新型コロナウイルス流行でパニックに陥った消費者が、コストコの店舗外まであふれかえる。
Duane Tanouye / Reuters
- 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受け、かつてないほどの客が殺到し、コストコの従業員たちは本部オフィスから倉庫までこの嵐を切り抜けるのに必死だ。
- Business Insiderはコストコの各店舗に勤務する従業員7人と本部オフィスの3人に取材した。
- ワシントン州イサクアにあるコストコの本部オフィスでは、少なくとも3人の新型コロナウイルス感染者が出ている。
ビジネスの観点から言えば、2020年2月のコストコは異常な月だった。新型コロナウイルスの大流行に伴う外出禁止令などでパニックに陥った消費者が大挙して押し寄せたからだ。
しかし、全米各地に勤務する従業員たちにとって、状況はそうした華々しいエピソードとしては語り得ない。
ここ数週間、さまざまなエリアやポジションの従業員たちがBusiness Insiderの取材に応じ、新型コロナウイルスにまつわる激動のてん末を語ってくれた。
コストコ勤務歴13年、現在は米東海岸にある店舗に務める従業員は、現場の様子を「正気の沙汰じゃない」と表現。政府から「不要不急」ゆえに休業を求められた他の産業とは違う、緊急時に「必要不可欠な」産業で働いていることを実感したと語った。
とにかく疲労困憊
世間の人々ができるだけ家にいるよう求められるなか、コストコの従業員たちは米国土安全保障省から「必要不可欠な」産業(スーパーマーケット/グローサリー)に指定され、通常通りの勤務を期待されている。ユタ店の従業員はこんな感想を口にした。
「とにかく疲労困憊のひと言。棚も在庫も空っぽ。こんなの見たことないよ」
取材した従業員のうち何人かは、混乱を静めるため、コストコは最善を尽くしてきたとの自負を語った。
店内に一度に入場できる数を制限し、購入上限を設定、トイレットペーパーなど需要の多い商品については返品不可とした。また、衛生環境の徹底も図り、状況に応じて店内で来店者どうしの間隔を6フィート(約1.8メートル)空けてもらう措置もとった。
東海岸のある店舗の従業員によると、(感染防止のため)注文時に共用のペンを使うケーキの販売まで中止にしたという。
にもかかわらず、ウェアハウス(倉庫)勤務の従業員たちからは、ふだんは働きがいのある楽しい職場から過剰労働を迫られ、もはや会社に守られている感じもないとの声が多数聞こえてくる。
イリノイ州の店舗の従業員は、ウェアハウスへの入場客数制限は確かに行われているが、そこに現場で働いている従業員の数は含まれていない(くらいに混みあっている)と指摘する。
「店の外、店内レジに大行列ができるのはしょっちゅう。ウイルスの感染拡大を本気で抑えるつもりがあるなら、こんな密集した状況はあってはならない」
休暇規定がひどすぎる
コストコは3月23日、新型コロナウイルスの流行期間中に勤務する従業員に対し、時給2ドル(約220円)を追加して支払うと発表している。
しかし、ターゲットやウォルマートのような他の小売り大手が、ウイルス流行中について有給休暇に関する規定を変更(=出欠勤を問わず一律給与を支払うなど各社異なる)したのに対し、コストコは有休の追加取得は一切認めていない。自己都合休暇に対する罰則規定を撤廃したことだけが、メディアに報じられている。
東海岸の店舗の従業員はこう漏らす。
「経営陣は事態に全然対応できてないんだ。我々従業員が店舗の営業水準を維持できていることについては、確かに感謝してくれてるのかもしれない。でも、だからといって、我々がウイルスに感染したときにしっかりと補償してくれるかどうかは、怪しいもんだよ」
別の従業員も同様に、休暇規定に不満をあらわにする。
「無給でいいなら2週間の休暇が認められる、そうでないなら病休か有休を使い切ってもらうしかないと言われました。素晴らしい休暇になりそうだわ」
彼女は52歳。補聴器専門の店員で、心臓異常を抱えているそうだ。
コストコのリチャード・ギャランティ最高財務責任者(CFO)はBusiness Insiderの取材に対し、同社が従業員を守るために最善の手を尽くしているとした上で、時給2ドルアップは少しでも何とかしたいと努力した結果だと語っている。
ワシントン本社で少なくとも「3人が陽性」
パニックに陥った住民の買い占めにより、ティッシュなどの品切れが相次ぐ。
AP Photo/Gillian Flaccus
一方、ワシントン州イサクアにあるコストコ本社オフィスは、内部の問題と格闘していた。
同社では、本社の旅行部門コストコトラベルの従業員が新型コロナウイルスに感染し、3月16日に死亡した。にもかかわらず、いまだにオフィスを完全にシャットダウンしていない。3月19日にはさらに2人の感染者が確認されている。
死亡したコストコトラベルの従業員と親しいある同僚は、徐々に在宅勤務に切り替わりつつあるとしながらも、「みんな本当に怯えています」と現状を口にした。
前出のギャランティCFOによると、本社オフィスに勤務する従業員は8000人で、うち8割はすでに在宅勤務を行っており、3月28日までに9割に達するという。
また、本社勤務の別の従業員は、オフィス内にあるビュッフェ形式の食堂がまだ営業を続けていると教えてくれた。「不可欠なサービス」だからというのがその理由だ。
「ノートパソコンが支給され、在宅勤務の指示が出るまでは、文字通りパニック状態でした」
前出のコストコトラベル従業員はそう表現する。
3月16日に陽性と診断された従業員が死亡したことが発表されたときは、それまでヒソヒソ声で状況への困惑を語り合っていた従業員たちが、廊下を狂ったように走り出して本社ビルを飛び出していったのだという。
別のコストコトラベル従業員によれば、死亡した従業員のウイルス感染が初めて明らかになった当時は、担当業務によって一部にノートパソコンが支給され、在宅勤務が望ましいとの指示があっただけだったそうだ。
同従業員は「経営陣は、早めに在宅勤務を導入して本社から離れるよう指示できていたはずだ」と語り、その切り替えの判断があまりに遅かったために、致命的な結果を招いたと強調した。
本社オフィスの従業員たちはみな、各地の店舗の従業員たちと同じように、かつては家族のように思っていた会社から、見捨てられたような気がしたと口を揃える。
「私たちは会社にとってどうでもいい存在だったんだと感じました。そのことが悲しくて仕方がありません」
(翻訳・編集:川村力)