JCBはApple PayやGoogle Payを専用機材なしで実現できるNFCタグを用いたソリューションの実証実験を始める。
撮影:小林優多郎
JCBは3月24日、NFCタグと連動した「Apple Pay」「Google Pay」決済の実証実験を開始した。実証実験は、JCB社内のカフェで社員を対象に5月末まで実施される予定だ。
このシステムが「画期的」なのは、店頭にNFCを内蔵した極めて安価なスタンドを設置するだけで、店頭でApple PayやGoogle Pay決済が使えるようになることだ。システムに専用レジなどは必要ない。
現状、店頭でのApple Pay、Google Payの決済は、専用端末(FeliCaやNFC Type-A/Bを利用)によるタッチ(非接触)決済が基本のため、店舗側に専用設備のコスト負担が重荷になっていた。
QRコードよりすばやく決済画面へ
NFCタグを読み込むとブラウザーが立ち上がり、指定された金額の支払いが可能。
撮影:小林優多郎
今回の仕組みはいたってシンプル。ユーザーは店舗に貼ってあるNFCタグに対応のiPhoneもしくはAndroidスマートフォンをかざし、立ち上がったブラウザーでApple PayもしくはGoogle Payの決済を行うというもの。実際にはそれぞれのアカウントに紐付いたクレジットカードなどで決済できる。
イメージとしては、「PayPay」や「LINE Pay」などで使われているユーザーが店舗のQRコードを読み取って支払いをする店舗掲示型のQRコード決済に近い。大雑把に言えば、QRコードで支払先の加盟店情報を読み取るか、NFCで読み取るかという違いだ。
決済自体はApple Pay、Google Payに紐づけられたクレジットカードで行なう。インターネット上のサイトで行なう決済と変わらない。
撮影:小林優多郎
PayPayをはじめとするQRコード決済との大きな違いは、アプリの起動などなく、スマホをNFCタグ(スタンド)にかざすだけで決済画面が自動起動(QRコード決済ではアプリ起動やカメラでの読み取りが必要)するため、「ユーザーの手間がない」ことだ。
Androidではかなり古い機種かローエンド端末を除いてNFCには対応しており、iPhoneに関してもiOS 13以降が動くiPhone XS以降に発売した端末であれば、特定のアプリのインストールなく利用できる。
NFCは成熟した技術だが、実用化までは壁も
NFCタグによっては、支払う金額をサイト上で指定できる。
撮影:小林優多郎
Androidがバージョン2.3よりNFCをサポートしているように、今回のベースとなっている技術は、すでに成熟したものだ。それがなぜ今になって活用されることになったのか。
JCBで今回の実証実験を進めるブランドインフラ推進部 デジタルプラットフォームグループ主事の下川卓宏氏は「iOS 13でNFCリーダー(読み取り)・ライター(書き込み)機能をサポートしたことが1つのきっかけ」と語る。
決済で“かざす”行為は珍しくないが、情報を読み取る動作としてはあまり知られていない。
撮影:小林優多郎
とはいえ、対応端末とソリューションがあれば、すぐに実用化できるわけではない。下川氏はハードルの1つとして「ユーザーがスマホをかざすことを受け入れるか」を挙げた。
QRコードは、もともと決済手段として使われる以前からURLリンクの共有などでも使われていたため、「カメラで読み取るもの」と多くの人が知っている。一方、かざして読み取るNFCは、おもちゃなどでの採用例はあるものの、QRコードほど一般には知られていない。
2020年5月下旬発売の「Galaxy S20+ 5G」(KDDI版)の背面。FeliCaマークは中央左側にある。
撮影:小林優多郎
加えて、NFCを読み取るアンテナの位置は端末によってバラバラだ。iPhoneは端末上部、おサイフケータイ対応のAndroidスマートフォンであればFeliCaマークが印字されている部分だが、正確な場所を理解している人は少ないだろう。
そのため、「実証実験を通して、タグの配置位置などユーザー目線でどのような改善ができるか見ていきたい」(デジタルプラットフォームグループ次長・阿部友紀氏)とする。
さまざまなシーンのキャッシュレス化が進む
専用アプリを使うことで、非接触決済のリーダー・ライターとしての役割をスマートフォンに持たすことも検討されている。
撮影:小林優多郎
タグを使ったもの以外でも、実証実験ではFeliCa/NFC機能を持つスマートフォンを非接触決済用のリーダー・ライターとして活用する取り組みも実施。NFCタグと合わせて、現在のApple PayやGoogle Payが入り込めていない、小規模店舗や商店、電源やスペース確保が難しい場所でのニーズに対応できるか検証していく。
JCBはこれらのソリューションの具体的な展開時期を明らかにしていないが「来期(2020年度)評価を出して、目標を定めていきたい」(下川氏)としている。
(文、撮影・小林優多郎)