1982年生まれ。慶應大学SFC在学中にPR会社ビルコムの創業に参画。同大学ビジネススクールを経て、2017年フリーランス協会設立、代表理事に就任。
撮影:伊藤圭
多様な働き方が広がる中、フリーランス協会代表理事の平田麻莉さん(37)が、自律した働き方を志す若い世代へ伝えたいこととは。
企業に副業・兼業解禁の動きが広がる中で、たくさんの名刺を持つ生き方がカッコいい、という考えを持つ人が増えてきたように思います。フリーランスの社会的な地位が高まるのは嬉しいのですが、「若いうちに無理をして独立する必要はない」とも思います。フリーランスの自律した生き方を、ロールモデルとして発信してきた張本人の1人として、責任も感じるのですが……。
フリーランスは特定分野のプロフェッショナルです。スキルと経験を元手に仕事をし、どの仕事に関しても同じレベルで結果を出さなくてはいけない。究極の成果主義で、思うような成果を出せなくても、言い訳はできません。経験とスキルが足りないまま仕事を受けても、多くの時間とエネルギーを費したのに得られる対価は低いという悪循環に陥ってしまいます。
突出したスキルや能力を持たない場合、20代前半のうちは組織に属して、自分の「売り物」を作ることも一つのやり方。選り好みせずさまざまな仕事に取り組むことで、スキルの幅も広がります。
組織の中にいるのはダサいことじゃない
就職すること、企業で働くことは決して「カッコ悪い」ことではない、と平田は言う。
撮影:今村拓馬
私の場合、ビルコム時代に10~12件の案件を回し続けた経験が、今に生きています。何事にも修業は必要なのです。
多くの日本企業は終身雇用の中で、海外の企業とは比べ物にならないほど手厚い若手育成の仕組みを整えてきました。ビジネスパーソンとして必要なマナーや基礎的なスキルも、手取り足取り教えてくれます。
決してフリーランスが「自由」で「カッコよく」、組織に属することは「ダサい」のではないのです。
組織の中にいても依存せず、自分の名前で仕事ができるなら、その人は自律していると言えます。こうした人が企業のリソースを使い倒して大きな仕事をするのは「カッコいい」姿ではないでしょうか。
ただ20代後半になると、スキルと経験、人脈がある程度蓄積され、組織に頼らず働ける人が出てきます。その時、日本企業は自由な活躍の場を与えてくれるとは限らない。目指すキャリアと割り当てられた仕事がずれてきたら、まずはスキルアップにつながる副業を始めることをお勧めします。
4年に1度キャリアをリセット
フリーランス協会主催のイベントで。この頃は、子どもを抱いて講演することもあった。
平田麻莉さん提供
私はビルコムに入社して3年目ごろが、一番モヤモヤしていた時期でした。25歳にして自分が「お局」扱いされていると感じるようになったのです。
1人のプレーヤーから管理職となり、「どうして私が年上の部下のモチベーションを管理しなければいけないの」という思いにとらわれました。私の部下だった時に能力を発揮できなかった人が、別のチームに異動して大活躍し、「自分のやり方がいけなかったのか」と落ち込むこともありました。
それでもビルコムに留まっていれば、創業メンバーとして幹部社員になるのが自然な流れだったと思います。でも「あまのじゃく」な私は、想定の範囲内に収まるのも嫌で、アカデミアの世界に移りました。
大学院を退学したのも病気や出産だけが理由ではなく、博士号を取った後の安定したキャリアが見えてきたら、楽しさを感じられなくなったせいもあります。こんな調子なので、人からは「4年に1度、キャリアを棒に振っている」と言われます。
ビルコムやJBCC、協会のように、ゼロから立ち上げることが好きなんです。最近も、慶應大の同級生4人と新しい会社「アークレブ」を設立しました。国内外の大学研究者をネットワーク化し、企業の研究開発とマッチングする会社です。
ビジネススクール時代、企業から大学への資金の流れが滞りがちなことを肌で感じました。アカデミアの世界では、企業からの受託研究を「アルバイト」と見下し、「そんな暇があるなら論文を書け」という風潮があるとも聞きました。企業が大学の研究者を外部人材として迎え入れるお手伝いをして、大学に蓄積された技術と知見を企業へと広げたいのです。
撮影:伊藤圭
フリーランスは、先々保証された働き方ではありません。でも私には不思議と、将来への不安はまったくないんです。
私は「人事を尽くして天命を待つ」という言葉が好きです。人は天に与えられた中で、ベストを尽くすしかない。人生を自分でコントロールできるという考えこそ、人間の思い上がりだとすら感じます。ただ自己研鑽の努力を怠らず、目の前の仕事で期待値を超える、つまり「人事を尽くし」た上で、天命を待つよう心掛けています。
人生の期待値を上げないことも、不安を感じず楽に生きるコツかもしれません。子育てでも、子どもたちの生命力と良心を信じて、あれこれと注意したり、指図したりしないよう心掛けています。外からは頼りない母親に見えるかもしれませんが、「縄文時代に比べれば、幸せな環境で子どもを育てているはず」とも思います。
極端に言えば、健康で生きていければそれでいい。贅沢しなくても親子で1日1回、大笑いして暮らせれば、私はそれで満足です。
(敬称略、完)
(文・有馬知子、写真・伊藤圭)
有馬知子:早稲田大学第一文学部卒業。1998年、一般社団法人共同通信社に入社。広島支局、経済部、特別報道室、生活報道部を経て2017年、フリーランスに。ひきこもり、児童虐待、性犯罪被害、働き方改革、SDGsなどを幅広く取材している。