トヨタが「1兆円借り入れ」準備した理由。コロナショック以前、財務省統計に見えた「不調の兆し」

トヨタ オリンピック

東京オリンピック・パラリンピックは2021年7月に開催延期。ワールドワイド・スポンサー(TOPパートナー)で、世界を代表する自動車メーカー・トヨタ自動車にとっても、新型コロナウイルス感染拡大の影響は深刻だ。

REUTERS/Edgard Garrido

新型コロナウイルスの感染拡大に端を発する、企業の業績悪化に懸念が広がっている。

金融庁の緊急調査によると、2月1日〜3月19日に全国の銀行や信用金庫に対して、中小企業から21万件を超える資金繰りの相談があったという。

こうした状況を踏まえて、政府は3月28日に追加の経済対策として、業績が悪化している企業の資金繰りを支援するため、融資や保証の枠を30兆円を超える規模で行う方向で調整していることを明らかにしている。

筆者はBusiness Insider Japanへの寄稿を含め、ここしばらく「コロナショックで飲食や観光など中小企業の経営が危うい」とさまざまな場所で指摘してきたのだが、じつは決算資料や財務省の法人企業統計調査を見ると、資金繰りに懸念があるのは中小企業に限らないことがよく分かってきた。

トヨタがいま借入枠を設定する理由

トヨタ自動車は三井住友銀行と三菱UFJ銀行に対し、合計1兆円規模の借入枠(コミットメントライン)の設定を要請していると報じられた(3月27日)。

その際、ネット上では「なぜ5兆円も現金があるトヨタが借り入れをする必要があるのか」「トヨタですら借り入れをするのだから政府はすべての産業を支援すべきだ」といったコメントが散見された。

決算資料を見れば、なぜトヨタが借り入れの準備(今回は借入枠内で無条件に融資を受けられる「約束」を取りつけたにとどまる)をするのかは明らかだ。

2020年3月期第3四半期決算短信を読むと、同社は約5.2兆円の現金および定期預金を保有する、いわゆるキャッシュリッチな企業であり、借り入れを行う必要はなさそうに見える。

ただ、トヨタは多くの債務も抱えている。同じ短信によると、短期借入金が約5.5兆円、1年以内に返済予定の長期借入金が約4.5兆円、合計10兆円で、現金および定期預金を大きく上回る。

金融債権が約6.8兆円、長期金融債権が約10.9兆円と、貸し付けている資産も多いが、もしそれを現金化しようとすれば、貸付先であるグループ各社から回収する必要がある。実際にやるとなると、グループ全体の運営に大きな影響が出るだろう。

同社はそのほかに約10.9兆円の長期借入金も抱えており、そうした数字を筆者なりに整理してみると、現預金などの純粋な余力は2〜3兆円程度と考えられる。

トヨタの年間売上高は約30.2兆円(2019年3月期実績)なので、月平均に換算すると2.5兆円程度。債務は便宜上すべて無視するとして、極端な話、新型コロナウイルスの影響で売り上げが1カ月分まるごと吹き飛んだとしたら、現預金に余裕がなくなり、それが2カ月におよべば、その他の資産に手をつける必要が出てくる。

トヨタくらいの大企業でも、世間のイメージほどに資金的な余裕があるわけではないことを理解していただけただろうか。

近年は大企業の内部留保(=当期純利益から配当を差し引いた残りの利益)が積み上がり、設備投資にも回らず「金余り」と揶揄する声も多いが、いざ緊急事態に陥ってみると、ただ内部留保を減らせばよいという話ではないことにも気づかされる。

全日本空輸 マスク 新型コロナウイルス

関西国際空港にて。全日本空輸(ANA)も約1000億円の借り入れを検討しているという。

REUTERS/Edgard Garrido

トヨタの借入枠1兆円報道と同じ3月27日、全日本空輸(ANA)も約1000億円の借り入れを検討していると報じられた。同社については、約5000人の客室乗務員を一時的に休業させるとのニュースも出ている(3月19日の各社報道)。

トヨタと同様の視点から、ANAの2020年3月期第3四半期決算短信を見ると、現預金は1268億円。売上高は約2.1兆円、月換算すると約1700億円なので、1カ月売り上げが立たなければ現預金が足りなくなる。

航空業界では世界的に稼働率が40%以上減少している(国際航空運送協会[IATA]調べ)現況を考えると、単純計算すれば、このままでは数カ月で現預金が尽きる計算になる。

増税前から日本企業のペースダウンは始まっていた

こうした企業の苦境を「企業の現預金が足りなくなったのは、2019年10月の消費税増税による消費低迷が原因で、そこにコロナショックが重なったからだ」と説明する向きもある。

しかし、それは多少事実と異なる。なぜなら、日本の企業が増税前から低迷を始めていたことを示す明確なデータがあるからだ。

相次ぐコロナショックのニュースに埋もれて注目されていないが、3月2日に財務省が発表した最新の法人企業統計調査の結果を見ると、一目瞭然だ。下のグラフをご覧いただきたい。

法人企業統計調査 推移

上記の企業業績の推移に金融・保険業は含まれていない。

出典:財務省「法人企業統計調査」結果より編集部作成

日本企業(金融・保険業を除く)の売上高は、東日本大震災で大きな減退を経験したあとに復活を遂げ、景気後退の入り口と取り沙汰された2015年秋以降のおよそ1年間を除き、好調を維持してきた。とくにここ数年は、前年同期比5〜6%増を記録する四半期も多かった。

ところが、2019年4〜6月期に突如ペースダウン(0.4%増)し、7〜9月期には3年ぶりのマイナス(2.6%減)を記録。消費税増税後の10〜12月期には6.4%減という急ブレーキがかかった

同じく東日本大震災後の経常利益の推移を見ると、さらに流れが際立つ。2015年秋以降の数四半期はやはり落ち込んだものの、それ以外は前年同期比10%台、20%台という大幅増も目立つ好調が続いた。

それが2018年10〜12月期に7%減を記録すると、翌四半期持ち直すも4〜6月期には12%減、7〜9月期も5.3%減、消費税増税後の10〜12月期も4.6%減。増税を待たずして、企業の稼ぐ力が弱り始めていたことが明らかに見てとれる。

とくに落ち込みが激しいのは製造業だ。

売上高は2019年4〜6月期以降、前年同期比マイナスが続く。営業利益については、2018年1〜3月期に久しぶりのマイナスに落ち込むと、同年10〜12月期には2016年以来の2桁マイナス(10.6%減)を記録。2019年4〜6月の27.9%という大幅減以降は、2桁のマイナスが常態化している。

製造業の減衰モードがすでにこのように顕在化していたからこそ、その代表格ともいえるトヨタ自動車は、コロナショックにいち早く反応して現金確保に動いた面もあるのではないか(もちろん、欧米の生産拠点の稼働停止といったインパクトあってのことだが)。

企業はいまどのくらい現預金を保有しているか

法人企業統計調査 手元流動性 推移

上記の手元流動性の推移に金融・保険業は含まれていない。

出典:財務省「法人企業統計調査」結果より編集部作成

「経済危機において最も大事なのはキャッシュ(現金)」というのは、リーマン・ショックの際にも言われたことだ。

いま日本企業の現預金の保有状況はどうなっているのか。再び財務省の法人企業統計調査を見てみよう。

東日本大震災後の数年間は現預金が減る四半期が続いたものの、2013年10〜12月期に前年同期比プラスに転じると、2019年4〜6月期に0.2%減を記録するまで20四半期以上連続で、一度も前年同期比マイナスになることなく積み上げ続けた(前節のグラフ参照)。2019年7〜9月期は増減なし、消費税増税後の10〜12月期は0.6%増となっている。

全体として見ると、日本企業は5年以上にわたって現預金を増やし続けた結果、長期のプラスに転じた2013年10〜12月期に手元流動性(=現預金などすぐに支払いに充てられる資金)が12.7(平均月額売上高の12.7カ月分を指す)だったのに対し、直近の2019年10〜12月期には15.7まで増えている。

これを企業の規模別で見ると、多少興味深い事実が見えてくる。

最新の数字である2019年10〜12月期を見ると、資本金1億円未満の企業の手元流動性は22.0、1億円以上10億円未満の企業で10.2、10億円以上の企業では12.9。つまり、小規模な企業は売上高の2年分近いキャッシュを抱えているのに対し、中堅や大企業のそれは1年分、あるいはそれ以下にとどまっているということだ(株主還元の圧力がかかるから当然といえば当然なのだが)。

「資金繰りは中小企業のほうが大変」は誤解

アメ横 新型コロナウイルス

東京都などによる外出自粛要請を受け、週末の都内各所は閑散。写真は上野のアメ横商店街。飲食店など中小・零細企業へのダメージは間違いなく深刻だが、大企業は大丈夫というわけでもない。

REUTERS/Issei Kato

今回コロナショックによって(売り上げが落ち込み)、多くの企業の手元資金の流動性は一気に悪化した。

大企業であれば、社債や第三者割当増資など、多様な手段を用いて現金を調達することができるかもしれない。ただ、大企業は中小企業よりも多くの従業員を抱え、固定費も重くのしかかるので、もし政府の要望に応えて雇用に手をつけないことを前提とするなら、これから資金ニーズが増え、手元流動性を圧迫していくことになる。

要するに、ついに可視化された企業業績の減速とコロナショックの合わせ技により生じた資金繰りの問題は、中小企業だけの問題ではあり得ないということだ。大企業ですら、キャッシュが回らなくなり、黒字倒産ということが起こり得る。

確かに、中小企業は数としては全企業の99.7%(2016年)を占め、その崩壊は日本の屋台骨が揺らぐこととイコールだから、もちろん無視できない。

しかし、従業員の数で見ると、大企業も約1459万人(31.2%)と大きな割合を占め、こちらも破たん時の影響はきわめて大きい(数字はいずれも2019年版中小企業白書)。

雇用を守りつつ、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の萎縮からいち早く抜け出すために、企業の規模を問わない資金支援を期待したい。


森泰一郎(もり・たいいちろう):株式会社森経営コンサルティング代表取締役。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。戦略コンサルティングファームを経て、ITベンチャー企業にて経営企画マネージャーを担当。M&Aや経営企画、事業企画、業務改善に従事。IT企業にて取締役CSOとして経営企画と戦略人事、新規事業開発を担当。現在は大手上場企業から中堅・中小ベンチャー企業まで、成長戦略、組織再編、M&A、コスト削減のコンサルティングを行う。

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