撮影:竹井俊晴
Business Insider Japan読者の多くを占める20〜40代の中には、「将来のお金が不安」という人も多いでしょう。このまま何もしないのはマズそうだと思いながら、どうすればいいのか具体的な方策が分からないまま、何も手を付けていないという人も少なくないはず。
そこで、投資信託の中立的な評価機関であるモーニングスター代表の朝倉智也さんに、ミレニアル世代が取り組むべき老後資金づくりの具体的な方法について話をお聞きしました。
集中連載全4回でお届けします。
定年退職時に1400万円の差
まず、このシミュレーションをご覧ください。これは、今30歳のAさんが60歳になるまでの向こう30年間、毎月3万円をタンス預金し続けた場合と、毎月3万円を積み立てて年率5%で複利運用できた場合の比較です。
編集部作成
毎月3万円を積み立てただけ(タンス預金)だと30年後には1080万円ですが、仮に年率5%で複利運用できたとすると2497万円となり、タンス預金より1400万円以上も資産を増やせる計算になります。
この「5%」という数字、物心ついた頃から超低金利の時代を生きているみなさんにとっては、現実味がないように感じるかもしれません。しかし歴史を振り返れば、老後資金をつくるのに年5%程度の利回りで運用するのが当たり前という時代もありました。
例えば1990年には、郵便局(現在のゆうちょ銀行)で期間3年以上の定額貯金にお金を預けると、金利は年6.33%も付きました。企業年金も、かつては「確定給付(DB)」タイプが主流であり、1997年までは企業が従業員に約束する利回り(予定利率)が5.5%もあったのです。
「元本確保型」はタンス預金と大差なし
かつてのスタンダードだった「確定給付」タイプの企業年金とは、企業が運用の責任を負い、従業員は定年退職後にもらえる金額があらかじめ決まっているタイプの年金制度のこと。
しかし今では、企業が拠出する掛け金の額が決まっていて、「掛け金をどう運用するかは個人に任せます」というタイプの年金制度(これを「確定拠出型年金(企業型DC)」と言います)を選ぶ企業が全体の半数を超えるようになりました(厚生労働省の調査結果より)。
本稿をお読みいただいている方の中にも、お勤め先が確定拠出型年金を採用しているという方が少なくないはずです。
ではその方に質問です。あなたはその掛け金を、どんな商品で運用していますか? 「掛け金の運用方法を選べと言われたけれど、よく分からないから『元本確保型』の商品を選んだ」という方も、おそらく少なくないでしょう。
このことが何を意味するか、分かりますか?
確定拠出型年金に加入していながら「元本確保型の商品を選んだ」としたら、それはとりも直さず「タンス預金」をしているのと大差ないということです。
長らく続く超低金利時代。老後資金づくりをしようという時、元本確保型の商品では十分とは言えない。
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2019年に「老後資金2000万円問題」が話題を集めたことをご記憶の方も多いと思います。その是非はさておき、仮に準備すべき老後資金の目安が「60歳で2000万円」だとして、「元本は確保されるけれどほとんど増えない」金融商品だけに頼っている人は、定年退職を迎えた時に「こんなはずではなかったのに……」とオロオロすることになりかねません。
つまり、いま20〜40代のみなさんは、老後資金づくりに役立つ知識を身につけて、積極的に運用する必要があるということです。
いまは郵便局の定額貯金でも金利は0.010%しか付かず、企業年金も「運用は自己責任で」というタイプが主流の時代。この流れを受けて、国も老後資金づくりに役立つ制度をいくつか用意しています。
そこで、この集中連載では、ミレニアル世代のみなさんが老後資金をつくるためにぜひとも役立ててほしい3つの制度を、どう活用すればよいのかをお教えしましょう。
老後資金づくりに活用すべき3つの制度とは
老後資金をつくるにあたり、みなさんに活用していただきたい制度は3つあります。
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
- つみたてNISA
このいずれも、どこかで名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし「聞いたことはあるけれど、どれをどのように使ったらいいのか分からない」という人が大多数かもしれません。
なお、企業型DCとiDeCoについては、勤務先の制度しだいで利用できる人とできない人がいます。自分がどちらに当てはまるのか分からないという場合は、勤務先の人事・総務担当者に尋ねてみてください。
仮に、これらの制度を利用できない場合でも、「会社からiDeCoは利用できないと聞いたからiDeCoの話は知らなくていい」「私はフリーランスだから企業型DCは関係ない」と考えるのは早計です。転職が当たり前になった今の時代、将来的に自分の状況が変化する可能性は十分にありうること。こうした「自分の生活を守る“武器”になってくれる情報」は、どんな状況でも知っておくに越したことはないからです。
「制度を使えるから今すぐ知りたい!」という人はもちろんですが、「今の自分は当てはまらないけれど、どんな制度なのかざっくりと理解しておきたい」という人も、ぜひこの機会にポイントをおさえておきましょう。
「企業型DC」と「iDeCo」って何?
さて、あなたは日本の年金制度についてどのくらい理解できていますか? まずは年金制度をざっとおさらいしたうえで、「企業型DC」と「iDeCo」を活用することがなぜ重要なのかをお話しします。
厚生労働省「公的年金制度の概要」をもとに編集部作成。
日本の年金制度のベースとなるのは「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金」という公的年金制度です。国民年金は日本に住む20歳から60歳になるまでの人が全員加入するもので、これに加えて会社員や公務員は厚生年金に加入します。
フリーランスの方など、国民年金のみに加入している人は将来「老齢基礎年金」を受け取ります。会社員や公務員など厚生年金に加入している人は、将来は「老齢基礎年金」のほか「老齢厚生年金」も受給できます。
これら公的年金の給付は老後の生活費のベースになるものですが、「老後資金2000万円問題」でも指摘されたとおり、公的年金だけで老後の生活をまかなうのは現実的ではありません。
そこで、上乗せの給付を保障する制度として用意されているのが「企業型DC」などの企業年金や「iDeCo」です。企業型DCとiDeCoはいずれも、厚生労働省が管轄する私的年金制度です。
企業年金は、勤務先によってある場合とない場合があり、種類も複数あります。先ほども少し触れましたが、加入者の加入年数や給与に応じて、原則として将来の年金額が確定しているのは「確定給付年金(DB)」。少し前までは企業年金と言えばこの確定給付年金が主流でした。
一方、企業が拠出する掛け金の額が決まっていて、加入者がその掛け金を自分で運用し、運用実績しだいで将来もらえる年金額が変わってくるのが「企業型DC」です。
朝倉さんのもとへは講演依頼も多く寄せられる。資産運用の講演というとかつてはシニア層が中心だったが、近年ではミレニアル世代の関心も高いという。
撮影:竹井俊晴
では、もうひとつの「iDeCo」とはどのような制度でしょうか?
iDeCoとはごく簡単に言えば、老後に向けて「自分で掛け金を拠出し、自分で運用し、自分の年金をつくる」ための制度です。iDeCoが「個人年金」「自分年金」などと呼ばれるのはこのためです。
iDeCoは20〜59歳の日本人ならほぼ全員が加入できますが、勤務先で企業型DCに加入している人は加入できない場合もあります。このほか、拠出できる掛け金の上限額は働き方などによって異なります。
図表3は、iDeCoに加入できるかどうかが確認できるチャートです。「そもそも自分がiDeCoに加入できるかどうか」「加入した場合、拠出できる掛け金の上限額はいくらなのか」を、あなたもぜひ確認してみてください。
企業型DCとiDeCoはここがお得
老後資金づくりに企業型DCとiDeCoを最大活用していただきたい理由は、これらの制度には3つの税制上のメリットがあるからです。順に見ていきましょう。
(1)掛け金が非課税
企業型DCでは、給与として受け取る場合にかかる税金や社会保険料がかかりません。またiDeCoの場合は、掛け金として拠出した全額が所得控除の対象になりますから、年末調整や確定申告で手続きをすることで税金を取り戻すことができます。
(2)運用益が非課税
通常、株式や投資信託(投信)などの金融商品で運用して収益を上げると、約20%の税金が取られてしまいます。例えば、投資した個別株が値上がりして50万円の売却益が出た場合、約10万円の税金を納める必要があるため、手元に残る運用益は約40万円になってしまうわけです。
一方、企業型DCやiDeCoで投資をすれば、投信の運用益はまるまる利益として手元に残ります。
(3)受給時に各種控除が適用される
企業型DCもiDeCoも受け取る時は税金が発生しますが、税制面での優遇があるため、受け取り方に応じて各種控除が適用され、税金が安くなります。
なお、ここでひとつ注意していただきたいことがあります。それは、企業型DCとiDeCoはどちらも年金づくりを目的とした制度なので、運用したお金は60歳以降でないと受け取ることができないという点です。
税制上のメリットがあるからと、手元のお金を企業型DCやiDeCoに上限額ぎりぎりまで拠出していたら、「急にまとまった額のお金が必要になったのに、iDeCoを途中解約できないことを初めて知り途方に暮れた……」なんてことのないように、あくまでも余裕資金の範囲内で拠出するようにしましょう。
使途が自由な「つみたてNISA」
iDeCoの拠出額は全額、所得控除の対象に。この税制上のメリットは大きい。
編集部撮影
上で述べたように、企業型DCやiDeCoはあくまで「年金づくりのための制度」なので60歳以降でなければ運用したお金を受け取ることはできませんが、「税制上のメリットもあって、かつ、いつでも解約できる」制度もあります。それが「つみたてNISA」です。
「つみたてNISA」は金融庁が管轄する制度で、長期資産形成をするよう国民に促すことを目的としてつくられたもので、20歳以上で国内に住んでいる人なら誰でも利用できます。
つみたてNISA口座を開設して「金融庁が定めた一定の条件を満たす投資信託(ETFを含む)」に積み立てで投資すると、投資金額(元本)年間40万円まで、投資した年から20年間にわたって運用益が非課税になります。
3つの制度をうまく組み合わせるのが正解
ここまでのポイントを押さえたら、各制度の税制メリットを最大限に活かしながら効率よく老後資金づくりをするために、具体的にどんなアクションをとればいいのかをお話ししましょう。
とるべきアクションは、企業型DC加入の有無によって以下の2つのパターンに分かれます。なお、会社員の方で、「勤務先の企業年金制度の有無や企業年金の種類が分からない」という方は、会社の人事・総務担当者に尋ねるか、就業規則や退職金規定を確認するなどして調べてください。
パターン1:「企業型DC」に加入している会社員
会社員で「企業型DC」に加入している人は、まず何よりも、企業DCで投資信託の積立をするのが最優先事項です。
そのうえで、次に検討すべきはiDeCo。企業型DC加入者の中でもiDeCoを利用できる人とできない人がいるので、自分がどちらなのかを確認し、利用可能であればiDeCoで投資信託の積立をしましょう。
iDeCoを利用したうえでさらに追加の積立が可能な人や、iDeCoを利用できない人は、つみたてNISAを利用して投資信託の積立をします。
なお、企業型DCだけで老後資金の準備が間に合うという人は多くはないはずなので、iDeCoやつみたてNISAの利用は積極的に検討すべきです。
パターン2:「企業型DC」非加入の会社員、自営業、公務員
会社員だけれど勤務先が企業型DCに加入していない場合や、公務員や自営業の方の場合、最優先すべきはiDeCoで投資信託の積立をすることです。
iDeCoを利用したうえで、追加で積立可能な人は、つみたてNISAを利用して投資信託の積立をします。
上記のパターン1、パターン2とも、さらに余裕があるという方は一般(課税)口座での積立を検討しましょう。
(出所)モーニングスター作成。
さて、ここまでで「企業型DC」「iDeCo」「つみたてNISA」をどう組み合わせて活用すればいいのか、自分がとるべきアクションが分かったはずです。もしかしたら読者の中には、早くも「具体的にどんな金融商品を選べばいいのだろう」という疑問が浮かんでいる人もいるかもしれません。
私は仕事柄、「老後資金づくりにはどんな方法がお勧めですか?」と尋ねられることがよくありますが、答えはいつも同じ。上に述べてきた「企業型DC」「iDeCo」「つみたてNISA」という3つの制度を組み合わせて、投資信託(投信)を積み立てることをお勧めしています。その理由は? これについては、次回詳しくお話しすることにしましょう。
※明日に続く
(構成・千葉はるか、撮影・竹井俊晴、編集・常盤亜由子)
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朝倉智也:モーニングスター社長。1966年生まれ。1989年、慶應義塾大学文学部卒。銀行、証券会社にて資産運用助言業務に従事した後、1995年、米国イリノイ大学経営学修士号取得(MBA)。その後、ソフトバンク財務部で資金調達・資金運用全般、子会社の設立および上場準備を担当。1998年、モーニングスター設立に参画、米国モーニングスターでの勤務を経て、2004年より現職。著書に『〈新版〉投資信託選びでいちばん知りたいこと』『一生モノのファイナンス入門』『ものぐさ投資術』『マイナス金利にも負けない究極の分散投資術』など多数。
千葉はるか:一橋大学法学部卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)入社。「日経マネー」「日経ゼロワン」で編集記者職に従事した後、リクルートに転職。「就職ジャーナル」の編集、マーケティング等を手掛ける。2008年にエディトリアルデザイナー・イラストレーターの姉と共に会社を設立し独立。フリーランスライター・編集者として書籍、雑誌、ウェブサイト等の制作に携わっている。