾身茂副座長は、

「いわゆる行政単位と一致するというわけではないと思います。むしろ生活圏。人々の移動だとか、そういうことのほうが私は大事だと思います

と話す。

例えば、北海道では、札幌や旭川、函館など、各地域の中核都市の周囲でそれぞれ生活圏が分かれている。一方、関東のように都県をまたいだ人の往来が激しい地域では、複数の自治体の垣根を超えて対策を考える必要がある。

春休み明けの学校、地域に応じた対応を

尾身先生

記者会見で質問に答える尾身茂副座長。新型コロナウイルスとの戦いは「長期戦になる」という。

撮影:三ツ村崇志

専門家会議では、学校の一斉臨時休校の効果については判断できないとしている。

これは、複数の対策を同時に行ったことが理由の一つだ。ただし、2月中旬の北海道のように、感染が急激に拡大しかけているような地域では、「一定期間学校を休校することも一つの選択肢」と捉えている。

学校の休校解除については、地域の感染状況に応じた対応が求められる。当然、感染が広がる可能性の高い3つの条件が重なる状況が発生しないよう、配慮は必要だ。

また、教職員や児童・生徒自身、あるいはその家族が新型コロナウイルスに感染した場合や、本人に発熱などの風邪の症状があらわれた場合には、学校に来ないよう徹底することも必須といえる。

加えて、専門家会議では、若者に対する「お願い」も述べられた。

少なくとも、若者(30代程度まで)が新型コロナウイルスに感染したとしても、重症化する例は少ない。しかし、症状がない人や軽い人が、気が付かないうちに感染を広げてしまう事例が数多くみられるという。

海外では、軽症の若者によって家族内感染が起き、クラスター連鎖のきっかけになる可能性が指摘されている。若者は、感染が広がりやすい3つの条件が重なるような状況を避けるよう、今一度自分の行動を見直してほしい。これは、身近に高齢者がいる人だけの問題ではない。

大規模イベントは「一瞬にして今までの努力が水泡に帰す」

西浦教授

北海道大学の西浦教授。アメリカなどのように、レストランなどを封鎖したり、あらゆる外出を制限したりするといった強烈な対策の必要性について「私たちはそう考えていません」と話す。

撮影:三ツ村崇志

大規模イベントの中止についても、学校の臨時休校と同様に、どの程度効果があったのかを判断することはできない。ただし、専門家会議は、全国規模でのイベント開催について、次の4つの観点から引き続き「慎重な対応が求められる」としている。

  • 多くの人が集まると、集団感染が発生して地域の医療提供体制に大きな影響を及ぼしかねないため
  • イベント会場だけではなく、その前後に人が密集する環境がつくられるため
  • 全国から人が集まるため、感染が拡散するリスクがあり、さらに感染者が生じた際にクラスター対策を行うことが難しいため
  • 屋内、屋外、人数の規模に問わずリスクがあり、一度感染の広がりが見えると全国的な感染拡大に繋がる恐れがあるため

専門家会議は、こういったリスクへの対応が整わない場合は、イベントの中止・延期をする必要があるとしている。実際のところ、全国的な大規模イベントであれば、その対応はかなり難しい

専門家会議の一員として記者会見に参加した北海道大学の西浦博教授は、

「今、大規模イベントを開催してメガクラスターができてしまうと、一瞬にして今までの努力が水泡に帰すと思っています

と話す。

花見

3月22日、桜の名所である井の頭恩賜公園の様子。例年に比べて、花見客は圧倒的に少ない。(一部写真を加工しています)

撮影:三ツ村崇志

一方、地域で行われる小規模なイベント(学校の運動会など)の開催については、地域の流行の状況やイベント開催の必要性、さらに次の3点を中心に十分な注意をした上で、一定の理解を示していた。

  • 人が集まる場の前後も適切な予防対策を実施
  • 密閉空間・密集場所・密接場面などクラスター発生リスクが高い状況の回避
  • 感染が発生した場合に参加者への確実な連絡と行政機関による調査への協力

ただし、こういった対策を講じても、感染症が発生する可能性をゼロにすることはできない

また何より、イベントの内容や会場など、さまざまな要因によって感染のリスクとなる要素は大きく異なり、一律の対応は難しい。もし流行が広がっているような地域であれば、イベントの中止・延期を考えるべきだろう。

専門家会議の資料の最後には、具体的な対策の例が示されている。イベントの主催者は、こういった例を参考に、イベントの開催可否を十分検討する必要がある。

また、政府も専門家会議の見解を受けて、「大規模イベントの中止・延期に伴う補償のあり方」について、何らかの方針を示す必要があるだろう。現状では判断を事業者のみに任せている状況だ。

このままでは、イベントを開催するリスクと、イベントを中止することで経営難に陥るリスクを天秤にかけて、安全性の議論が不十分なまま開催を強行する主催者があらわれかねない。

それは結果的に、感染者の爆発的な増加を助長することになってしまうだろう。

(文・三ツ村崇志)

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