気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。今回の「GO三浦の生き様道場 いいからいけよ」は、Business Insider Japan主催のビジネスカンファレンス「BEYOND MILLENNIALS 」で行われた山内奏人さん(ワンファイナンシャルCEO)とのトークセッションの様子をリポートする。
「文化のサブスクリプション」を作りたい
三浦崇宏(以下・三浦)
今、いちばん気分が盛り上がる仕事って?
山内奏人(以下・山内)
文化のサブスクリプションみたいなのを作ってます。
三浦
文化のサブスクリプション!?
山内
街をテーマパークにしたいんですよ。
「PREMY(プレミー)」っていうサービスで、まだベータ版なんですけど。テスト運用でいろいろな方の声を聞かせてもらってます。
三浦
どんなサービスなの?
山内
月額3980円払うと、いろいろなエンターテインメント、映画館とか美術館とかが5割引になったり、タダで行けたりします。
三浦
それはさっき【前編参照】言ってたやつだね。
「ビジネスモデルを考えずに、街がテーマパークになったらいいじゃん!」って思ったからだ。
山内
そうですね。街って本当はおもしろいはずなのに、憂鬱な顔で歩いている人が多いじゃないですか。
三浦
「街を歩くときには楽しい方がいいに決まっている」。まさにこれ、「原理」だ。
山内
満員電車もつらいですし。やっぱり仕事をしていくなかで、つらいことって絶対ある。
でも、街がテーマパークになったら、つらいことでも頑張れるんじゃないかと思って。
三浦
ディズニーランドだって、行列に並んでるだけで楽しそうだもんね。
山内
ちなみに僕、ディズニーランドの年パスを持っているんですけど。
三浦
それ、たなか君(元ぼくのりりっくのぼうよみ)から聞いた!
山内
本当に好きで、毎週のように行ってるんです。
三浦
誰と?
山内
ひとりです。
三浦
ひとり! 怖いなぁ(笑)。ひとりで何してんの?
山内
景色を眺めたりとかですね。
三浦
それ、作ってない!? 天才っぽいことやろうとしてない?
山内
いやいや(笑)。でも本当に、最近やっていちばんおもしろかったことは、ディズニーランドとディズニーシーの植物めぐりですね。
ディズニーランドが好きだという山内さん。情報量が多い場所で、さまざまな角度から楽しみを追求している。
三浦
植物?
山内
すごいんですよ。ランドにしかない「ディズニーランドローズ」っていうバラの品種があったりとか。冬でも咲くビオラはディズニーランドが初めてと言われてますし。50年に1回しか咲かない花も咲いてます。
三浦
なんでそんなこと知ってるの?
山内
そういう本とか、詳しい人のTwitterを見てます。
三浦
絶対、天才ぶろうとしてるよね!?
山内
違います、違います(笑)。本当に本が出てるんですよ、ディズニーランドの植物図鑑とか。おもろしろいんです。で、そういうのって結局、自分が行ける環境にあること、行ってみようと思える情報があることによって、楽しくなってくるんですよ。
だったら別にディズニーランドだけじゃなくて、街でもできるなと思って。気軽に行ける環境、行ってみようと思う情報があれば人は街に行くし、楽しいと思えるはず。
だから、それをどう実現するかというのを、ひたすら角度を変えながらやってます。
ハマってること:採用
三浦
逆に、おれに聞きたいことってある? 一応、倍生きてるし、体重も倍だし(笑)。
山内
最近ハマっていることを聞きたいです。
三浦
相撲かなぁ。おれ、身長と体重が炎鵬と一緒なんだけど(笑)、炎鵬の取組を見てると、自分も理論的にはこれくらいのサイズのやつに勝てるんだなと勇気が湧いてくるんだよね。
あとは、最近『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』って本を書いたんだけど、それ以来よく書店を回るんだよ。で、書店を回ると、知らなかったけど読まないとヤバいなという本がたくさんあって、本なんて書いてる場合じゃなくて読まなきゃダメだなと思った。だから書店めぐりを久しぶりにちゃんとやるようにしてる。
そうだ、最近は採用にハマってる。会社の。
山内
採用、おもしろいですよね!
三浦
新しいクリエイター、どんな人を入れようかなあとか。当たり前なんだけど、会社って人の集まりじゃない。その人の集まりによってどういう組織になるかが決まる。広告を作る時に、どういう色にしようか、どういうコピーにしようか、どう世の中に出そうかって考えるのと同じ。GOという会社を作品だとすれば、この人が入ったら外からこう見えるな、だからこういう人が必要だなという気持ちで面談して、口説いて、入ってもらうのが、すごく楽しい。広告じゃなくて、会社組織をクリエイティブディレクションしているっていう感じで。振られたりもするけどね(笑)。
WEDは今、何人くらいいるの?
山内
今は20人くらいですけど、月に3人から5人くらい増えます。
三浦
そんなに増えるんだ。どっから来るの? ディズニーランド?(笑)
山内
あ、でもディズニーランドの元職員さんが本当に来てくれたら、おもしろいですね。
三浦
採用ではどこを見てるの?
山内
組織全体として偏りがないようにしています。それこそディズニーランドにいた人もいいし、保育園で働いてた人もおもしろそう。いろんな職種、経験をしてきた人を採用するようにしています。
三浦
さっき(前編)のビジネスモデルの話じゃないけど、何か常識を壊す、常識の先に何かを作ろうとしたら、そういう採用方針は必要だよね。
山内
いろんなバックグラウンドの人を集めるって方針ですか。
三浦
そう。多様な視点を持つそれぞれの人が、それぞれ違う常識に縛られてるじゃない。ディズニーランドで働いている人にしか見えない常識と壁もあれば、子育てをしながら働いている人にしか見えない常識と壁とか、テレビ局で働いてきた人にしか見えない常識と壁もある。
視点が増えるということは、越えるべき壁が増えること。つまり、その壁の向こう側にあるものが増えるということ。多様性は強い。
山内
すごく重視してるところです。
そういう意味でも、会社として「当たり前を超えてくれ」と言ってるんですよ。僕らが提供するサービスで当たり前を超えるのもそうだけど、社内にいる人間1人ひとりが自らの当たり前を超えていくことによって、おもしろいプロダクトを作っていこうと。
三浦
「当たり前を超える」っていいコピーだよね。そういう言葉の力ってやっぱり大きくてさ。
ディズニーランドって、従業員のことを「スタッフ」って言わないじゃない。「キャスト」なんだよね。自分たちも出演者のひとりだと思い込ませることによって、決していい条件じゃなくても、極めて高いモチベーションを維持させてる。すごいサービスを提供してる。
たったひとつ、言葉の使い方たったひとつで、当たり前の壁を超えてサービスする、みたいな。
山内
ほんと、そう思います。
才能のある子に育てるには?
三浦
唐突なんだけどさ、「自分の子どもを才能のある子にするにはどうしたらいい」って聞かれたらどう答える?
おれ自身、子育てしたことはないんだけど。
要は、奏人くんみたいに育つには?って話なんだけど。
山内
僕は、好きなことをとことんやらせてもらえる環境で、それを応援してくれる両親ではあったなと強く思いますね。
僕、知識に浸かることが好きなんですよ。ディズニーランドが好きなのもそうで、ひとつひとつにストーリーがあって、ひとつひとつにコンテンツがあるから。
三浦
圧倒的な情報量だよね。
山内
はい。とにかく情報量が欲しいんです。情報がないのはすごく怖い。
小さい時は毎日のように図書館に行ってましたし、図書館に行く前は毎日のように地域の昆虫園に行ってました。昆虫ひとつひとつのストーリーを知りたかったんです。そんなふうに知識をつけることに対して貪欲だった小さい頃の僕を、両親は全力で応援してくれてました。
三浦
おれの両親もだいたいそんな感じで、よくも悪くも両親がおれの背中をとことんを押し続けてくれたんだよ。
おれは、お父さんがダンサーでお母さんがオペラ歌手っていう変わった家で生まれたんだけど、2人とも本当におれのことを天才だと思い込んでた(笑)。
「あなたは天才だから」っていちいち言われてて、お父さんなんて、社長になれとかクリエイターとして優秀になれとか言うと思ったら、「おまえは天才だから、フランス文学の批評家になれ」って。おれがなれそうな職業の中で、最も収入が低そうなものをすごく勧めてくれた(笑)。
「好きなことをとことんやらせてもらった」。2人とも両親から背中を押してもらい育った。
山内
いいですね(笑)。
三浦
とにかく背中を押してくれるっていうのが結果的に——性格は歪みましたけど(笑)——仕事とかをする上ではためになったと思ってるんだよね。
だから結論は、子どもに対して親が教えてあげるべきことは2つ。ひとつは「限界はない」ってこと。子どもが何をやっても好きなだけやらせてやって、背中を押してやる。
もうひとつは、さっきの採用の話じゃないけど「視点は複数ある」ってことかな。子育てしたことはないんだけど(笑)。
(構成・稲田豊史、 連載ロゴデザイン・星野美緒、 撮影・伊藤圭、編集・松田祐子)
三浦崇宏:The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、CampaignASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』が発売中。発売前から予約でAmazonのビジネス書で1位に。
山内奏人:2001年生まれ。WED CEO。6歳のときに父親からパソコンをもらい、10歳から独学でプログラミングを始める。2016年現ワンファイナンシャルを創業。 レシート買い取りアプリ「ONE」が、大きな反響を呼ぶ。