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教員全員が現役実務家の新学部誕生へ。Yahoo!アカデミア伊藤学長が目指す教育とは?

伊藤羊一

武蔵野大学に新設される学部の学部長に就任予定の伊藤羊一氏。

撮影:今村拓馬

会社役員や起業家など一線で活躍する現役実務家が教員を務める、日本ではほぼ例がない新学部が2021年4月、武蔵野大学に開設される(設置構想中、変更の可能性あり)。

学部長に就任予定なのは、ベストセラー『1分で話せ』で知られる、Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏。

伊藤氏は、「私の大学時代はバイト、バンド、デートばかりだった」と笑うが、設立にかかわる新学部ではこれまでにない実践に特化した教育を標榜する。

「学問と実践を分けるという考え方もありますが、どっちが正しいということではなく、バランスの問題だと思っている。今回はバランスの極を作ってみたい。日本の教育に何かしらの提案ができる可能性を提示したい」

教員陣の招へいや、カリキュラムつくりに奔走中の伊藤氏に、日本経済を取り巻く問題点や、目指す教育について聞いた。

在学中に起業目指す。教員に篠田氏ら

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新学部設立のため、「膨大な事務作業に追われている」と話す伊藤氏。

撮影:今村拓馬

新学部は、起業家精神を意味する「アントレプレナーシップ学部」と命名。定員は60人で、在学中の起業を目指すという。社会人経験者を対象にした入試も予定している。

新学部の特徴は、講義を担当する教員全員が、起業家や会社役員など、現役の実務家である点だ。

「今はアカデミックとビジネス界が分断されている。実務家が大学で教えることもあるが、学部の教員みなが実務家ということは珍しいと思う。私もヤフーに勤めながら教えます。教員側はハードだけど、みんな面白いと言って賛同してくれた」

専任教員には、エール取締役・篠田真貴子氏、ERRORs・柏谷泰行氏、GRA岩佐大輝氏など約20人が就任し、それぞれ「本業」の傍ら、週3コマ(1コマ100分)の講義を担当する。

客員教員には、リバネス副社長の井上浄氏、元リクルートで教育者の藤原和博氏などの就任も予定している。

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教員の一部。教員にはベンチャー企業経営者やNPO創業者など、一線で活躍する実務家が名を連ねる。

出典:武蔵野大学HPより編集部キャプチャ

毎週1人、起業家をゲストに

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撮影:今村拓馬

「新学部では、実践に始まり実践に終わることを重視したい。とにかく双方向で対話し、ケーススタディを議論し、実践する。一方通行の講義ではなく、楽しい授業を展開したい」

講義では座学の割合は全体の10%に抑える方針だ。1年~4年まで必修科目になる「アントレプレナーシップ」の授業では、毎週1人、起業家をゲストに呼び話を聞く。

「4年間で約120人の起業家の話を聞くことになる。こういう人になれではなく、いろんな人がいることを知ってほしいと思っています。」

日本が生き残る道は新事業への挑戦

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伊藤氏は「日本は起業の数も少ない。挑戦する若者を育成したい」と話す。

撮影:今村拓馬

伊藤氏があくまで実践にこだわるのは、人口減少が進んでいく日本が生き残るためには、新事業に取り組む人材を育てないといけないという危機感があるからだ。

「インターネット上にある情報量は増え続けている。

例えば照明やエアコンがインターネットにつながるIoTが普及してきたが、これからはもっと加速度的に増えていく。

例えばこの机とエアコンとスマホがつながったときに何ができるか。これまでは想像できなかった世界が必ず来る。そこにチャンスがある」

インターネットの普及により、店舗に行かなくても商品を探し、購入することは当たり前になったが、伊藤氏はこれまでのように、現実の行動をネット上でリプレイスする(置き換える)だけではない、新しい未来がやってくると指摘する。

「高度経済成長の時は、レールに乗っている人生が正しかったかもしれないが、今はこれをやれば正解という時代ではない。正解のない世界で、一人ひとりが決めていかないといけない。大学生がそれを考え実践する場を作りたい」

「僕の大学生活はとにかく『無』」

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伊藤氏は「若いうちに経験を積むことは大事だと思う」と話している。

撮影:今村拓馬

新学部の学部長という重責を担う予定の伊藤氏だが、自身の大学生活はどんなものだったのか?

「僕の大学生活は、とにかく『無』ですね。大学に行くって何だろうと。いや、それすら思わない学生で、バイト、バンド、デートばかりの毎日でした。

勉強して、人と話して、悩んで、ということをせず、ものすごい大事な時間を無駄にしてしまって、僕は社会に出てから苦労しました」

伊藤氏は東大卒業後、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に就職したが、人とコミュニケーションをとることが苦手で、仕事がうまくいかずうつ病になり、会社に行けなくなった時期もあったという。

「社会人になって修羅場をくぐって初めて学べることもあると思うけど、早いうちから『経験をためる経験』はたくさん積んだ方がいいと思う。

僕自身は悩むばかりで一歩踏み出すのに時間がかかってしまった。同じ悩むのでも、たくさん経験して、たくさん嫌な思いをして、たくさん悩んで、ときどき成功して、振り返りながら次に進む。そのサイクルを若いうちからたくさん踏んでほしい。

まあ、後悔はしても無駄なので、僕自身の学生時代は後悔していませんけど」

「自分の人生は自分でリードする」

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撮影:今村拓馬

伊藤氏が学生に学んでほしいのは、経済的なチャンスをとらえて成功することだけではないという。

「人の笑顔に貢献したいという動機を持ってほしいし、もう一つは自分で自分の人生をリードするという気持ちを持ってほしい。

大きな事をドカーンと成し遂げなくても、自分で商売をやってみて、失敗して振り返って、自分の思いでチャレンジする人をひとりでも増やしたい。そうすることで、日本を変えたいと思っています」

(文・横山耕太郎)

※編集部より:教員について表現の一部を修正しました。2020年4月2日14:45

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