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(2020年4月8日追記)
2020年3月31日に掲載した本記事に対し、多くの方からさまざまなコメントやご質問をいただいている。その中で「75歳でパート労働をされている方が、“緊急小口資金の貸付には75歳未満との年齢制限がある”という理由で貸付を受けられなかった」という事例が寄せられた。
こうした年齢制限は実際に存在するのか、確認を進めた。
一例として東京都社会福祉協議会作成の案内によると、貸付対象は「新型コロナウイルス感染症の影響を受け、休業等により収入の減少があり、緊急かつ一時的な生活維持のための貸付を必要とする世帯」とあり、年齢による制限は記載されていない。
さらに、今回の特例貸付に関して厚生労働省が発表している「生活福祉資金貸付制度における緊急小口資金等の特例貸付の運用に関する問答集(Vol.6)」によると、「新型コロナウイルス感染症による収入の減少による家計への影響は様々であることから、一律に基準を設け、画一的な貸付を行うことは馴染まない」との文言がある。
そのほか、関係各所への取材から、新型コロナウイルス感染症の影響による緊急小口資金(特例貸付)の場合は、年齢を理由とした一律の貸付対象の限定は行われていない、と筆者は考える。
厚生労働省の運用問答集には、従来の(新型コロナウイルス感染症対策ではない)緊急小口資金の貸付で必要となる「印鑑登録証明書」については、今回は「申込における必須書類とはされていない」など、従来と異なる、間口を広げた運用がなされている。
一律に年齢を理由に「貸付が受けられない」とあきらめてしまうよりも、できるだけ各都道府県の社会福祉協議会に電話連絡をとり、柔軟な対応を求めることが大切だといえる。
新型コロナウイルスの影響により、多くの業種の人々がやむを得ない休業や事業の縮小を強いられている。
特に、個人事業主(フリーランス)として働いている人たちは、急激な「仕事のキャンセル」や混乱に伴う「報酬支払いの遅延」、感染症で激変した生活環境に適応するための「出費増」などに悩んでいる。筆者も、そんな立場にあるフリーランスライターの一人だ。
緊急を要するケースでは、この春に生活と事業を維持するための資金繰りを考えなければならないだろう。休業・失業に対する政府からの給付はあるとしても、3月27日の時点ではまだ詳細が決まっていない。たとえ給付10万円、あるいは20万円になるとしても、受けられるのはまだ先だ。
今このタイミングでフリーランスが自分と家族を守るために利用できる制度の一つに、3月25日に厚生労働省から発表された「生活福祉資金貸付制度の拡大」がある。
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、休業や失業等にる生活資金で悩んでいる世帯であれば、社会福祉協議会の窓口で面談した当日に借り入れ申込みを行い、20万円を1年間返済猶予付き、無利子で借り入れることができる。
私はこれを、実際に申し込みをしてみた。
「緊急小口資金(特例貸付)」のポイント
ポイントは主に3つある。
- 現在、減収になっている状況を客観的に示せれば、柔軟な対応が受けられること
- 申込日+5営業日で借り入れができること
- 返済開始は来年(2021年)以降であり、返済が困難な状況になった場合の相談先も示されていること
筆者が住む首都圏の自治体の社会福祉協議会に電話相談をしたのは3月25日、厚生労働省からの発表の当日だった。個人事業主であること、仕事の状況によりこの春の収入が落ち込んでいるため、緊急小口資金の特例貸付を受けたい旨を伝えた。
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電話では、個人事業主ということで自治体の事業貸付の窓口も案内されたが、筆者の場合、ある事情で事業貸付の申込みが難しいことを相談した。
というのも、2020年は以前務めていた企業を退職し、休止していたフリーランスライター業を再開して満2年になったところだ。再創業となった初年度の売り上げは非常に小さく、今年の分を前年同期と比較しても、減収があまり見えていなかった。
「そういう事情であれば、窓口で相談しましょう」
と決まり、翌3月26日の窓口訪問を予約した。
前年度からの収入減少の証明に悩んでいた筆者に、社会福祉協議会の窓口担当者の方は柔軟な対応をしてくれた(写真はイメージです)。
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緊急小口資金(特例貸付)相談、申込みに必要な書類等は下記の通り。
- 本人確認書類(健康保険証、運転免許証、パスポート、住基カード等)
- 住民票の写し(発行から3カ月以内、世帯全員分の記載)
- 預金通帳(新型コロナウイルス感染症の影響による減収を示せるもの、水道光熱費の支払いを証明できるもの)※口座が複数に分かれている場合はすべて
- 銀行印
そのほか、社会福祉協議会が必要とする書類があれば持参する。念のため、確定申告書と直近3カ月の売り上げ集計を用意していくことにした。
予想通り、窓口で相談の重点となったのが「減収をどのように客観的に示すか」ということだった。
売り上げ規模が小さく、預金で生活していた初年度に比べて、2020年は売上増を見込んでいたところを、新型コロナウイルス感染症の影響で見込みの収入にならない……という事情をどのように表せばよいか?
結果として、社会福祉協議会の窓口担当者の方からは、柔軟に対応していただき、しっかりと相談が受けられたことは特筆しておきたい。
直近3カ月分の売り上げ集計表をもとに、「1月、2月に対して3月は売り上げが小さい」という点を根拠とすることになり、売り上げ集計表のコピーに署名捺印して提出した。また、家族の事情なども申込書に記載することになった。
緊急小口資金(特例貸付)に関して受け取った書類の実物。必要書類は上に明記したとおりのものだ。
筆者提供
受けた貸付は20万円、据え置き期間が1年、返済期間は2年(24カ月)。連帯保証人は不要で無利子だ。
申込みを行った3月26日から5営業日後の4月2日に入金される予定で、決定通知書のようなものはないため、自分で口座を確認する必要がある。
返済は2021年の5月から開始、それまでに生活を立て直せないなど返済が困難になる状況があればと、相談窓口となる社会福祉協議会の窓口案内を受けた。
フリーランスに伝えたい「あえて、この記事を発信しようと思った」理由
緊急小口資金の制度発表時にSNSで広まった反発に対する筆者の危惧からこの記事を書くことに(写真はイメージです)。
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今回この記事を執筆するにあたり、筆者の事業の状況を公表することなるためかなり抵抗があったことは確かだ。
ただ、新型コロナウイルス感染症の影響に対する経済対策として、緊急小口資金の制度が発表された段階で、「貸付では意味がない」「給付でないため怖くて利用できない」「貸付で切り抜けろとはフリーランスをバカにしている」「フリーランスならば緊急事態に対する覚悟、備えができているべき」といった、強い反発をうかがわせる反応がSNSなどで出回ったことに危惧があった。
厚生労働省3月23日付ツイートより。
迅速な休業補償制度が政府から示されないことに対して、怒りを覚えるのは確かだろう。けれども、政府の対応が行き届かないという怒りの矛先が「こんな貸付制度は間違っている、利用すべきでない」という世論に結びついてしまった場合、制度を利用して生活を支えようと考えた人にとっては負のメッセージになってしまうことを恐れた。
制度の利用そのものが「間違ったこと」とレッテルを貼られてしまい、萎縮して利用できなくなってしまうのではないか。
実際に生活に困った世帯が利用できるはずの無利子貸付制度を避けて、有利子の消費者金融等を選ぶようなことには、なってほしくない。
また、新型コロナウイルスが経済に与える影響へ政府の対応を促すためには、裏付けのある情報で国民の窮状を政府に届けることが必要なはずだ。
緊急の特例貸付の申し込み件数が急増すれば、それは厚生労働省を通じて「緊急の生活維持のための資金を必要としている世帯がこれだけ存在する」という数字となって現れる。その効果も軽視すべきでないと考えている。
秋山文野:IT実用書から宇宙開発までカバーする編集者/ライター。各国宇宙機関のレポートを読み込むことが日課。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、書籍『図解ビジネス情報源 入門から業界動向までひと目でわかる 宇宙ビジネス』(共著)など。