撮影:竹井俊晴
前回は、老後資金づくりにぜひ活用してほしい「企業型DC」「iDeCo」「つみたてNISA」の特徴、3つの制度の組み合わせ方についてお話ししました。これら3つの制度ではいずれも、投資信託(投信)を積み立てて資産を運用するのがお勧めです。
そこで今回は、そもそも投信とはどんな金融商品なのかを解説し、老後資金づくりに投信の積み立てをお勧めする理由を、モーニングスター代表の朝倉智也さんに解説していただきます。
投信なら運用をプロに任せられる
資産運用にはいくつか方法がありますが、私がお勧めするのは投資信託による積み立てです。
投信とは、資産運用を生業とする会社が、個人から小口の資金を集めて合同運用する金融商品です。集められた資金は、“運用のプロ”であるファンドマネジャーがさまざまな資産(ここで言う「資産」とは、株式や債券などお金を投じる先のこと)に投資して運用してくれます。
投信の大きな魅力は、少ない金額からでも購入でき、世界中の株式や債券などの多様な資産に分散投資できる点にあります。個人がこれをやるのは知識や手間から言ってもほぼ不可能ですが、投信は多くの人から資金を集めてまとめて運用するため、数十〜数千種類もの銘柄を組み入れることができるのです。投信を購入すると、ファンドマネジャー(運用会社)が運用して出た利益を、投資した分に応じて得ることができます(図表1)。
投信は少額から手軽に買えるだけでなく、うまく活用すれば、王道の資産運用を実践する手段となります。
ここで言う「王道」とは、世界中のさまざまな資産にお金を投じ、世界全体から「経済成長の果実」を得ること。世界の国々は、絶えず経済が成長するよう努力を重ねており、これまでの歴史を振り返れば、バブルのような“大きな山”やリーマンショックのような“深い谷”も経験しながら、着実に経済成長を遂げてきました。
世界全体のGDPの推移をグラフで見れば、基本的に右肩上がりになっていることが一目瞭然です(図表2)。そしてこの間、世界の株式の時価総額も大きく上昇してきました。つまり世界の経済規模の成長に伴い、世界の株式市場も規模を拡大させてきたわけです。
このような世界の経済成長の波に乗り、世界中の企業の株式や債券に投資することでお金を増やそうというのが「投資の王道」の考え方です。
もちろん、経済の成長は一時的に停滞することもあります。また、国や地域によって成長の速度は異なり、ときにはマイナス成長に陥る場面もあるものです。しかし、各国が努力し続けている以上、世界全体では長い目で見れば経済成長が続くと考えるのが自然ではないかと思います。
「長期・分散・積立投資」でリスクを下げる
投資をしようかどうか決めかねている方の中には、「リスクをとるのは嫌だ」と考えている人もいるかもしれません。一般にはリスクという言葉は「危険性」という意味で使われていますから「危ない目に遭いたくない」と思うのも無理はないでしょう。
しかし投資の世界では、リスクは「危ない」という意味ではなく、「収益のブレ(振れ幅)」のことを言います。原則としてリスクとリターンは表裏の関係にあり、リスクが低い商品を選べば期待できるリターンは低くなり、高いリスクをとる商品でしか高いリターンは期待できません。
例えば、銀行預金のように値動きがなくリターン(利息)が一定の金融商品は「リスクゼロ」ですが、それより高いリターンを目指すなら、リスクをとる必要があるということです。この原則を踏まえたうえで、「リスクを抑える運用方法」を実践することが重要なのです。
では、「リスクを抑える運用方法」とはいったい何なのでしょうか?
一言で言えば、「長期・分散・積立投資」です。金融庁も「投資のリスクを可能な限り軽減しつつ、安定的な資産形成を行うためには、長期の積立・分散投資が有効」としていますから、「長期・分散・積立投資」は金融庁お墨付きのやり方だと言ってよいでしょう。
運用期間が長いほどリスクは下がる
まずは「長期投資」についてですが、過去のデータから、投資では運用期間が長ければ長いほど価格のブレ幅が小さくなることが分かっています。つまり運用期間を十分に長く取れば、リスクを抑えて安定的な収益を目指せるわけです(図表3)。
運用は最低でも5年、できれば10年以上の期間をかけ、できるだけ長く続けていくことがリスクを抑えるためのポイントの1つです。この点、20〜40代の方であれば老後資金づくりに向けて運用期間を10年以上とることができますから、リスクを抑えた投資は十分に可能だと言えます。
値動きの異なる資産を組み合わせる効果
「分散投資」という言葉を聞いたことはありますか?
例えば手元に投資に回せるお金が100万円あるとして、1つの金融商品に100万円全部を投資するのではなく、「金融商品Aに40万円、金融商品Bに30万円、金融商品Cに30万円」というふうに、値動きの異なるものに100万円を配分して投資することを分散投資と言います。
国内外の株式や債券はそれぞれに値動きが異なり、例えば国内株式が上昇する時には国内債券の価格は下落しやすいといった傾向があります。この特徴を生かして、値動きが異なる資産を合わせ持つと、たとえある資産の価格が下がっても、そのマイナス分を他の資産の価格上昇で補うことができます。
このため、分散投資をすることが、保有資産全体の「価格のブレ=リスク」を抑えることにつながるわけです。
なお、さまざまな資産に分散する際、株式のようにリスクが高い資産の割合を高めれば保有資産全体のリスクは高まり、逆に債券のようにリスクが低い資産の割合を高めれば保有資産全体のリスクは低くなります。
分散投資の重要性は、資産別の年次リターンを見るとよく理解できます。
図表4をご覧ください。これは国内株式、先進国株式、新興国株式、国内債券、先進国債券、新興国債券、国内リート、先進国リートの8つの資産について、2009〜2018年の10年間、「その年に各資産に投資をした場合、リターン(収益率)が高かった順番」に並べたものです。リターンが最も高い資産が、毎年のように入れ替わっていることが分かるでしょう。
このような相場の動きを事前に予測することは、投資のプロであっても不可能です。だからこそ「次にどんな資産の価格が上昇(下落)するかは予測できない」という前提に立ち、どの資産が上昇してもいいように、幅広く世界の資産に投資する「分散投資」が大切なのです。
目先の価格が下がるものも上がるものも、とにかく幅広く買っておけば、トータルで「世界経済の成長」という“果実”を狙うことができます。
積立投資で買付価格を均す
「積立投資」とは、「毎月◯日に3万円ずつ」というように定時定額で投資をすることです。積立投資をすると、価格が高い時は少なく、価格が安い時には多く買うことになります。どういうことか、例を使って考えてみましょう。
例えば、ある投信を毎月1万円ずつ、5カ月間積立投資するとします。この時、投信の基準価額が1万円→5000円→1万2500円→8000円→1万6000円と変動したケースを考えてみましょう。
最初の月は基準価額が1万円なので、買える口数は1口。その次の月は、基準価額が下がって5000円になったので、1万円で2口。同様に、3カ月目は0.8口、4カ月目は1.25口、5カ月目には0.625口買うことになります。
この場合、投資額は5万円で、買えた口数は5.675口となります。1口あたりの平均投資額は、「5万円÷5.675口=8810円」です。
一方、もし「毎月1口ずつ」を買い続けた場合は、5カ月かけて5口買うのに「1万円+5000円+1万2500円+8500円+1万6000円=5万1500円」投資することになり、1口あたりの平均投資額は「5万1500円÷5口=1万300円」になります。
こうして具体例を見ると分かるように、「一定額ずつ」買う方法では、1口あたりの基準価額が安い時には口数を多く買い、高い時には少なく買うことにより、いわゆる「高値づかみ」をすることなく効率的に「口数」を増やすことができるのです。このように、投資のタイミングを分散する投資法を「ドル・コスト平均法」と呼びます。
「価格が5000円のときに5万円分を買えれば一番いいのに……」と思うかもしれませんが、値動きのある運用商品を買う場合、いつが「お買い得」なのかを見極めるのは非常に難しいものです。「今こそ安値だ、たくさん買っておこう」と思っても、そこからさらに値下がりすることも十分に考えられます。そして、そのような“賭け”をしようとすれば、「今は買うべきか、買うべきではないのか」と悩むことになるでしょう。
仕事に邁進すべき働き盛りのビジネスパーソンにとって、「安い時を狙って買う投資」は現実的ではありません。投信を買うのは、「機械的に一定額ずつ買う」積立投資が最も合理的な方法なのです。
運用期間を長くとることができる20〜40代のみなさんに、「老後資金づくりには投信での積立がお勧め」だと私が言う理由がお分かりいただけたでしょうか?
次回はいよいよ、投信の中でもどんな商品を選んで積み立てていけばよいのかを解説することにしましょう。
※明日に続く
(構成・千葉はるか、撮影・竹井俊晴、編集・常盤亜由子)
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朝倉智也:モーニングスター社長。1966年生まれ。1989年、慶應義塾大学文学部卒。銀行、証券会社にて資産運用助言業務に従事した後、1995年、米国イリノイ大学経営学修士号取得(MBA)。その後、ソフトバンク財務部にて資金調達・資金運用全般、子会社の設立および上場準備を担当。1998年、モーニングスター設立に参画、米国モーニングスターでの勤務を経て、2004年より現職。著書に『〈新版〉投資信託選びでいちばん知りたいこと』『一生モノのファイナンス入門』『ものぐさ投資術』『マイナス金利にも負けない究極の分散投資術』など多数。
千葉はるか:一橋大学法学部卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)入社。「日経マネー」「日経ゼロワン」で編集記者職に従事した後、リクルートに転職。「就職ジャーナル」の編集、マーケティング等を手掛ける。2008年にエディトリアルデザイナー・イラストレーターの姉と共に会社を設立し独立。フリーランスライター・編集者として書籍、雑誌、ウェブサイト等の制作に携わっている。