全米の学校・大学でオンライン授業に移行、体育や音楽まで。課題は低学年やWi-fi環境

空の教室

新型コロナウイルスの拡大で、アメリカでも多くの学校が休校となった(2020年3月13日撮影)。

REUTERS/Kyle Grillot

新型コロナウイルスの感染拡大で、アメリカでは多くの大学や小中高が3月上旬から休校となった。しかし、全面休校は長くは続かず、3月23日からオンライン授業が本格化している。

公教育でも体育や音楽までカバーし、教師からの課題も多く出されるため、子どもが暇をもてあます状況は避けられているようだ。

朝一番に送られてくる課題リスト

「今となっては、学校の先生を尊敬しています。自分の娘だから面倒みるけど、通常の授業で先生は、20数人もの子どもに同時にこんなことをしていると思ったら……」

と語るのは、ヨガ・インストラクター、マリーズ・カルナラトネさん。ニュージャージー州の小中高一貫の公立校に通う3年生の長女トリニティちゃん(8)のオンライン授業を見た感想だ。

トリニティちゃんの1日は朝8時半、「グーグル・クラスルーム」にログインして教師に出席を知らせることから始まる。グーグル・クラスルームは、教師が生徒のグループをオンライン上に作り、学習のための素材を提供したりメッセージのやり取りができる仕組みだ。

朝一番に、1日の授業の課題リストが与えられる。

トリニティちゃんによると、オンラインで受けられる授業はリーディング、作文、算数、理科、社会、図書、美術、音楽、ウェルネス(=健康)、スペイン語の10科目。

朝のリストでは「9時まで算数」「10時まで作文」というように、一応時間割はあるが、算数や理科などの課題や作文など、できたものから次々に教師にオンラインで提出する。パソコン上で書き込んだ答えや作文は、クリック1つで教師に送信できる。

課題をこなしている間に質問があれば、先生にメッセージを送り、リアルタイムで返事がもらえる。

教師は、教室の授業ではある一定の時間に1つの科目に集中できるが、オンラインだと生徒から異なる科目の答えやメッセージが送られてくることになる。

ビデオ形式でなく課題をこなす方法

トリニティちゃん

ニュージャージー州の小中高一貫の公立校に通う3年生のトリニティちゃん。勉強といっても、机の上に教科書などはない。

撮影:マリーズ・カルナラトネさん

美術や体育では、YouTubeにあるビデオが教材として多く使われる。

「美術では、どうやってお絵描きするかというYouTubeビデオを見て、その後先生が、今日は木か車を描きなさい、という風に指示をくれます」

「ウェルネスはとても気に入っていて、YouTubeでスター・ウォーズの音楽に合わせてヨガをしたり、とても楽しい」

「オンライン授業で好きなのは、作文、科学、音楽、美術。特に作文は、自分が納得いくまで時間をかけられるから、今はフィクションをたくさん書いています」

母親のマリーズさんによると、時間割は午前8時30分から午後12時30分までとなっているが、1日の課題が多いので、全て提出が終わるのは早くても午後5時という。教材は教科書ではなく、課題のリンクが送られてくる。それに対して先生から質問が来て、答えや感想を書いて提出する形式。ビデオ会議のような形式ではないという。

「トリニティは活発で集中力もあり、手はかからないけど、リーディングや作文、科学になると、先生の質問がどういう意味かを教える手助けが必要になる。でも、子どもたちが自宅でも学習を続けられるのはとても重要だと思う」(マリーズさん)

「なんとなく気に入っている」という声も

日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューヨーク事務所のエグゼクティブ・アシスタント、小野寺知恵さんの長男セサ・マルティネス君(16)は、ニューヨーク市内の名門高校2年生。ログインするのはグーグル・クラスルームかZoom。時間割は午前8時45分から午後3時35分だが、「課題を早く片付ければ、フリータイムができるから、オンライン授業はなんとなく気に入っている」と言う。

セサ君のオンライン授業もほとんどはビデオ会議のような形式ではなく、教師からオンラインで送られてくる課題をこなして提出し、余った時間はNetFlixを見て、次の課題を待つ。

子供を見る親

子どもがパソコンに不慣れな親は、オンライン授業中つきっきりにならなくてはならないという。まだまだ試行錯誤中だ(写真はイメージです)。

GettyImages/damircudic

ニューヨーク州など全米22州がロックダウン(出勤禁止・自宅待機、3月26日現在)に入ったため、アメリカ人の3人に1人が在宅し、多くの学生や子どもがオンライン授業を受けている。

しかし、オンライン授業に問題がないわけではない。

年齢によっては、いきなりオンラインに移行するのが難しい場合がある。

ビデオグラファー、柏原雅弘氏の長男・悠大君(6)は小学1年生。まだパソコンの操作やタイピングはほとんどできないので、両親が朝の課題を見て、スペリングや算数のテストを全てプリントアウトし、教室でやっているように手で書き込ませる。それを先生に提出するためにパソコンで親が入力する作業が続くという。

子どもを集中させるためにつきっきりで、「オンライン授業の間、メール1本書く暇もない」(柏原氏)状況だという。

他にも問題は山積みだ。アメリカのメディアで指摘されている問題をまとめると、以下の3点に集約される。

  1. 子どもが自宅にいることで、家庭内暴力(DV)が増加する可能性がある
  2. パソコンやタブレット端末、Wi-fiなどがない家庭の子どもが授業に遅れてしまう。ニューヨーク市はオンライン授業開始に先立ち、3月16日の週にパソコンやタブレットを希望する家庭に配布したが、台数は足りていないとみられる
  3. 特殊学級に通っている児童へのオンライン授業は提供されていない

ニューヨーク市の公立校では休校していても、給食は朝食、昼食、一部では夕食も公立校などで提供されている。午前7時30分から午後1時30分までに学校に行けば、子どもを連れていなくても、身分証明書を見せなくても給食を受け取ることができる。

ニューヨーク市の公立校に通う生徒の2割弱がホームレスと低所得層の子どもで、通常でも給食に依存しているのに配慮した形だ。

前出の小野寺さんによると、3月24日のメニューは、朝食がコーヒーミルク、マフィン、ヨーグルト、オレンジ、昼食がピーナッツジェリー・サンドイッチ、プレッツェル、チーズスティックだったという。

なぜ日本ではオンライン授業が浸透しない?

黒板に向かって座る学生

日本ではオンライン授業が浸透しないのはなぜ?

Shutterstock/milatas

一方、休校で先行した日本では、なぜオンライン授業の導入が進まないのか。インターネットの接続速度や普及率は、アメリカをはるかに上回るにもかかわらずである。

南部ルイジアナ州ニュー・オーリンズに駐在する日本語教師、白木薫さんに聞いてみた。白木さんの長女・七海(なな)ちゃん(9)は、現地の小学校のオンライン授業を受けている。自宅待機以降に迎えた誕生日の前日には、Zoomでの授業でクラスメートが「ハッピー・バースデー」を歌ってくれたという。

白木さんによると、日米の違いは普段からの取り組みにあるという。特に以下の2つだ。

  1. アメリカではテクノロジーという科目があり、パソコン操作やタイピングに子どもが慣れる環境がある。また、日頃からオンライン教材も多用している。これに対し日本の学校は、教科書+黒板という形式が主流となっている
  2. 学校と保護者の間で、連絡や子どものスケジュール、成績なども日頃から、ログインする専用サイトで管理しているので、先生も保護者もオンラインでのコミュニケーションに慣れている

今回の新型コロナウイルスでわかったことは、「定期的に新型ウイルスに襲われる環境に対する危機管理対策が必要」ということだ。教育の世界でも、こうした逆境で授業を続けられる環境整備が必要ではないだろうか。

(文・津山恵子)

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