「ありのまま」と「何者かになる」の間でもがく若手キャリアの明暗を分けるもの

キャリア女性

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「ありのまま」と「何者かになる」——。

現代の若手社会人のキャリア観を特徴づける2つのキーワードだ。

新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより先行きも見えづらい。「良い大学から、大きな会社に入って、定年まで勤め上げる」といった成功モデルが崩壊する今、若手にとって「キャリア成功の法則」は何なのだろうか。

労働市場やキャリアづくりの研究者として、日々、データと現場の両面から若手社会人と向き合ってきた筆者が、最新の調査から見えてきた手がかりをお伝えしようと思う。

チキン南蛮をほおばりながら語る目標は

女性がランチを食べる姿

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筆者は社内外含めて若手社会人とランチを食べながら、彼らの仕事やキャリアの話を聞くことがしばしばある。夢あり希望あり、はたまた不安あり焦りがある。共感し議論をし、必要であれば相談にのる。

例えばこんな話があった。

あるIT企業で営業をしている20代の女性社員。実は、学生時代に起業し、メディアに大きく取り上げられ一躍時の人になった。しかし、売り上げは思うように伸びず、経営は限界を迎える。成功と挫折を経験し、現在。

その女性はチキン南蛮をほおばりながら、将来の目標についてこう語った。

「いまは、軽やかに自分のスタイルに合わせて仕事をしていきたいんです。社会に自分だけが提供できる価値を届けられるようになりたい」

かつて、「良い大学から、大きな会社に入って、定年まで勤め上げる」という成功法則があった。今の日本の大企業の多くのトップたちはその時代の人々だ。実際、経団連の20人近い副会長以上の幹部は、全員が東京大学や早慶といった一流と言われる大学出身であり、もちろん全員が大企業に勤め、そして全員が転職経験ナシ、つまりその大企業以外に勤めた経験がない。

こうした「生涯1社で勤め上げる」というモデルは終焉を迎えつつある。

希望退職は業績の良し悪しに関係なく幅広い企業で行われるようになった。示し合わせたように「45歳」前後で募集されるが、そこが会社にとって必要な人とそうでない人を判別するタイミングということだろう。

トヨタ自動車は、これまで9:1だった新卒:中途の採用比率を、中長期的に新卒5割にしていくと示した。ホンダも採用枠の4割を中途採用に振り向けるという。急激な変化を前に、企業は「生え抜き」文化から脱却しようとしている。

ありのままと何者かの最小公倍数

若い働く人

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キャリアづくりの正解がない時代に、筆者はその大きな影響を受ける若手社会人の研究をしてきた。若手に働き方やキャリアづくりの考え方について話を聞くと、2つの大きな価値観があることに気がつく。

「ありのまま」と「何者か」である。

冒頭の20代の女性の言葉のように、この2つは自然に、同時に語られる。

「ありのまま」働きたいには、「自分が好きな場所で働きたい」「休みを好きなときに取れる職場で働きたい」「家族と過ごす時間をとりたい」など

自分らしさが大事と言われる世の中で、誰かに無理に合わせることなく、自分が良いと思うものを大切にして就業しているスタイルが見えてくる。

「何者か」に早くなりたい。こちらは、「専門家になりたい」「一人前になりたい」「この分野で有名になりたい」「30代までに大きな成功体験をしたい」……

今は何者でもない自分だが、社会の中でいつか個として尊重される、替えの効かない人になりたいという気持ちで、仕事に臨むスタイルも見えてくる。

しかし、この2つのキーワードは、実は矛盾する関係に陥りがちだ。

自分が良いと思うがまま働こうとすれば、「何者」かになるためには遠回りになるかもしれない。「何者」かになろうと思い必死に働きながら、「ありのままでいる」のは難しい。

現代の若手社会人は、この矛盾する「ありのまま」と「何者か」のはざまで、自分だけの「ありのまま働ける“こと”」「何者かになれる“こと”」の最小公倍数を探して、日々モヤモヤを抱えている。

そして、自分だけの“こと”を探し当てるために、「会社で勤め上げる」という旧来のセオリーは機能を停止している。

では、若手社会人のキャリア作りに、新たなセオリーは存在するのだろうか。

「行動」が持つ思ったよりもずっと大きな意味

コワーキング

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昨今、若手社員の間では、起業や社内ベンチャー、副業・兼業がもてはやされてきた。たしかに今回20代社会人2000人以上に行ったキャリアに関する調査では、過去の「行動」が、自身のキャリアのわくわく度(キャリア展望スコア)に大きく関係していることが判明している。

労働時間も、年収も、会社の大きさも、居住地も、キャリアのわくわく度とは統計的に関係は見られないが、図のように過去の「行動」が非常に大きなファクターになっている。

次の表からは、労働時間、年収、会社規模、居住地全てについて統計的に有意な差は確認されない(※高位層はキャリア展望スコアの上位10%、中位層は高位層除く中央値以上、低位層は中央値未満の者)。

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出典:リクルートワークス研究所

一方、過去の行動は、キャリア展望スコアにお大きな差を生んでいる(下の表は、各行動の量を100点満点で置き換えた平均値)。

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出典:リクルートワークス研究所

図の結果では特に、本業以外の仕事をパラレルに実施する「越境」(副業・兼業、社外コミュニティ活動など)や、「企画行動」(社内起業や新規プロジェクトの実施などの)について、わくわくキャリアを持つ人が、特に高い傾向が認められる。

確かに、越境や企画行動といった目に見える大きなアクションは、SNSでも目立つし、メディアでも取り上げられる。結果が示すように、未来のキャリアを変える効果があるといえそうだ。

しかし、さらに重要なポイントはもっと身近なところにあった。

輝く若手社会人、共通の特徴

それは副業や兼業などの目に見える大きな行動を起こしている若手が過去に、「初対面の人とも積極的に会う」「LINEやメッセンジャーで目的に合わせたグループをつくる」「やりたいことはみんなに話してみる」といった、決してそれ自体は大きな変化を生み出さないだろう“小さな行動”を積極的に行ったという共通の特徴が存在していることである。

小さな行動がその後のキャリアに与える影響

過去に越境などの大きな行動ができているかどうかにかかわらず、小さな行動がその後のキャリアに大きな影響を与えている(※構造方程式モデリングによる分析(N=1884、1%水準で有意なパスを表示。数値は標準化偏回帰係数)。

過去の小さな行動の有無が、その後のキャリアを変えるような大きなアクションの違いに、ひいてはキャリアの分かれ目になっている。

これは何を意味するのだろうか。

情報が溢れる社会の中だが、検索しても正解は見つからない。

小さく一歩を踏み出すこと、それによって自分の世界が広がる。世界が広がっていけば、自分だけの好きな「こと」、ありのままでいられる「こと」が見つかる可能性はぐんと高まる

勇気を出してリスクを背負ってチャレンジしなくても良い、小さな一歩のステップがキャリアに大きな影響を持っている。これを「スモールステップ」と呼びたい。

スモールステップでつくる豊かな職業人生

働く人の手元

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これからの職業社会において、スモールステップが良い点は大きく3つある。

  1. 自分の好きなことをノーリスク・ローコストで探すことができる
  2. 短い期間にたくさんのことを試すことができる
  3. 自分がすぐできる具体的なアクションにつなげることができる

何が正解なのかわからない、どんなスキルを身に着けて良いのかわからない、どんな会社が向いているのかわからない。今回の結果からは、そんな社会でこういった特徴を持つスモールステップが有効に機能していることを示唆している。大事なのは、大きな夢やすごい目標を掲げることではなく、「今自分ができる一番小さなステップを見つけること」。

スモールステップによって、好きになれるかもしれない「こと」を見つける確率を上げていく。これが、「ありのままの自分らしく」「何者か」を目指す人たちにとっても、新時代のキャリアの成功法則ではないだろうか。それは世界が今、新型コロナウイルスによる混乱に陥り、経済環境もキャリア展望も見通しにくい時期であってもできることでもあるはずだ。

※引用調査:リクルートワークス研究所,“「行動」から考える新時代の若者キャリア論”https://www.works-i.com/project/youthcareer.html

(文・古屋 星斗、編集・滝川麻衣子


古屋 星斗(ふるや・しょうと):リクルートワークス研究所研究員。2011年一橋大学大学院社会学研究科修了、同年経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興支援、「未来投資戦略」策定等に携わる。2017年より現職にて、学生・若手社会人の就業行動や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

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