名指しされた「夜の街」。夜クラスター制御が爆発的感染を防ぐ【新型ウイルス都知事会見】

小池都知事

3月30日、緊急記者会見の小池百合子都知事。「感染拡大を抑えられるかの重大局面であることに変わりはありません」と厳しい表情を示した。

撮影:三ツ村崇志

3月30日、東京都は新型コロナウイルス感染症への対応についての緊急記者会見を開いた。

小池百合子都知事は冒頭、

「先週から都内におきましては、感染者がさらに増加しております。

今がまさに感染拡大を抑えられるかの重大局面であることに変わりはありません

と、依然として気を抜けない状況であることを伝えた。

会見では、都内で最近確認された感染者のうち「感染経路が不明な方が多い」と報告された。その一部が、夜間・早朝にかけて営業しているバーや接待を伴う飲食店で感染が広がっている実態が明らかになったとして、当面こういった飲食店などに行くことを自粛するよう求められた。

今回の会見で重要な点は、「感染拡大を抑えられるかの重大局面であることに変わりない」ということ、そしてこの「夜の感染実態」だろう。

夜間・早朝にかけて営業している店舗での感染の実態が明らかになったとして、引き続き、感染が広がりやすいとされる「換気の悪い密閉空間」「多くの人の密集する場所」「近距離での密接した会話」の3条件が重なる環境を避ける必要があるだろう。

それを前提に、昨日の会見の内容を振り返ってみよう。

名指しされた「夜の街」。自粛と補償はセットで示されず

夜の街

クラブなどでは人が密集しており、まさに3密が重なった状態だといえる(2018年8月撮影)。

撮影:西山里緒

緊急会見には、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議でデータ分析を担当する、北海道大学大学院の西浦博教授が参加。

東京都福祉保健局と政府クラスター対策班で、これまで感染経路が分からないとされてきた都内の感染者に対して、行動履歴の見直しなどの再分析が行なわれたという。

その結果、ここ2週間で約30%にあたる少なくとも38人が、夜間・早朝のバーや接客を伴う飲食店などで感染している実態が明らかになった。

感染者の年代は、店員である20代や30代の若者から、客としてやってくる中高年まで幅広い。年代に問わず、店舗を利用する人の間で感染が広がっていたという。

小池都知事は会見で、

「こういった場は、感染のリスクが高い『3つの密』がより濃厚な形で重なる場になっております。こうした場への出入りを控えていただくようにお願いしたい。

とくに若者の皆様には、カラオケ、ライブハウス。そして中高年の方々については、バーやナイトクラブなど、接待を伴う飲食店などに行くことは当面お控えいただきたい」(小池都知事)

と、「夜の街」での感染の広がりに対して強く自粛を訴えた。

3密

この3つの条件が重なるような環境では、特に新型コロナウイルスの感染が広がりやすいとされている。

出典:東京都

国や都の会見で、特定の業態が“名指し”されると、その業態を営む事業者にとって大打撃は免れない。

記者会見では、

「新型コロナウイルス感染症によって、さまざまな影響を受けておられる宿泊施設、飲食店などの中小の事業者、そして従業員への強力な支援を国に要望してまいります。それと同時に、東京都独自の対策も考えてまいります」(小池都知事)

と、自粛要請に伴う東京都からの経済対策を匂わせる発言もあったが、具体的な取り組みについては特に何も述べられなかった。

厚生労働省は、金銭的な支援策として売り上げの減少幅に応じて実質無利子になる貸付や、雇用調整助成金などの制度を設けているが、事業者からは補償を求める声も根強い。

感染症の拡大を防ぐためにも、感染が抑制された後の経済状況を考えても、事業者が安心して自粛要請に堪えられる環境を整備することは急務だといえるだろう。

「東京都はラッキー」都内での感染の実態は?

西浦博士教授

東京都の会見で感染者のデータについて説明する、厚生労働省クラスター対策班の西浦博教授。

撮影:三ツ村崇志

東京都では、3月27日に40人、28日に63人、29日に68人の新たな感染者が確認され、感染者の爆発的な増加が始まりつつあるのではないかという懸念が高まっていた。

しかし、東京都のデータ分析を行った西浦教授は、

「現時点で、東京都で指数関数的な感染者数の増加の兆候はあるとはいえるが、爆発的な増加が本格的に始まっているという証拠はない

と話す。

その根拠は、先に述べた「夜の街」での感染の実態がつかめてきたことにある。

「孤発例(感染経路が分からない感染者)の分析を必死に進めてきているわけですが、孤発例の中に夜の街で感染している人が多く、その人の接触歴は夜の街の中で追えている。これは東京都にとってラッキーなこと」(西浦教授)

今回問題視された「夜の街」での感染の広がりは、あくまで特定業種内での感染の広がりであって、コミュニティで広がっている(市中感染が広がっている)わけではない。

「ここで食い止めることができれば、まだ感染症の広がりを制御できる可能性が残されている」

と西浦教授は説明する。

なお、3月30日に都内で新たに確認された感染者は13人。ここ数日の検査結果と比較すると数は少ないものの、単純に検査数が少なかったことが原因であり、感染者の増加傾向が鈍化したことを意味しているわけではない。

都の広報担当によると、31日には院内感染によるクラスターが発生している台東区の永寿総合病院の濃厚接触者の残りの検査結果が明らかになるとされており、感染者数はそれなりに多くなることが想定される。

単純な数の多さに驚かず、その内訳に注目する必要があるだろう。

「感染者増加よりも早く病床を増やす」

永寿総合病院

集団感染が発覚している台東区にある永寿総合病院のWebページでは、連日新たな感染者の確認が通知されている。

撮影:三ツ村崇志

西浦教授の分析によると、今後、感染者の増加ペースが止まらなければ、1〜2週間後には都内の感染者・輸入感染者(海外からの帰国者で感染していた人)の合計は最大で1000人を超える可能性も示唆されている。

会見では、今後の患者数の増加に伴い不足するであろう感染症病床の確保についても言及があった。現時点で東京都が確保している感染者を入院させることができる病床は500床程度。今後、感染者の増加に伴い、感染症病棟を持たない民間病院に対しても協力を要請し、最終的に4000床の確保を目指す方針が示された。

ただし、医療機関の稼働状況を考えると、常に4000床の余力を残しておくことは難しい。感染者の増加に伴い、段階的に病床を増やしていくことの繰り返しになるという。

国立国際医療研究センター病院の大曲貴夫氏は、

「今、現場では(感染症病棟を持たない)一般の医療機関の先生方やスタッフの方々が、感染症の患者を受け入れられるように準備を進めている。患者数の増加よりも早いスピードで病床を増やしていき、同時に感染症以外の医療も安全にやれるように現場としては準備を進めている」

と話す。

3月19日に開催された専門家会議では、医療機関で重症患者を確実に受け入れられる体制を確保するために、入退院の条件を緩和するよう提言がなされ、3月30日の都の会見でも、感染者が増加してきた場合には、軽症者・中等症の患者を退院させて自宅や宿泊施設で隔離することを検討していることが明らかにされた。

軽症・中等症の基準について、大曲教授は「個人の意見ですが」という前置きの上で次のように話した。

「微熱が出る程度であるということ。喉が痛かったり咳が出たりというところもありますが、その程度に留まっていて、なおかつ呼吸が苦しくない方。あるいは酸素の量を測って全く異常がないという人は軽症、あるいは中等症といってよいのかも知れません。

高齢の方などは状態が悪くなる可能性が高いので、慎重に判断すると自分なら考えます」(大曲氏)

新型コロナウイルスに感染した人は8割が軽症で済む。

つまり、2万人以上の感染者が同時に出てしまうと、そのうち2割にあたる重症者で、東京都が用意した重症者・重篤者向けの病床が足りなくなる計算だ。もちろん随時病床数は増やしていくことが想定されるものの、「医療崩壊」を引き起こす一つのラインだと思っておくべきだろう。

LINEのアプリ

3月31日、無料チャットアプリLINEから、新型コロナウイルス対策のための全国調査の通知がきた。

撮影:三ツ村崇志

西浦教授は、今後も引き続き感染者の爆発的な増加の兆候がないかどうか、注視し続けることが必要と指摘。

「今警戒すべきは、倍々で感染者が増えていないことをしっかり確認して、もし増えているということなら速やかに対策をするということ。

例えば、帰国者・接触者相談センターを通じて受診した外来患者数を見れば、発熱があった上で実際に受診した人の数が分かる。その他にも、SNSを利用して発熱者の増加が集中している状況が東京にないかどうか調査するなど、多角的なデータ使って、クラスター対策班で爆発的な増加がないかどうか警戒を行っています」(西浦教授)

今注目されている「夜の街」での感染の広がりが収束したとしても、いずれまた新しい感染の広がりが発見される可能性がある。

新型コロナウイルスとの闘いに、まだ終わりは見えない。

(文・三ツ村崇志)

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