コロナ危機に大学生からは「飽きた」。“自粛疲れ”若者との意識格差どう埋める?

上野の桜

上野公園は花見シーズンになっており、撮影する人の姿も見られる。

撮影:西山里緒

世界で拡散が続く新型コロナウイルスについて、東京都は「この3週間がオーバーシュート(爆発的患者急増)への分かれ道だ」との見方を示し、引き続き大規模のイベントなどを自粛するよう求めている。

その一方で、新型コロナに対する危機感に「温度差」が広がりつつある。

「モロ濃厚接触」も気にしない

「(新型コロナには)飽きた、の一言。周りを見ても、自粛してる人は誰もいないですね」

都内の大学に通うハルカさん(20、仮名)はそう言って、「結局死なないし」と笑う。3月中、大学は春休みシーズンだ。友人同士でオールでカラオケをしたり、シーシャ(水タバコ)バーに集まることもよくあるという。「シーシャって一台を数人で共有しますし、モロ濃厚接触」だが、気にする人はいないそうだ。

「正直、周りに感染者がいないので他人ごとにはなりますよね……」

同じく都内の大学に通うユキさん(23、仮名)もホンネを打ち明ける。ユキさんは手をこまめに洗うことと、電車に乗るときはマスクをすることで対策はしているが、「どこまで活動してよくて、何をしてダメなのかわからない」。

「いろいろな話がありすぎて混乱します。自粛が必要なのはわかりますが、 知り合いのホテルや飲食店の売り上げが激減しているって話もよく聞きますし。 それで店や会社が潰れることへの補償もないから、できるだけ応援したい

「自治体から直接自粛要請は来ていない」

立教大学

3月24日、本来卒業式が開かれるはずだった立教大学では、せめてもの思い出に、と写真を撮る学生たちの姿が。

撮影:三田理紗子

政府は大規模イベント等の自粛を呼びかけているが、開催の可否の目安となるのは、専門家会議があげる「3つの条件が同時に重なる場」、つまり換気の悪い密閉空間、多くの人が密集する、近距離での会話や発声が重なる場所、ということだ。

こうした条件が重なる場でのイベントは自粛して欲しいとは言うものの、最終的な判断はイベント主催側に委ねられている。結果、イベント決行を決める団体もある。

3月24日には、女子プロレスイベント「シンデレラ・トーナメント2020」が、後楽園ホールで予定通り開催された。3月22日には、格闘技イベント「K-1」がさいたまスーパーアリーナで6500人の来場者(主催者発表)を集めたばかりだ。同イベントは埼玉県が自粛を求めていたにも関わらず、開催を決行したことで物議を醸した。

「シンデレラ・トーナメント2020」の開催を決めた理由について、主催者側の担当者は、「自治体から直接自粛要請が来ているわけではない。万全を期して開催することで、今回のイベントのモデルケースにしたい」と話す。

「答え合わせは2週間後」

SNSでは、新型コロナウイルスに対する楽観的な動きや気分へ警鐘を鳴らす人の声も多く見つかる。

「ここ数日の弛緩しきった楽観ムードは非常にマズい。地道な感染対策や医療従事者の労働力によって食い止められていたが、コロナが感染爆発する可能性が高くなってきたと感じる。個人的にはもう少し引きこもったほうが良いとは思うが国民の選択なら仕方ない。答え合わせは二週間後」

「今、海外で起こっている爆発的な伝染拡大は対岸の火事では無い。残念ながら、日本の政治家、メディア、国民も楽観的すぎると思う。米国に居て、この一週間の信じられない激的な感染者数増加が日本で起こらない事を祈る。医療崩壊が起こるから検査するなという人もいるがドイツ、韓国を見習うべきだ」(楽天会長兼社長・三木谷浩史氏)

自治体によっては、新型コロナウイルスの拡散は予断を許さない状況になってきているのも事実だ。3月23日には小池百合子都知事が会見を開き、今後感染が拡大した場合には首都封鎖(ロックダウン)もあり得るとして、4月12日までのイベント自粛を呼びかけた。

すでにイタリアやスペイン、 フランスといった国では、数週間の間、都市を封鎖したり外出禁止の措置を取っているほか(3月19日付専門家会議資料より)、米ニューヨーク州でも現地時間の3月22日夜(日本時間23日午前)から、外出を控え自宅にとどまるよう求めている。

日本とこれらの都市の違いは、まず第一に、新規感染者数の差にある。

WHOの発表によると、新型コロナウイルスの感染者が世界で中国に次いで多い国はイタリア(5万9138人)、ついでアメリカ(3万1573人)だ。日本は1089人(いずれも3月23日時点)で、未だ爆発的な感染拡大には至っていない。

欧米よりも早くウイルス感染が広がったために、ここに来て「自粛疲れ」が起こっていることも、楽観ムードを引き起こしている要因になっていると言えるだろう。

「自粛疲れ」に政府も対応を

渋谷

新型コロナウイルスのまん延を止めるためには「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触するおそれが高い場所」が重なるような状況を避けることが重要だ。

撮影:三田理紗子

40歳未満の人が新型コロナウイルスに感染したとしても、重症化することは少ない。しかし、症状がなかったり軽かったりする分、気が付かないうちに感染を広げてしまう可能性が指摘されている。

こうした形で広がった感染者は感染源が分かりにくいため、積み重なると爆発的な感染者の増加(オーバーシュート)へとつながる。

日本はこれまで感染者との濃厚接触者を徹底的に調べることで、いち早く小規模な感染者の集団(クラスター)を見つけ、封じ込めを行ってきた。

しかしここ最近では、特に東京・大阪といった都市部で、感染源のわからない感染者が増えてきているという(前出の専門家会議資料より)。検査で感染の広がりを把握するスピードよりも、感染者が増えるスピードの方が早くなりつつあり、爆発的な感染者増加をぎりぎりのところで防いでいるのが現状だ。

これまでの戦略の破たんは、日本も、ヨーロッパなどで起きている過酷な状況へ突入する可能性が高くなることを意味する。

感染が広がりやすいとされる3条件 —— 「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触するおそれが高い場所」が重なるような状況を避け、ウイルスのまん延を防ぐために若者たちの協力は不可欠だ。

一方で、「自粛を求める」だけの政府対応にも疑問が残る。

例えば、先の「シンデレラ・トーナメント2020」は、入場料の平均額と収容人数を単純計算しただけでも、約1500万円の売り上げが見込めるイベントだ(実際はその4分の1の観客数で実施するという)。イベント会場利用料、宣伝費、出演料にスタッフの人件費などを考えると、確かにイベント一つを中止する損失は計り知れない。

これらの損失の補償の具体策を示さずに「自粛せよ」と迫ることは、損失を被る当事者に安全性と経営問題を天秤に掛けさせることになっていないだろうか。

立ち向かうべき相手はウイルスだ。自粛疲れや危機感のなさを責め「ただ呼びかける」よりも、どうやって自粛疲れを起こさずに、この先の苦境を乗り越えるべきかの施策を講じることが必要だろう。

(文・西山里緒、三ツ村崇志)

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