バイオボット・アナリティクスの共同創業者、マリアナ・マトゥス(左)とニューシャ・ガエリ。
Biobot Analytics
- 最新の研究成果により、新型コロナウイルスは人間の便を通じて排出されることが明らかになった。つまるところ、下水道に集約されることを意味する。
- バイオボット・アナリティクスは、汚水処理施設から採取したサンプルを検査して得た新型コロナウイルスの特徴的なデータを活用し、リアルタイムで下水道マップを監視するプロジェクトを進めている。
- このマップは人工知能(AI)を活用したウイルスの拡散予測も可能で、都市の保健当局に有効な情報をもたらす可能性がある。
新型コロナウイルスという脅威と向き合うアメリカにとって最大の弱みのひとつは、検査数が不足していることだ。そこで、研究者たちは「これまで誰も手をつけていないリソース」の活用を検討している。それは、便だ。
AIスタートアップはマサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学と組み、汚水検査を通じてウイルスを追跡監視するプロボノ(=無償の社会貢献)プロジェクトを始めた。
最新の研究によると、新型コロナウイルスは便に混じって排出される。したがって、都市の下水管に流れ込む。
バイオボットは全米の汚水処理施設から採取したサンプルを用い、検査結果をリアルタイムマップに落とし込み、予測分析(=データ、統計アルゴリズム、機械学習を活用して将来の結果を特定する分析手法)によってウイルスの広がりを把握しようと計画している。
プロジェクトチームによると、このシステムを使えば、都市の保健当局は個々の患者の検査や病院からの報告に頼ることなく、ウイルス流行の範囲を特定・監視できるようになるという。
このプロジェクトには前段がある。2013年、イスラエルの研究者たちが汚水を対象とした感染症学プログラムを通じて、ポリオウイルスの流行を検知した。現地の病院がその兆候をつかむ前だった。
バイオボットも以前、この汚水検査とAIマッピングを組み合わせた手法を、別の健康被害の問題に適用した実績がある。そのときの対象は、オピオイド(医療用麻薬)中毒だった。
汚水には情報が詰まっている
「汚水という未活用のリソースを用いることで、将来的には公衆衛生によって世界規模での疫病の流行に歯止めをかけることができるようになると思われます」
そう語るのは、バイオボットの共同創業者マリアナ・マトゥス。マサチューセッツ工科大学の博士1年のときから8年間、このトピックについて研究を続けてきた。
彼女の研究は、2015年にMITアンダーワールド・プロジェクト(=汚水のサンプル調査・分析に特化した共同研究プロジェクト)へと発展し、そこから独立して2017年にバイオボットが設立された。
マサチューセッツ工科大学(MIT)が進める、汚水分析に特化した研究プロジェクトの概要ムービー。
出典:MIT Underworlds Project
「新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大し始めたとき、私たちはこのために会社をつくったんだと直感しました」
もうひとりの共同創業者ニューシャ・ガエリはそう話す。彼女はもともと都市計画・設計の研究者だ。
実際にこの汚水分析プロジェクトはどのように機能するのか。流れは次の通り。
- 自治体の保健当局との契約が完了すると、バイオボットは現地の汚水処理施設にサンプリングキットを送付する。
- 処理施設で24時間分のサンプルが採取され、バイオボットに返送される。
- バイオボットのラボで汚水サンプルを処理。濃縮してウイルスを不活性化し、主要なタンパク質を除去することで、感染力が消失する。
- 処理済みのウイルスをMIT(エリック・アルム研究室)が検査し、その結果をバイオボットに伝達。
- バイオボットは契約先の自治体マップに検査結果を落とし込み、AIを活用してウイルスの広がりを予測する。
バイオボットとハーバード、MITは現在のところ、一連の作業をプロボノで実施しており、自治体にはサンプリングキットのコストと送料(1キット120ドル)だけ負担を求めている。
汚水を活用するなんて冗談だろうと思った方には、バイオボットからひと言。
「汚水は情報の宝箱なのです」
(翻訳・編集:川村力)