マスクを着用する人々。
REUTERS/Athit Perawongmetha
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、世界中でマスク不足が続いている。その状況を打破すべく、異業種からの参入など新たにマスク生産に乗り出す企業が増えている。
中国ではひと足早く、スマホメーカーのOPPOやVIVO、大手自動車メーカーの広州汽車集団、吉利汽車、BYD、エアコンメーカーの格力などが生産を始めた。
最近では、高級ファッションブランド「イヴ・サンローラン」「バレンシアガ」を展開するケリング・グループやプラダまでマスク生産に乗り出すとのことで、話題を呼んでいる。
シャープは鴻海の協力でマスク生産可能に
シャープは三重県の多気町にある工場で、マスクの生産を開始した。
提供:シャープ
日本も例外ではない。電機大手の「SHARP(シャープ)」が3月24日から、同社の三重(多気)工場で不織布マスクの生産を開始したことを発表した。
液晶パネルを製造している同工場のクリーンルームに空きスペースがあり、そこにマスク生産機器を購入して製造ラインを2つ新設した。当初は日産15万枚だが、今後日産50万枚を目指していくという。
なぜシャープでマスク生産が可能だったのか、シャープの広報は「あくまで弊社の場合ですが、生産に至った理由はクリーンルームがあること、そして、親会社である鴻海(ホンハイ)精密工業が先んじて2月からマスク生産を開始していたので、技術的な支援や装置の選定の面で協力してもらえたのが大きかった」と説明する。
鴻海はiPhoneの受託生産で有名なフォックスコン(富士康科技集団)を傘下に持ち、同社がすでにマスク生産に乗り出している。
シャープ製のマスクは3月下旬の出荷を予定し、まずは政府への納入を優先するものの、自社で展開するECサイト「SHARP COCORO LIFE」でも販売していく(価格未定)。
異業種からの参入は実は大変
マスクを大量生産するとなれば、当然生産設備が必要だが、安くはない(写真はイメージ)。
Tomohiro Ohsumi/Getty Images
シャープ以外にも、水着、女性用ストレッチパンツ、寝具など、アパレルメーカーや繊維産業に関わる企業が新たにマスク生産に乗り出している。一方で、そんなに簡単にマスク生産ができるのかという疑問もわいてくる。
マスクの業界団体である「日本衛生材料工業会」の担当者は、異業種からの参入について「参入しやすいということはない。クリーンルームは生産環境として適しているが、それがないから作れないわけでもない。それでも、衛生環境が基準を満たしている必要はある。工業会では会員企業を対象に定期的なチェックを行っています。異業種からの参入といっても、実質シャープくらいでは」と指摘した。
経済産業省は2月末から「令和元年度マスク生産設備導入支援事業費補助金」の対象事業者を公募した。応募した企業は、審査に通過して採択されると、「1ライン3000万円を上限に、中小企業であれば4分の3の補助、それ以外なら3分の2の補助」(経産省の担当者)を受けられる。
シャープ以外にも、既存の大手マスク生産メーカーの興和や明星産商などが、生産ラインの増設や機器の改修費用として補助を受けることが決まった。
この補助金は、基本的にはマスク生産を手がけている会社が設備投資を行うためのもの。もともとマスクメーカーではないシャープに補助金が認められたのは、やはり「マスク生産で実績のある鴻海とのコンソーシアムを組んでいるから」(経産省の担当者)だった。
シャープと同時に選ばれた採択事業者で、マスク生産を行っていない新規参入となると、産業用フィルターメーカー「ロキテクノ」や化粧品OEM製造の「ゼロ・インフィニティ」があるが、いずれもマスク生産に関わる企業とのコンソーシアムによるものだ。
マスク製造のために新規で製造機器を購入するとなると、最低でも数千万円はかかる(写真はイメージ)。
Tomohiro Ohsumi/Getty Images
また、マスクを大量生産するために製造機器を新規購入するとなると、1ラインあたり数千万円から、高いと1億円は超える。そうそう簡単に新規参入できるものではない。補助金がないと難しい。
愛知県に本拠を置くエンジニアリング会社のエアードはマスク製造機器の販売を手がけるが、担当者によるとここ最近、引き合いが激増しているという。
「それまで月に1、2度くらい、既存の取引先からの問い合わせしかなかったのですが、2月末からだけで国内外から合わせて1000件は新規の問い合わせがきました。ほぼお断りしました。機器の生産が追いつかないというのもありますが、それよりも『別のメーカーだが仕事がないので(マスク生産を)やれないか』というような、マスク生産を簡単に考えている方が多くて」
それでも、シャープを含めマスク生産に取り組む国内企業が増えているのは確かだ。経産省が補助金を採択した案件だけでも、5650万枚規模の増産が可能になる。3月下旬から徐々にだがマスク不足が解消されていくと思われる。
(文、大塚淳史)