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- アメリカの新型コロナウイルス流行の中心地となっているニューヨーク市では、多くの市民が街を離れて、郊外へと移動している。
- 専門家は、そうすることでニューヨーク市民が意図せず、十分な流行への備えが整っていない場所にウイルスを拡散する可能性があると懸念している。
- 専門家は、他のコミュニティーにウイルスを拡散するのを防ぐため、最近ニューヨーク市を離れた人は全員、14日間の自主隔離をすべきだとしている。
ニューヨーク市在住のイザベルさん(23)は、街で新型コロナウイルスの感染者が増加していることが心配になり始めると、不安な気持ちを振り払えなくなった。
3月13日、アムトラックに乗ったイザベルさんはその5時間後、両親とゴールデンレトリバーの「ミスターベアー」が住むバーモント州の田舎町に到着した。
「愛する人たちに囲まれていれば(わたしの不安の)助けになるかなと思って、そうしました」とイザベルさんはBusiness Insiderに語った。プライバシーを理由に、ラストネームを伏せることを条件に取材に応じた。
「どこにでも人がいる慌ただしい都会にいるのが不安になったというのも、街を離れた理由の1つです」
イザベルさんのように、アメリカの新型コロナウイルス流行の中心地となっているニューヨーク市では、多くの市民がウイルスから逃れようと街を離れている。窮屈なアパートから、広々とした、家族のいる、人混みを気にせず出かけられる場所へと移動しているのだ。
だが、医療専門家たちは、こうしたニューヨーク市民の移動を警戒している。こうした人々が意図せず、十分な対策が整っていない場所にウイルスを拡散する可能性があると懸念している。
広々としたスペースと快適さを求めて
Amtrak
ブルックリンに住んでいるノラさん(25)は、生活するにも、リモートワークをするにも広々としたスペースを求めて、街を後にしたと、Business Insiderに語った。ノラさんは3月15日、ルームメイトとルームメイトの彼氏と一緒に、ルームメイトの両親が所有する別荘のあるバーモント州キリントンに移った。
「『何週間も何カ月もこれが続くなら、離れ離れになるより一緒にいよう』って言われて、わたしも『(ブルックリンの)あの狭いアパートにわたしたち3人でいたら、殺し合いになるね』って言ったんです」とノラさんは話した。
ノラさんは、キリントンの住民に自分たち3人が新型コロナウイルスを拡散するのではないかと不安だったため、5日間は新鮮な空気を吸うために道路と家の間の私道を行ったり来たりするだけにして、あとは家の中にとどまっていたという。
イザベルさんは実家に戻った後、特にこうした安全策を取ったりはしなかったと話している。
「もちろん、3分おきに手は洗ってたし、両親の健康状態にはすごく注意してました」
「わたしたちは『何が起きても一緒よ』という気持ちでした。実家にいる間はある意味、普通を維持するために、わたしたちはお互いにハグをし合い、一緒に料理をしたかったというのが大きいです。わたしが体調の悪い状態でバーモントに帰ってきてたら、全然違った話になっていたとは思います」
街を離れるのが最善とは限らない
アメリカの新型コロナウイルスの感染者の多くはニューヨーク市に集中している。だが、他の場所でも感染者数は増えていて、その一部は"ニューヨークからの移動"のせいかもしれない。
3月24日にホワイトハウスで開かれた記者会見で、トランプ大統領の新型コロナウイルス対策顧問を務めるデボラ・バークス(Deborah Birx)博士は、安心を求めてニューヨークを離れる人々について懸念を示した。バークス博士は、ロングアイランドで最近、感染者が増えていることに触れ、ニューヨーク市民がウイルスを広げたことを示唆していると発言した。
「ここ数日以内にニューヨークを離れた全ての人に言います。感染者数の割合から見て、あなた方はニューヨークを離れる前にウイルスにさらされた可能性があります」
「ニューヨークにいた全ての人は、ウイルスを周りの人に広げないために、どこへ行こうと…… それがフロリダ、ノースカロライナ、またはロングアイランドであれ、今後14日間は自主隔離すべきです」
3月20日にニューヨーク州のクオモ知事が、原則として全ての民間企業の従業員に在宅勤務を要請すると、その後、ニューヨークからフロリダへ向かう直行便の数が増えたと、ポリティコは報じている。
病院のベッドが不足している場合も
ブルックリン在住のヘンリーさん(24)は、3月18日にニューヨークを離れ、ウィスコンシン州ミルウォーキーの郊外にある実家に車で帰ったと、Business Insiderに語った。ヘンリーさんもプライバシーを理由に、ラストネームを伏せることを条件に取材に応じた。
ヘンリーさんは、感染リスクを心配して街を離れたものの、病院の数が少なく、流行への備えが整っていない場所に行く危険性については一切考えたことがなかったという。ミルウォーキーの10万人あたりの集中治療室(ICU)のベッド数は全国平均より多いものの、多くの小さな町の場合、そうはいかない。
例えば、マサチューセッツ州にあるマーサズ・ヴィニヤード島の場合、病院は島に1つしかなく、ベッド数は25だと、ボストン・グローブ紙は報じている。その近くにあるナンタケット島にも病院は1つしかなく、ベッド数は14だ。
ニューヨーク市民が他の別荘地に移ったことで、食料品も供給不足になっている。ニューヨーク市民が州内のキャッツキル地方の夏の別荘に向かい始めると、1年を通じて現地に住んでいる住民は、ニューヨーク市民がいかに食料品店の陳列棚をからっぽにしているかに気付いたという。
「彼らはガソリンを給油し、食料品店で買い物をしています」とニューヨーク州アッシュランドに住むキム・ラングドンさん(48)はニューヨーク・タイムズに語った。
「もし彼らが感染していて、それに気付いていなかったら、全員を危険にさらしていることになります」
後悔はしていない
バーモント州キリントン。
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ニューヨーク市を離れることで危険が及ぶとしても、イザベルさんとノラさんは2人とも自分の決断に満足している。
「ニューヨーク市以外に行く場所のない人がたくさんいることは知ってるし、ここに実家があることを当たり前とはちっとも思ってません」とイザベルさんは話した。
「これが全部落ち着いたら、人生のあらゆることについて違った見方が生まれるのだろうと思います。今回のことで、自分がありがたいと思っていること全てに目を向けさせられたし、バーモントにあるこの小さな家もその1つです」
ノラさんは、人々がニューヨークを離れることや病院がいっぱいになってしまうかもしれないこと、自分が取った隔離措置が与える影響などを考えさせられたという。
「自分たちがウイルスを運んでいると考える理由はないけど、そうだとしても、だからこそわたしたちは注意してます」とノラさんは語る。
「感染するかもしれないけど、解熱鎮痛剤をたくさん飲んで家で寝てればわたしは大丈夫だと思う。他の人を病院送りにする危険は冒したくない」
(翻訳、編集:山口佳美)