アメリカの小売りCEOたちが送信した「新型ウイルスと戦う決意」のメールが心を打つ理由

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アメリカの大手百貨店Nordstrom(ノードストローム)。写真はニューヨーク・マンハッタンの店舗。

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アメリカ国内の新型コロナウイルス感染拡大が止まらない。その影響は小売業も直撃しており、業績悪化が懸念される。

こうした厳しい状況下で、アメリカの小売り企業は次々と消費者に宛てた力強いメッセージをメールで送っている。

送り主は、もちろん各企業のトップだ。CEO自らが時には直筆のサインを添えて、「私たちはいつもここにいます。共に乗り越えましょう」と顧客を励ます。

なぜ彼らはまるで友人のように距離の近い、「心に響くメール」を送るのか。

一大事こそ、CEO自らの想いを届ける

かつてニューヨークで暮らし、フリーランスのライターとしてアメリカの小売り・ECに関する記事を日本のメディアに寄稿していた筆者は、今でも情報収集用にさまざまな企業のメールマガジンに登録している。

アメリカで新型コロナウイルス感染が拡大するにつれ、「COVID-19」に関するメールが続々と届くようになった。店舗の一時閉鎖に関するアナウンス、商品の取り扱いや配送状況の説明、そしてついには、CEOからのメッセージがやってきた。

日本ではあまり馴染みのないCEO名義のメッセージだが、アメリカでは買収のような大きな発表があった際など、こうしたメールを送る慣習がある。そこに並ぶのはいかにも企業然とした「お堅いメッセージ」ではなく、ポジティブで力強く、そして個人の想いが詰まった「生の言葉」だ。

雲の上の経営者というイメージとはほど遠い、率直な気持ちが綴られたメッセージには人間味が感じられ、一気に親近感がわく。

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ヒゲ剃りのD2C「Harry’s」の創業者が、Schickを有するEdgewell Personal Care社に約1500億円で買収された際に送ったメール。Harry’sブランドを愛する顧客に対し、「私たちはどこにも行かない」と決意表明とも取れるメッセージを送った。

出典:Harry’s

消費者の反応は賛否両論

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写真はイメージです

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CEOが自身の名前でメッセージを発信することはポジティブに働く可能性もあるが、一方で額面通り受け取られないこともあり、タイミングや選んだ言葉によっては炎上リスクもある。

特に、ここ数週間の深刻な状況下では、冷静な判断を欠く消費者も少なくない。

実際、Twitterで今回の新型コロナウイルスに関するアメリカの企業への反応を見ていると、企業トップからのメールを好意的にシェアするTwitterユーザーもいれば、「自分は従業員」と明かした上で、企業の対応を疑問視するユーザーもいる。また、非常に強い言葉で企業を批判するユーザーも目立つ。

大手百貨店Nordstrom(ノードストローム)CEOからのメッセージを好意的に受け止めシェアするTwitterユーザーは、次のように投稿している。

I applaud Erik and Pete Nordstrom for their leadership in temporarily closing all @Nordstrom stores, while continuing to provide benefits and pay to all employees. #peopleoverprofits #COVID19 #FederalLeadershipNow

(全従業員に福利厚生と給与を提供し続けながら、@Nordstromの全店舗を一時的に閉鎖したErikとPete Nordstromのリーダーシップに拍手を送りたい)

他のツイートでは、大手ディスカウントストアTarget(ターゲット)の対応を一部評価しつつも、疑問も残るとする従業員を名乗るユーザーが。

I am a Target employee and a thank you letter isn’t enough for what we all have gone through whether we are sick or healthy. It doesn’t seem at all worth the stress and anxiety.

(私はターゲットの従業員です。病気でも健康でも、誰もが経験してきたことに対して、サンキューレターだけでは十分ではありません。全ての人が感じているストレスや不安に見合う価値があるとは全く思えません)

日本人からすると、本人を特定されかねないアカウントで所属先企業の対応を批判することに驚きを隠せないが、アメリカではそれほどに、自身の権利を主張することが当然の行為とみなされている。

企業は消費者に限らず、スタッフ、その先にいる家族からも常に「ジャッジ」されている。

だからこそCEOは逃げずに向き合い、「本気」と「覚悟」を持って発信し続ける必要があるのだろう。「こんな良いことを言ったら話題になるだろうか」という思惑が透けて見えるような内容では、決して心に届かない。

メール内で「スタッフへの支援」についても言及

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写真はイメージです

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人々の心を動かすのは、CEOから発せられる本気の言葉と、それを実行に移すリーダーシップだ。

メールの中ではスタッフに対してどういう処遇をしていくかが書かれていることも多い。

営業を停止した場合でも給与を支払う、と書かれているケースもある。消費者宛てのメールにスタッフの処遇やサポート体制についても書くことで、企業のトップとして消費者はもちろん、スタッフやその家族にも寄り添い、守っていくという強いメッセージになる。

また、企業を代表するCEOの言葉や価値観は、少なからず購買行動に影響を与えるはずだ。だから、消費者に直接届くメールの中で「企業として出せる限りの情報を出す」「CEOの心の内を率直に明かす」という2つのポイントを打ち出すことには、合理的な意味がある。

非常事態において、CEO自らがいかに「顧客の気持ちに寄り添った自分なりのメッセージ」を発信できるかは、ブランドロイヤルティを高める上でも重要なポイントになる。なかでも印象に残ったメッセージを見ていこう。

Nordstrom「決して軽々しく結論を出したわけではない」

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Nordstromは、都心部や大型ショッピングモールなどへの出店で馴染み深い大手高級百貨店。日本で言うと伊勢丹のような存在だ。

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出典:Nordstrom

Nordstromを代表して、COVID-19の影響を受けたすべての人々(陽性と診断された方だけでなく、その友人やご家族、仕事や学校に影響を受けた方など、多くの人が含まれています)に心よりお見舞い申し上げます。私たちはいつものように、従業員、お客様、コミュニティに属する皆さまの健康と安全を第一に考えています。

状況は急速に変化しており、ウイルスの拡散を遅らせるため、全店を一時的に閉店することを決定しました。2週間の閉鎖は、3月17日(火)から実施されます。この決定には、アメリカとカナダのすべての店舗が含まれます。

引き続きデジタルスタイリング、オンラインでのオーダーピックアップ(※オンラインで注文した商品の店頭受取サービス)、フルラインストアでのカービングサイドサービス(※オンラインで注文した商品の車中受取サービス)を含む、現地の規制により認められているサービスについては、アプリやNordstrom.com、Nordstromrack.com、HauteLook.com、TrunkClub.comなどのオンラインストアを通じて提供するので、ご利用いただけます。

閉鎖が従業員に与える影響については認識していますが、決して軽々しく結論を出したものではありません。私たちはできる限り最善を尽くし、2週間、給与と福利厚生を提供するとともに、この困難な時期を乗り切るために追加のリソースを提供する予定です。

今が非常に不確実な時期であることは間違いありません。未来がどうなるかは分かりませんが、団結しお互いを支え合うことで、私たちはこれまで以上に強くなると確信しています。

いつもご愛顧いただきましてありがとうございます。

Erik(Nordstrom CEO)&Pete(社長兼最高ブランド責任者)

Target「開店後1時間は援助が必要な人たちの時間に」

Targetは、家電から安価なファッション、一部食料品まで取り扱う、大手総合ディスカウントストア。アメリカの都市近郊にはほぼどこにでもあるほど有名。

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出典:Target

ブライアン・コーネルCEOより、お客様とチームのサポートに関する最新情報について

連日、何週もの間、お客様には新型コロナウイルスの影響に対処するための物資をお買い求めいただいております。急速に変化する全国のニーズに適応しながら、店舗をオープンしていられるように、そして私たちのチームをサポートするために、できる限りのことをしていきたいと思っています。

本日、いくつかの変更について発表しました。

営業時間を短縮し、午後9時までに全店舗を閉店します。商品の補充と、より徹底した清掃を行うためです。この措置は、今月初めに共有した清掃の強化と、オーダーピックアップ(※オンラインで注文した商品の店頭受取サービス)やドライブアップ(※オンラインで注文した商品の車中受取サービス)のような、ソーシャル・ディスタンシング(※感染を防ぐために人と交わる距離を一定以上に保つこと)をサポートする、よりニーズの高いサービスに多くのスタッフを配置する対策に基づいています。

毎週水曜日、オープンから1時間は、高齢者や健康上の問題を抱えている方など、より援助が必要なお客さまをサポートする時間とします。

これらの変更に加えて、食料品、医薬品、その他の必需品など、需要の高い商品の流れを迅速にしていきます。引き続き需要の高い商品については制限を設け、より多くのご家族が必要とする商品を見つけられるように、お客様には、当面のニーズを考慮した上でのご購入をお願いしたいと思います。

チームのケアについて

この困難な時期を乗り越えるべく、Targetのチームは、お客様とご家族のために懸命に働いています。当社も、スタッフをサポートできるよう全力を尽くしていきます。

先日、バックアップケア給付金(※ベビーシッターの病欠、学校の休校、要介護者が病気になった時など臨時で依頼するベビーシッターやデイケア料金を企業が援助する制度)の変更を発表しました。

学校やその他のケア施設の閉鎖に直面しても、現在多忙を極めている最前線のチームメンバーを含め、誰もがバックアップケアを利用できるようになります。これに加えて、欠勤に関するポリシーを一時適用除外し、検疫手当や病欠手当を支給します。また、有給家族休暇や無料カウンセリングサービスなどの福利厚生も継続して提供していきます。

ここ数週間で私たちが目にしたことの多くは、店舗やサプライチェーンで働く私たちのプロフェッショナルチームから、皆さまとご家族の団結力に至るまで、勇ましいものばかりでした。

冒頭で申し上げたように、全てのご家族に対する支援を約束することがTargetの目指すことの核心です。私たちの目標は、お客様に寄り添い、この不確実な状況を共に乗り切ることです。そしてその約束を果たすために全力を尽くします。

Brian Cornell(会長兼CEO)

Stitch Fix「ただハローと言いたいときでも、気軽にチャットで声をかけて」

Stitch Fix(スティッチ・フィックス)は、プロのスタイリストが、ユーザーの好み、ニーズ、予算に合った商品を厳選して届けるサブスクリプション型のパーソナルスタイリングサービス。300万人以上のアクティブユーザーを抱える。

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出典:StichFix

親愛なるStitch Fixファミリーの皆様

この不確実な時期に、皆さまとその大切な人たちが無事であり、安全であり、お互いを大切にされていることを願います。COVID-19の感染拡大により影響を受けた世界中の人々に心よりお見舞い申し上げると共に、我々のコミュニティメンバーの健康と安全を守るために尽力してくださっている皆さまに感謝いたします。

私たちはまだサービス提供を続けていますが、今後皆さまに影響がおよぶ可能性があるいくつかの変更について最新情報を共有します。

カリフォルニア州とペンシルベニア州の公衆衛生命令に基づき、一時的に2つの配送センターを閉鎖しました。これらの変更に対応している間、商品の到着が遅れたり、返品処理が予定より遅れたりすることがありますがご容赦ください。お客様と個別に連絡を取れるよう最善を尽くしていますが、お客様の体験が可能な限り最高なものであるよう(営業を続けることにも)努めていますので、(万が一ご不便をおかけすることがあっても)ご了承ください。

今回の休業により影響を受けた従業員への給与は、当面継続して支給されます。休業が延長された場合は、引き続き検討していく見込みです。

稼働している物流センターでは、洗浄と衛生管理を強化します。従業員が休暇を取りやすくするために、勤務スケジュールと病欠プログラムの柔軟性を高めています。また、特に学校や育児休業の影響を受けている物流センターのひとり親の従業員を経済的に支援するため、「スティッチ・フィックス・ファミリー・エマージェンシー・プログラム」を設けています。

短期的には上記のような取り組みで社員のケアをすることはできますが、長期的には、この先も雇用機会を創出できる優れた会社を作り続けることが重要です。

今まで通り、ECサイトから直接、定期購入のお申し込みや商品をお買い求めいただくことは可能です。ご自宅に居続ける必要があるお客様のために、返品期日の延長オプションを増やしました。延長に関する理由は問われません。アカウントにログインして、新しい希望日を選択してください。お客様の1日に少しでも喜びをお届けできる機会を、スタイリスト一同心待ちにしております。

この10年近く私たちが直面してきたなかでも、今が最も困難な時期です。しかし、その困難に直面しているなかで、私たちはまた機会も見出しています。私たちの仕事に意味をもたらす“互いとつながること”に投資する機会、会社の価値観に寄り添い自分たちが正しいと信じていることを行う機会、そしてお互いを支え合いコミュニティをより強くする機会です。

Stitch Fixは一人ひとりの人間関係を大切にしています。素晴らしいお客さまである皆さまとの関係があってこそ、文字通り、そして精神的にも、私たちは前進できるのです。 何か必要なことがあれば、あるいはただハロー(Hello)と言いたいときでも、お気軽に声をかけてください。私たちは常にここにいて、@StitchFixでチャットを受け付けています。

Stitch Fixを継続的にサポートいただき、感謝しています。お体に気をつけてお過ごしください。一緒に乗り越えていきましょう。

Katrina Lake (創業者兼CEO)& the Stitch Fix team

(文、訳・公文紫都)

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