撮影:竹井俊晴
この集中連載では、第1回では「企業型DC」「iDeCo」「つみたてNISA」の3つの制度を組み合わせた老後資金づくりの考え方を、第2回では投信を活用した「長期・分散・積立投資」のメリットを紹介してきました。
今回はいよいよ、具体的にどんな商品を選んで積み立てていけばよいのかを、モーニングスター社長の朝倉智也さんに教えていただきます。
「商品選び」より大事な「資産配分」
現在、国内には6000本を超える投資信託(投信)があります。いざ「長期・分散・積立投資」を始めるとして、その6000本の中からいったいどうやって自分に適した商品を選べばいいのか、戸惑う人は少なくないでしょう。
しかしポイントを押さえてしまえば、みなさんが積み立てるべき投資は簡単に絞り込むことができます。まずはその方法を説明しましょう。
もしかしたらみなさんの中には、投資する場合は「どの投信を選ぶか」が一番大切だと思っている方が少なからずいらっしゃるかもしれません。しかし実は、資産運用の世界では「個別の金融商品の選定が投資成果に与える影響は2割程度。8割は資産の配分で決まる」と言われています。
「どのような資産にどれくらいの割合でお金を割り振るか」という資産配分を決めることは、投資においては外せない重要なステップなのです。
資産配分を決めるには、次のようなステップで考えるのがいいでしょう。
- いつまでにいくらの資産をつくりたいのか
- いくら投資できるのかを確認する
- 投資できる額をもとに、どれくらいの運用利回りが必要かを計算する
- その運用利回りを達成するには、どんなポートフォリオ(資産の組み合わせ方)にすればよいかを考える
今回は、読者のみなさんが老後資金づくりを目的とする20〜40代の方々であり、10年超の長期投資をするという前提に立って、5%程度の運用利回りを目指すことにしましょう。
仮に、今現在30歳の人が、5%の運用利回りで月々3万円ずつ30年間積立をした場合、60歳を迎える頃には2500万円近くの資産になる計算です(図表1)。
「10年超の長期投資が可能で、5%の運用利回りを目指す」という条件なら、私は株式100%のポートフォリオをお勧めします。具体的な資産配分は「国内株式20%、先進国株式50%、新興国株式30%」です。もし仮に月々3万円を積立に回せるなら、それぞれの資産へのお金の振り分けは図表2のとおりとなります。
編集部作成
このポートフォリオでは、国内資産よりも海外資産の割合を多くし、新興国株式も積極的に組み入れています。海外資産の割合を多くしているのは、日本は今後も低成長が続きそうなことが理由です。先進国の中でも日本の経済成長率が低いことは、みなさんご存じでしょう。
世界の企業を時価総額(株価×発行済み株式数)でランキングすると、上位はアルファベット(グーグルの持ち株会社)やアップル、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾンといったアメリカのIT企業が占めています。
一方、国内に目を転じれば、日本の時価総額上位企業はトヨタ自動車のような大手メーカーや三菱UFJフィナンシャルグループのような金融グループが中心であり、新たな成長産業を生み出せていないこともうかがえます。
残念ですが、「今後の成長が期待できる地域に投資し、その成長の果実を得る」という観点では、日本への投資の割合は控えめにせざるを得ないでしょう。
新興国の組み入れ比率を高めにしているのは、長期で資産形成を目指す場合、長い目で見て大きく成長する地域にこそ積極的に投資していくべきだと考えるからです。
一般に言われるように、新興国への投資はリスクが大きいことは間違いありません。しかし、10年、20年、30年後に向けて資産を育てていく場合、長期的な成長余力がより大きな地域に投資することが、資産を守り育てることにつながるはずです。新興国の成長のポテンシャルの高さを考えれば、投資先としてこれを取り込まない手はありません。
さて、資産配分を押さえたところで、いよいよ具体的な商品選びのポイントを見ていきましょう。
企業型DC、iDeCo、つみたてNISAのいずれの制度で積立をする場合も、商品選びの主な条件は2つだけ。「(1)コストが安いこと」「(2)インデックスファンドであること」です。以降で、この2つのポイントについて詳しくお話ししましょう。
投信選びで注目すべきは「コスト」
1つめのポイントは「コストが安いこと」。これがどれほど大切なことか、分かりますか?
投信で資産運用する際は、関係する会社(販売会社、運用会社、管理会社)に対して手数料を払う必要があります。
企業型DC、iDeCo、つみたてNISAの商品選びで注目すべきは「信託報酬」という手数料です。これは運用会社や販売会社、信託銀行に支払う手数料のことで、簡単に言えば「運用に携わる人たちに毎年支払う“手間賃”」。保有している間は信託財産から日割りで自動的に差し引かれるため、コストとして認識しづらいのですが、これが運用のパフォーマンスを大きく左右します。
具体例で見てみましょう。
運用利回り3.5%の2つのファンドがあり、Aファンドは信託報酬が0.5%、Bファンドは信託報酬が1.5%だったとします。この場合、最終的に手元に残るのは、Aファンドが「運用利回り3.5% − 信託報酬0.5% = 3.0%」、Bファンドは「3.5%−1.5%=2.0%」となり、最終的なパフォーマンスはAファンドのほうが1.0%高くなります(図表3)。
ここでみなさんに知っておいていただきたいのが、「複利運用」の考え方です。
資産運用の世界では、投資した元本だけに利息がつくのを「単利」、「元本+利息」にさらに利息がつくのを「複利」と呼びます。資産を大きく増やすためには、投資したお金を「複利」の考え方で運用することがとても大切です。
投資してお金が増えたら、増えた分もさらに投資に回す——この「複利」の考え方で運用すると、一見小さなパフォーマンスの違いが、長期では大きな差を生むことになります。実際、先ほどのAファンドとBファンドに100万円を投資して30年間複利で運用したとすると、1.0%のパフォーマンスの違いにより、およそ62万円もの差がつくのです(図表4)。
モーニングスター作成
せっかく高い利回りを達成しても、信託報酬が高くては意味がありません。このグラフを見れば、信託報酬が十分に低い投信を選ぶことがいかに大切かがお分かりいただけるでしょう。
「インデックスファンド」をお勧めする理由
次に「インデックスファンドであること」という条件について見ていきましょう。
投信は、運用方法に着目すると「インデックスファンド」と「アクティブファンド」の2つに分類できます。インデックスファンドとは、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)といった指数(インデックス)をベンチマークとし、値動きが指数に連動するように運用する、非常に分かりやすい投信です。
例えば日経平均株価に連動するタイプの国内株式ファンドなら、日経平均株価を構成する225銘柄に投資するとイメージしてください。インデックスファンドを買うのは「市場全体」を保有するのと同じ意味があり、多くの銘柄に偏りなく分散投資できるのが特徴のひとつと言えます。
インデックスファンドは、日々のインデックスに投信の値動きを合わせるようにプログラムされたシステムによって運用されるため、同じ指数に連動する商品ならどの商品を選んでも運用成績は同じだと考えて差し支えありません。
インデックスファンドは、組み入れ銘柄の選定のための調査などに手間をかける必要がありません。このため運用にかかるコストが小さく、信託報酬が低い商品が多いのも特徴のひとつです。運用には差がないので、インデックスファンドの商品選びは信託報酬をチェックするのが最も重要なポイントとなります。
「長期の資産運用ではとにかくコストを抑えることが大事」と朝倉さん。
撮影:竹井俊晴
一方、アクティブファンドとは、インデックスを上回る運用成績を目指して運用されるものを言います。ファンドマネジャーやアナリストをはじめとする多くの人が、銘柄選定や投資のタイミングに日々の時間を費やしています。ファンドマネジャーによる企業調査など運用に手間がかかる分、コストはインデックスファンドに比べて高くなりがちです。
また、アクティブファンドの運用成績は運用方針やファンドマネジャーの手腕次第です。ということは、アクティブファンドを選ぶ場合はコストだけでなく、ファンドの運用方針や過去の運用成績など、さまざまな観点から細かくチェックする必要があるということになります。
じっくり選べば優れた商品も見つかるのですが、残念ながら運用成績がインデックスファンドを下回るものも多く、選び出すのはなかなか骨が折れる作業です。そのうえ、アクティブファンドは投資を始めた後も運用状況をウォッチする必要がありますから、忙しい現役世代の方には向きません。
インデックスファンドの「コストを抑えた運用ができる」「市場全体を保有するので多くの銘柄に分散投資ができる」「優秀なアクティブファンドを探す手間と時間が省ける」というメリットを考えると、投資初心者をはじめ幅広い人にとってベストな選択肢はインデックスファンドなのです。
3つのインデックスファンドを組み合わせる
企業型DC、iDeCo、つみたてNISAのどの制度で投信を積み立てる場合も、商品は「信託報酬が低いインデックスファンド」を選べばOKです。商品ラインナップを見て、「国内株式インデックスファンドで最も信託報酬が低いもの」「日本を除く先進国全体に投資する株式インデックスファンドで最も信託報酬が低いもの」「新興国株式インデックスファンドで最も信託報酬が低いもの」を選び、先ほどお話ししたとおり、20%、50%、30%の割合で積み立てましょう。
例えばSBI証券の「iDeCoセレクトプラン」の商品ラインナップ(※1)を見てみましょう。
(出所)SBI証券サイトより
インデックスファンドで信託報酬が低いものをピックアップすると、
【国内株式ファンド】
- ニッセイ日経平均インデックスファンド(信託報酬0.154%以内)
- eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)(信託報酬0.154%以内)
【先進国株式ファンド】
- eMAXIS Slim 先進国株式インデックス(信託報酬0.10989%以内)
- ニッセイ外国株式インデックスファンド(信託報酬0.10989%以内)
【新興国株式ファンド】
- SBI・新興国株式インデックス・ファンド(信託報酬0.196%以内)
となります。国内株式ファンド、先進国株式ファンドは選択肢が2つありますが、信託報酬が同じであればどちらを選んでもかまいません。
もうひとつ、楽天証券のケースも見ておきましょう。
(出所)楽天証券サイトより
楽天証券の「楽天証券iDeCoセレクション(※2)」の中から、先ほどと同じようにインデックスファンドで信託報酬が低いものをピックアップすると、以下のとおりとなります。
【国内株式ファンド】
- 三井住友・DCつみたてNISA・日本株インデックスファンド(信託報酬等0.176%)
【先進国株式ファンド】
- たわらノーロード先進国株式(信託報酬等0.10989%)
【新興国株式ファンド】
- インデックスファンド海外新興国(エマージング)株式(信託報酬等0.605%)
楽天証券のラインナップでは、信託報酬を含む手数料の低さで比較すると選択肢はどの資産でも自ずと1本に絞られるので、迷うことはなさそうです。
手間を避けるなら全世界株式型1本
なお、もし商品ラインナップの中に、日本を含む世界中の株式に分散投資する「全世界株式インデックスファンド」があれば、それ1本だけを選んで積み立てるのも選択肢のひとつです。
先ほど例として挙げたSBI証券「iDeCoセレクトプラン」の中では「SBI・全世界株式インデックス・ファンド」(信託報酬0.1102%程度)が、楽天証券「楽天証券iDeCoセレクション」の中では「 楽天・全世界株式インデックス・ファンド 」(信託報酬等0.212%)がこれにあたります。
このタイプの商品を選ぶと、私が推奨する「国内株20%、先進国株50%、新興国株30%」の資産配分にはなりませんが、「とにかく手間をかけずに1つの商品で済ませたい」という方にはお勧めです。
ここまでで投信選びのポイントが分かったら、企業型DCに加入している人は、会社が決めている商品ラインナップの中から、できるだけ低コストのインデックスファンドを選んで積立を始めましょう。
次回は、iDeCoとつみたてNISAを利用する人のために、より具体的な「積立投資の始め方」、そして運用を始めた後にやるべきことを解説します。
※1、※2 ここで取り上げる商品ラインナップは本稿執筆時点のものです。
※明日に続く
(構成・千葉はるか、撮影・竹井俊晴、編集・常盤亜由子)
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朝倉智也:モーニングスター社長。1966年生まれ。1989年、慶應義塾大学文学部卒。銀行、証券会社にて資産運用助言業務に従事した後、1995年、米国イリノイ大学経営学修士号取得(MBA)。その後、ソフトバンク財務部で資金調達・資金運用全般、子会社の設立および上場準備を担当。1998年、モーニングスター設立に参画、米国モーニングスターでの勤務を経て、2004年より現職。著書に『〈新版〉投資信託選びでいちばん知りたいこと』『一生モノのファイナンス入門』『ものぐさ投資術』『マイナス金利にも負けない究極の分散投資術』など多数。
千葉はるか:一橋大学法学部卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)入社。「日経マネー」「日経ゼロワン」で編集記者職に従事した後、リクルートに転職。「就職ジャーナル」の編集、マーケティング等を手掛ける。2008年にエディトリアルデザイナー・イラストレーターの姉と共に会社を設立し独立。フリーランスライター・編集者として書籍、雑誌、ウェブサイト等の制作に携わっている。