新型コロナウイルスの感染を防ぐための在宅勤務や外出自粛要請で、女性や子どもがDV被害にあっている。
「在宅勤務と子どもの休校が重なりストレスがたまった夫が、家族に暴力をふるうようになった」
「DVから逃れるため母子で家を出ようと準備していたが、夫が仕事がなく在宅し家族を監視しするようになったので、避難が難しくなり絶望している」——。
事態の悪化を予測する支援団体は3月30日、国に要望書を提出。相談体制の確保や報道への配慮を求めた。
経済不安とストレスが向かう先は
在宅ワーク、外出自粛、一斉休校……新型コロナウイルスによる深刻なもう1つの被害は、家庭の中で起きている。
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要望書を提出したのは、DV被害を受けた女性や子どものシェルター運営などを行う67の民間団体らによるNPO法人「全国女性シェルターネット」。新型コロナウイルス対策に伴う自宅待機や経済状態の悪化による、DVや児童虐待の相談がすでに複数入ってきているという。被害の声を紹介する。
「夫が在宅ワークになり子どもも休校となったため、ストレスがたまった夫が家族に暴力を振るうようになった」
「夫がテレワークで自宅にいるようになり、これまで長時間労働ですれ違っていた夫が妻に家事一切を押し付けことごとく文句を言うようになり、モラハラが起こってきた」
「DV夫と家庭内での別居中、発達障害の子どもがいて離婚できない状況。学校・学童・子ども食堂が休みになり子どもが家にいることで、夫から妻や子どもへの暴力が増え、妻も子どもに暴力をふるうように」
加害者が在宅で相談できない、連絡途絶えたケースも
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さらに、被害にあっても相談すらできないという問題もある。
「かねてから DV で母子で家を出ようと準備していたが、自営業の夫が仕事がなくずっと在宅し、家族を監視するようになったので、避難が難しくなり絶望している」
「電話だけでなく面接で相談したいが、新型コロナの影響で電車に乗るのも怖く面談にも行けない。もっと手軽なSNSで相談ができるようにして欲しい」
団体メンバーからは「児童相談所への相談が増加している」という声がある一方で、「相談センターの面談が休止になって電話相談のみになっているが、自営業の夫からの DVを相談中の被害者が夫と子どもが在宅しているので電話での相談は困難と思われ、連絡が途絶えている」という報告も。
暴力も監視もエスカレートする懸念
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団体は今後の懸念として、
- 外出自粛に伴い暴力の深刻化や加害者による監視など行動の制限が強まる
- 自宅勤務の配偶者や子どもたちが在宅しているため、相談電話をかける機会が奪われる
- 非常勤職員の自宅待機・雇い止めが多発しているため、経済的困窮に陥る家庭での暴力、虐待の増加が予測される
- 飲食業や風俗産業で働くシングルマザーなどは、直ちに生活困窮に陥る
- 事前相談準備なしの緊急一時避難事例が増える
- 行政の窓口や男女共同参画センターが閉鎖されているところもあり、緊急の場合でも必要な相談対応ができない
ことなどをあげている。
チャットでの相談、薬局からの通報など世界はすでに対策
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外出制限によるDVや虐待増加について、すでに世界で警鐘が鳴らされている。
国連はDV増加に警告する声明を発表。警察や電話相談サービスへの初期段階の通報内容に兆候がすでに出ていると指摘し、各国政府に家庭内暴力の犠牲者に向けたインターネット上のチャットやテキストで相談に応じるサービス開設などの導入を訴えた(「新型コロナ対策で外出制限、家庭内暴力の増加を懸念 国連」CNN)。
すでに外出禁止令が出ているフランスでは、地域によっては1週間で30%以上、家庭内暴力が増加しているとし、24時間対応のチャットや、外出禁止令下でも営業を許可されている薬局から警察に通報できるなど、支援体制を整えている(「外出禁止令のフランスで急増するDV─政府が対策を発表」クーリエ・ジャポン)。
経済対策は世帯ではなく個人に、メディアも配慮を
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全国女性シェルターネットは今回の要望で政府に対し、DVや虐待が増加することを予測し、電話相談の回線・DVシェルター・児童を保護する施設を増やすなどの体制整備をすることや、被害者が市町村や民間シェルターに逃げ込んだら自動的に一時保護を開始できるよう要求。
SNSでの相談を実施する場合も、支援経験のあるスタッフや民間シェルターなどによって行われるべきだと提案する。また経済対策として政府は生活に困っている世帯などに世帯あたり10万円超の現金を支給する方針と報じられているが、団体は「住民票を移さないままDVを理由に家を出ている配偶者や子どもにはそうした援助金が受け取れない危険性がある。本来ならば個人単位で救済されるべき」と指摘。その上で、仮に世帯単位で給付を行う場合でも、DV被害者が申し出た場合には、相談証明などを元に援助金を給付するなどの措置を取るよう求めた。
報道にも注意が必要だ。
「シェルター等の利用者やスタッフに感染者が出た場合、メディアで詳しく報道されると秘匿しているシェルターの場所が知られる危険があります。各自治体の発表の報道を見てみると、かなり詳しい個人情報が出ているようです。DVシェルター関係者への配慮をして下さい」(全国女性シェルターネット)
(文・竹下郁子、写真は全てイメージです)