4月「同一労働同一賃金」始まっても、非正規の待遇改善進まぬ企業のホンネ

街ゆく人

正社員と非正規社員の不合理な待遇差は解消されるだろうか。

撮影:今村拓馬

同一労働同一賃金の規定を盛り込んだ「パートタイム・有期雇用労働法」(大企業)の施行が4月と直前に迫っている。

法律の目的は、均等・均衡待遇原則に基づき、正社員と非正規社員の不合理な待遇差を解消することにある。

均等待遇とは、働き方が同じであれば同一の待遇に、均衡待遇とは、働き方に違いがあればその違いに応じてバランスのとれた待遇差にすることだ。

均等・均衡待遇を図るには、基本給、賞与、諸手当など見直さなくてはならない項目がいくつもある。4月の法律施行と同時に施行される「同一労働同一賃金ガイドライン(指針)」では、基本給、賞与のほか、職務に関する役職手当、特殊作業手当、特殊勤務手当、時間外労働手当の割増率、通勤手当・出張旅費、単身赴任手当、地域手当のほか、福利厚生などについて判断基準を示し、均等・均衡待遇を求めている。

このうち職務関連手当や福利厚生については対応しているが、基本給、賞与に加えて、ガイドラインでは具体的に触れていない家族手当、住宅手当などの生活関連手当については検討中という企業が多いようだ。

NTTは同一労働同一賃金をすでに完了と思いきや?

携帯をとるサラリーマン

NTTは一見、同一労働同一賃金への対応を完了したようにみえたが...

撮影:今村拓馬

今年1月18日付けの日本経済新聞(朝刊)に、NTTの同一労働同一賃金の対応に関する記事が掲載された。そこにはこう書いてある。

「4月から深夜などに勤務シフトを変更した際に支給している手当や、災害時の復旧作業の手当などを全組合員に支給する」

「2019年末に非正規に支払う手当を拡充することで労使間で合意した」

これを読む限り、NTTは同一労働同一賃金への対応をすでに完了したように思えるが、実はそうではなかった。

NTT労使の取り組みは、

  • 2018年12月に「『同一労働同一賃金』に対するNTT労組の考え方」(以下、考え方)を策定。
  • 2019年春闘に合わせて事実上の要求として会社側に提出した。「考え方」は基本給、一時金、職務関連手当、生活関連手当、休暇制度、休職制度、福利厚生など全39項目に分かれている。

労組の要求に対し、

  • 2019年10月に会社提案が示された。
  • これを受けてNTT労組は組織内の議論を経て2019年12月に会社側と労使決着。その中には、休暇・休職制度について正社員と同水準になるように見直し、フルタイム勤務者以外の年次休暇、ライフプラン休暇、特別休暇(夏季)、特別連続休暇は所定の勤務日数を踏まえ比例付与する。
  • また、労組が同額の要求を掲げていた5項目の職務関連手当についても現行の交代手当、宿日直手当、呼出手当などの職務に関連する手当を再構築し、正社員と同額とする内容も含まれていた。

基本給、賞与で会社は回答を保留

ビル

撮影:今村拓馬

ところが、労組が要求していた基本給や一時金(賞与)、生活関連手当の扶養手当や住宅補助費などの手当の均等・均衡待遇については、会社側は回答を保留したのである。

たとえば基本給については、NTTグループの正社員は資格賃金(業務経験・能力)、成果手当(業績・成果)、加給(勤続等)の3つで構成されている。「考え方」では資格賃金・成果手当について無期転換した社員に支給する方向で議論し、加給は有期雇用も含めて勤続等を反映した支給水準について議論することを求めていた。

同じように一時金についても、会社業績への貢献を反映した水準を支給するように求めていた。会社が回答を示さなかったことについて同労組の幹部はこう語る。

「会社側は基本給と一時金についてはまったく答えていない。我々が提示した、基本給の構成要素ごとの違いによる非正規の水準の引き上げについては、法的には何も問題がない合理的な差であると認識しているのだろう」

財務へのインパクトを懸念する企業の尻込み

NTT 写真

REUTERS/Issei Kato

一方、扶養手当について労組側は「扶養する親族の生計を維持する上での負担は、雇用形態に関係ない」として、家族の構成に応じて同額の支給を求めていた。にもかかわらず会社が制度改定を用意しなかったのはなぜなのか。

労組の幹部はこう語る。

「扶養手当を含めて会社の主張の1つは、裁判の判決動向を見極めたいとのこと。もう1つは、扶養手当に代表される項目は財務へのインパクトが大きいので慎重に検討したいということ。おそらく、働き方に属する手当以外の項目については、トータルで検討するということだろう」

財務へのインパクトとは人件費が増大することを意味する。同一労働同一賃金の目的は正社員と非正規社員の格差を是正し、正社員の処遇に近づけることにあり、当初から人件費の増大は予想されていたことだ。

見直すべき格差を放置したまま4月の施行を迎えることになれば、訴訟に発展しかねない法的リスクを抱えることになる。グループ従業員30万人超という日本を代表する大手企業であるNTTの姿勢は、他の企業にも影響を与えかねない。

同一労働同一賃金に取り組んでいるのは「わずか8%」

歩いている女性

なぜ大企業の対応は遅いのか

撮影:今村拓馬

法律対応の動きがにぶいのはNTTだけではない。

帝国データバンクの「同一労働同一賃金に対する企業の対応状況調査」によると、大企業で「すでに対応済み」は8.2%にすぎない。「現在対応中」が20.6%だが、「これから対応する予定」が34.5%、「対応していない」が10.8%も存在する(調査期間2020年1月20日〜31日、1万405社)。

すでにこのアンケートの時期は労使協議を終了し、各種賃金制度の改定や就業規則の改定、さらには従業員への周知を始める頃であるが、遅れ気味の感は否めない。間に合わないまま4月施行に突入すると、相当数の企業が、不満を持つ非正規社員が法律違反で提訴に踏み切る訴訟リスクを抱えることになる。

なぜ大企業の対応が遅れているのか。本来は人件費の増加を懸念する経営側に対して、春闘などの場を通じて労働組合が要求すべきところだ。それどころか、労働組合自体が同一労働同一賃金に消極的との声もある。ある産業別労働組合の幹部はそうした事情についてこう語る。

「とくに製造業系の労働組合の動きがにぶいようだ。その理由として、パートなどの有期雇用労働者と正社員との同一労働同一賃金化を要求すれば、自分たち正社員の処遇が下げられることを恐れているからだ。だから労働組合として積極的に要求することをしないで、会社側の提案を待っているところも少なくない」

単純な不合理格差の解消で、正社員に不利益も

お金

制度スタート時の手当分は、数年後にはなくなる仕組みだ

撮影:今村拓馬

実際に一部の大手企業では、正規と非正規の不合理な待遇差の解消が問われている家族手当や住宅手当などを廃止し、基本給に組み入れる賃金改革を実施したところもある。

制度スタート時は、手当分は「調整給」という形をとって給与の総額が維持されるものの、徐々に減らし、数年後には調整給がなくなる仕組みだ。人件費の総額を増やすことなく、単に不合理な格差の解消を目指した手法であるが、正社員にとっては不利益をもたらす。

しかし、労働組合が要求しなければ非正規の処遇は改善されない。結果的に正社員が非正規社員の処遇の向上を阻んでいることになる。

「判例を待ってから」という名の無期限先延ばし

最高裁判所

4月にパートタイム・有期雇用労働法が施行されれば、新法に則った訴訟が増える可能性が高い。

shutterstock/TapisVolant

もう一つ、同一労働同一賃金の対応が遅れているのは、前出のNTTのように「裁判の判決動向を見極めたい」という企業が多いためだ。裁判の判決動向とは、基本給、賞与、住居手当、家族手当、退職金に関する一連の高裁判決を踏まえた最高裁の判決を指している。

例えば、大阪医科大学の時給制の元アルバイト職員の50代女性が、正社員と同じ仕事をしているのに賞与が出ないのは違法であるとして、賞与の支払いを命じた大阪高裁判決(2019年2月15日)や、転居を伴う配置転換が予定されていない正社員に住居手当を支給し、契約社員に支給しないのは不合理と判断した東京高裁判決(2018年12月13日)などがそれだ。

高裁判決を踏まえた最高裁の判断は今年中に下されるとみられている。

しかし、「2020年4月の施行までに最高裁判決が下されることはない」と指摘するのは、日本労働弁護団会長の徳住堅治弁護士だ。

「4月以降に最高裁の判例が出ても、それは個別の事件についての判例であり、10本ぐらいのまとまった判決が出ないと判断がつきにくい。判例を待ってから決めるという大企業の姿勢では、そのリスクがいつなくなるのか誰にもわからない」

4月にパートタイム・有期雇用労働法が施行されれば、新法に則った訴訟が増える可能性が高い。前出の産業別労働組合の幹部はこう言い切る。

「判例を待ってから検討するという姿勢は危険だ。しかし、現実には“赤信号みんなで渡れば恐くない”といった方向にある」

法律への対応が遅れればリスクは増大する。正規と非正規の待遇差を放置すれば、訴訟リスクだけではなく、採用活動への影響など、企業の信用リスクを高めることになるだろう。

(文・溝上憲文)

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