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高速・大容量の次世代通信規格「5G」の商用サービスが3月25日、日本でも始まった。
NTTドコモが先陣を切りau、ソフトバンクも27日までにサービスを開始した。キャリア3社は5G対応端末も発表し、KDDIは日本に進出して4カ月の中国メーカーXiaomi(小米科技)のスマホを採用した。
一方、グローバルで大きなシェアを持つファーウェイはSIMフリー端末を発表したものの、通信基地局のベンダーにも、3社の端末にも採用されなかった。
日本はトランプ米政権の呼びかけを受け、通信インフラ設備からファーウェイを事実上締め出している。またアメリカの禁輸措置の影響で、ファーウェイの端末にはグーグルのサービスを搭載できておらず、キャリアが採用を見送る一因になった。
5G市場での逆風に加え、日本では新型コロナウイルスの感染拡大も懸念されている。不確定要素が多い日本市場でどう戦うのか、ファーウェイ・ジャパンの王剣峰(ジェフ・ワン)会長に聞いた。
5G出遅れでも「まだ始まったばかり」
日本でも3月下旬に5Gの商用化が始まったが、ファーウェイは米中貿易戦争の影響を受け出遅れている。
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日本の5G商用サービス開始でファーウェイが出遅れたことについて、王会長は「ファーウェイの端末はGoogle モバイルサービス(GMS)は使えず、その影響は確かにある。GMSに代わるものとして、独自のアプリ基盤ファーウェイモバイルサービス(HMS)の開発を進めている」と認める一方、「日本の5G市場は幕が開いたばかりで、カバーしている都市も少ない。普及にはもう少し時間がかかる」と話し、巻き返しに向け、日本のキャリアに適したハードウエアとプラットフォームを提供していくとの考えを示した。
5Gの無線基地局については、「既存のネットワークの保守などで、キャリアとの関係は継続しているが、5Gに関しては日本のキャリアに選ばれていないという状況は変わりない」と述べた。
王会長は「日本が国内のベンダー企業を強化したいのは理解できる」としながら、「ファーウェイの競合企業は海外企業であり、日本企業の脅威にはならない」と強調。無線の基地局で日本に初めて分散式基地局を導入した実績などを挙げ、ファーウェイが価格だけでなく技術的な強みを持って日本市場に存在していることが、日本の通信業界や日本企業の発展にプラスになると語った。
また、ファーウェイの4Gネットワークの日本でのシェアが10%に満たないことを紹介し、「ファーウェイは日本で大きなシェアを獲得することを望んでおらず、日本のベンダーと共存していきたい」と繰り返した。
ソースコード公開を日本政府に提案
ファーウェイ・ジャパンの王会長は「当社の競合は日本企業ではない」と強調した。
トランプ大統領は、ファーウェイ製品が安全保障上のリスクがあると主張。日本政府もこれを受ける形で、名指しこそしていないがファーウェイの排除にかじを切った。
王会長は「ルールや技術に即して判断してくれれば何の問題もないはずなのに、そうではないところで、サイバーセキュリティーのリスクを論じられている」と日本の対応に疑問を投げかけた。
ドイツやベルギーのブリュッセルには、顧客が安全性を検証できるサイバーセキュリティーの「透明化センター」を設置しており、「我々も日本政府に対して、さらには公の場でも、安全性の検証に協力するしソースコードも公開すると働きかけている。しかし反応が得られない」と日本への対応を求め、欧州と同様に検証施設を設置する用意があると述べた。
新型コロナ、日本事業には影響少ない
ファーウェイのビデオ会議システムは、モニターをホワイトボードとしても使うことができる。
ファーウェイのおひざ元である中国では1月末から新型コロナウイルスの感染が爆発し、今では感染が世界に広がっている。日本でも3月24日に東京オリンピックの延期が決まった。
ファーウェイにとって、日本は最も重要な調達先の一つで、2018年の調達額は7800億円、2019年は1兆円とその額は年々増加しているが、新型コロナの影響は避けられない。
王会長は「3月上旬までは中国の新型コロナの状況を気にしていた。日本企業からは主に中国市場向けのハイエンド端末に使う部品を調達しており、中国市場が低迷すると、日本企業での調達にも影響が出るからだ。だが、中国市場は立ち直りが進んでおり、年初に立てた調達目標は修正していない」と述べ、2020年の調達額も増加を見込んでいることを明らかにした。
日本の状況については、「世界の中では感染をうまく抑えられている」としながらも、「サプライヤーからの供給が継続的に続くかどうかを心配している。日本の工場が、何かしらの理由で閉鎖されないかは懸念材料で、毎日中国の本社に状況を報告している」と語った。
また、中国ではテレワークやオンライン教育が追い風となり、タブレット端末の出荷が増えたが、日本でも同じ状況が発生しているという。
「新型コロナウイルスの感染は、中国人の仕事や生活の習慣を変えた。テレワークが普及し、マスクをつけることも習慣になった。最初は皆違和感があったが、今はすっかり慣れた。今後、日本でもビデオ会議システムなどの需要が増えると見込んでおり、ビジネスチャンスを感じている」と話した。
感染症対策の支援として、地方の医療機関に向けて遠隔医療システムの寄付も打診しており、「システムを活用すればへき地の病院がオンラインで専門医師の助言や診察を受けられる。マスクと違って送ればいいというわけではないので時間はかかるかもしれないが、導入を働きかけていきたい」と語った。
(連載ロゴデザイン・星野美緒)
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。現在、Business Insider Japanなどに寄稿。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。