撮影:竹井俊晴
老後資金づくりのために利用すべき制度と投信選びのポイントが分かったら、あとは実際に積立投資をスタートするだけ。企業型DCに加入している人は、前回までの内容を参考に、加入先の商品ラインナップを確認して低コストの「インデックスファンド」で積立を始めればOKです。
今回は、iDeCoとつみたてNISAを利用する人のために、より具体的な「積立投資の始め方」、そして運用を始めた後にやるべきことをモーニングスター社長の朝倉智也さんに教えていただきます。
毎月いくら積立に回せる?
積立投資を始める前に確認しておきたいのは、「手持ちの現預金がどれくらいあるか」です。けがや病気で手術・入院をすることになったり、突然会社が倒産して職を失ってしまったりといった緊急事態に対する備えができていない人は、老後への備えを考える前に、最低限の現預金を手元に貯めておく必要があります。
目安として「月収の6カ月分」を確保したうえで、余ったお金を使って老後資金づくりのための積立投資をスタートしましょう。
「手元にある程度の現預金があり、積立投資を始められる」という人は、まず「毎月、積立にいくら回せるか」を確認してください。
積立に回せる金額が自分のiDeCoの拠出可能上限より少ない場合は、全額をiDeCoで積み立てることにします。「iDeCoの拠出可能上限いっぱいまで利用して、さらに積み立てる余裕がある」という方やiDeCoに加入できない方は、つみたてNISAを利用しましょう。
自分のiDeCo拠出可能上限は個人個人で異なります。ご自身の上限額を調べるには、この連載第1回でもご紹介した、次の図表を参照してください。
例えば、会社員Aさんのケースを考えてみましょう。Aさんは、月々の積立可能な額が3万円、勤務先では確定給付型の企業年金のみに加入しているとします。
Aさんの場合、iDeCoへ拠出可能な上限は1万2000円。積立に回せるお金3万円のうち、1万2000円分はiDeCoに回し、残った1万8000円はつみたてNISAで積み立てるのがお勧めということになります。
編集部作成
つみたてNISAの枠は年間40万円までなので、毎月およそ3万3000円まで積立可能です。もちろん、枠いっぱいまで使う必要はありませんから、「iDeCoで拠出可能上限いっぱいまで積み立てて、つみたてNISAは月5000円ずつ」といった利用もできます。
なお、すでに課税(一般)口座で投信の積立をしている方は、既存口座は積立をやめて保有したまま運用を継続しつつ、改めてiDeCoやつみたてNISAを始めるといいでしょう。
本連載第3回で「複利」の考え方を紹介しましたが、運用中のお金は、運用益を再投資することで雪だるま式に大きくしていくことができます。使う予定もないのに売却すれば運用益の約20%が課税されてしまいます。これでは、せっかく運用できる資産を減らすことにしかなりません。
口座を開く金融機関はどうやって選べばいい?
iDeCoとつみたてNISAは、自分で金融機関を選んで口座を開設する必要があります。
iDeCoを取り扱う金融機関には、銀行、信託銀行、証券会社、保険会社、信用金庫、労働金庫などがあります。複数の金融機関でiDeCo口座を開くことはできず、「1人あたり1つの金融機関のみ」です。
iDeCo口座については、金融機関によって口座の維持・管理などにかかるコスト、選べる商品の数やその中身、サービス内容などに大きな違いがあります。
例えば、iDeCoの口座を開くと毎月一定の手数料が必要になり、その額は金融機関によって差があります。一定条件のもとで0円になる金融機関もあれば、高めのところでは月額約500円、年間でおよそ6000円近くかかるところもあります。さらに、商品ラインナップが古かったり、取り扱っている投信の信託報酬が高いものが多かったりする金融機関も見受けられます。
口座を開く金融機関は、手数料や商品ラインナップを重視して選ぼう。
撮影:今村拓馬
運営管理機関は加入期間中に変更することもできますが、基本的には長く付き合っていく相手ですから、口座の維持・管理コストが安く、選べる商品に「低コストインデックスファンド」がラインナップされている金融機関を選ぶべきでしょう。
一方、つみたてNISAについては、口座の維持・管理手数料はかかりません。取扱商品は金融機関によって異なりますが、金融庁が指定した低コストな投信しか制度の対象になっていませんから、金融機関選びに神経質になる必要はありません。付き合いのある銀行などで口座を開設するのもひとつの方法です。
なお、iDeCoの口座もつみたてNISA口座も、低コストで運用できるインデックスファンドが揃っていることやサービスの充実度、利便性などを重視するなら、ネット証券大手のSBI証券か楽天証券を優先して検討するのがよいと思います。
いざ始めたらマイナスになっても気にしない
積立は、一度スタートしたら日々ウォッチする必要はありません。大事なのは、とにかく10年以上の長期運用を継続すること。一番やってはいけないのは、基準価額が下がって運用中の資産額が積み立てた投資額を下回った時、「投資なんてやめておけばよかった」と考えて売却してしまうことです。
図表4をご覧ください。これは投信の基準価額が1万円の時に運用をスタートし、その後7年間、基準価額が下がり続けて2000円まで下落した後、運用10年目で5000円に戻ったケースです。
モーニングスター作成
基準価額1万円の時に120万円を一括投資すれば、10年後の運用資産は半値の60万円になってしまいます。一方、この10年間、毎月1万円ずつ総額120万円を積立投資した場合、平均買い付け単価は4310円に抑えられ、運用資産は139万円になります。つまり、プラス16%の利益が得られるのです。
これは、値下がりすればするほど「量」を多く買えるという積立投資の効果によるものです。基準価額が1万円から2000円へと下落し続ける間、積立投資を継続していれば毎月買える「量」はどんどん増えていきます。言い換えれば、値下がりは「安い値段で口数を貯められるチャンス」なのです。
安くたくさん買っておければ、それだけ利益は出しやすくなります。値下がりしている時期に積立を継続していれば、少し基準価額が戻っただけで運用成績がプラスになるケースが多いのです。
運用期間中に運用額が投資額を下回る時期は、必ずあるものです。しかしそのような時こそ「今はたくさん買えている時期だ」と前向きにとらえ、積立を継続しましょう。
資産配分が大きく崩れたら「リバランス」を
長期での運用中は日々の値動きに一喜一憂する必要はない。ただし年に1度、資産配分のバランスが崩れていないかだけはチェックしよう。
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積立投資では日々のチェックは不要ですが、複数のインデックスファンドを組み合わせて運用する場合、時々ポートフォリオを自分でメンテナンスする必要があります。というのも、時間の経過とともにある資産が値上がりしたり、別の資産が値下がりしたりすることで、資産配分のバランスが崩れてくるからです。崩れたバランスを直すことを、「リバランス」と言います(※1)。
※1 なお、全世界株式インデックスファンドを選んで1本だけで積立をする場合、資産配分はファンド内で自動的に調整されるためリバランスの必要はありません。
「国内株式20%、先進国株式50%、新興国株式30%」という割合でインデックスファンドを組み合わせて運用する場合は、年1回、資産構成を確認しましょう。数パーセント程度であれば割合が崩れていてもそのままでかまいませんが、10%以上のズレが生じていたらリバランスを行います。
企業型DCやiDeCoの場合、リバランスには2つの方法があります。1つは「拠出金の配分変更」です。例えば運用を始めて1年後、国内株式が大きく値下がりして資産全体の10%になり、新興国株式が値上がりして40%になったとしましょう。このような場合は、拠出金を「国内株式40%、先進国株式50%、新興国株式10%」に配分するよう変更し、少しずつリバランスが進むようにしてください。
もう1つの方法は、値上がりしたもの(この場合は新興国株式)を売却し、値下がりしたもの(この場合は国内株式)を買う「スイッチング」で資産配分を調整する方法。配分変更でもスイッチングでも、手数料はかかりません。
つみたてNISAの場合、年間で投資可能な「40万円」の枠は再利用できないので、「リバランスのために一部を売却する」という方法は使えません。このため、つみたてNISAで運用中のポートフォリオが崩れてきた場合は、各投信への積立額を変え、比率が下がっている投信を多く、比率が上がっている投信は少なく買うようにします。資産配分が当初のポートフォリオに近づいたら、積立額を元に戻しましょう。
これまで4回にわたり、投信の積立で老後資金づくりをする方法をお話ししてきました。「将来のお金の不安はあるけれど、何から手をつけたらいいか分からない」という方も、最初の一歩として具体的に何をすればいいのかイメージが湧いたのではないでしょうか。
折しも、新型コロナウイルスの大流行が各国の経済を直撃し、世界の株式市場が大きく揺らいでいる時期。このようなタイミングでは「値下がりするのが怖いから」と、多くの人が投資を手控えてしまうものです。
しかしこの連載でもお話ししてきたように、ドル・コスト平均法による定額の積立投資なら、株価が大きく下げている時こそ「量」を買い付けるチャンスです。老後資金づくりは「相場が戻るまで待とう」ではなく、不安が募る今だからこそ始め時ととらえ、ぜひ長期でコツコツと継続してください。その持続力が、あなたのリタイア後の人生を力強く守ってくれるはずです。
撮影:竹井俊晴
(了)
※明日から2回にわたり、ファイナンシャルプランナー内藤眞弓さんに聞く「お金の不安の減らし方」をお届けします。
(構成・千葉はるか、撮影・竹井俊晴、編集・常盤亜由子)
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朝倉智也:モーニングスター社長。1966年生まれ。1989年、慶應義塾大学文学部卒。銀行、証券会社にて資産運用助言業務に従事した後、1995年、米国イリノイ大学経営学修士号取得(MBA)。その後、ソフトバンク財務部で資金調達・資金運用全般、子会社の設立および上場準備を担当。1998年、モーニングスター設立に参画、米国モーニングスターでの勤務を経て、2004年より現職。著書に『〈新版〉投資信託選びでいちばん知りたいこと』『一生モノのファイナンス入門』『ものぐさ投資術』『マイナス金利にも負けない究極の分散投資術』など多数。
千葉はるか:一橋大学法学部卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)入社。「日経マネー」「日経ゼロワン」で編集記者職に従事した後、リクルートに転職。「就職ジャーナル」の編集、マーケティング等を手掛ける。2008年にエディトリアルデザイナー・イラストレーターの姉と共に会社を設立し独立。フリーランスライター・編集者として書籍、雑誌、ウェブサイト等の制作に携わっている。