コロナ後にとるべき経済戦略とは。想定外の事態に強い「遊び」「冗長性」のある収益モデルに投資せよ

オリンピック お台場

東京オリンピック・パラリンピックは2021年7月に延期。新型コロナウイルスの感染拡大はまだ世界中で続いているが、人々の心は「アフターコロナ」に先走る。しかし、そこにあるのは新たな「不確実性」だ。

REUTERS/Issei Kato

筆者が専攻する「金融技術論」では、一般にリスクと言われているものについて、そもそも何がリスクかを定義し、そのうち数字で把握できるものを狭義の「リスク(risk)」、そうでないものを「不確実性(uncertainty)」と呼んで区別する。

例えば、財務諸表を開示せず社長が「大丈夫!」と言っているだけの会社と、大赤字で先行きが見通せない上場企業は、どちらも「アブナイ会社」だが、前者のアブナさは「不確実性」、後者は少なくとも財務状況が(粉飾がなければ)詳細に開示されているので「リスク」と考えるわけだ。

リスクは数字で把握できるため、金融を例にとると、リスクに見合った金額のデリバティブや保険といった金融技術(商品)を使って備えることができる。

これに対して、不確実なものはそもそも何がリスクなのか分からないし、もし分かっても数字に落とし込めないから対応が難しい。そのため、考えても仕方ないから何もしないか、きわめて保守的に備えるかのどちらかになりやすい。東日本大震災の前後における、原発の巨大津波への対応を思い出してみるとよくわかる。

世界の「物理的な」分断を目前にして

バングラデシュ 工場

日本企業は安い労賃を求めて生産拠点の国際展開を進め、生産性と効率性をぎりぎりまで最大化する戦略をとってきたが、「アフターコロナ」の世界ではそれは通用しなくなるかもしれない。

REUTERS/Mohammad Ponir Hossain

さて、世界はいま新しい「不確実性」に直面している。

一つは言うまでもなく新型コロナウイルスの流行がいつ終息するのかということだ。しかし、筆者がより懸念するもう一つの不確実性は「アフターコロナ」にある。

これまで我々は、グローバル化、すなわち「世界は誰でもいつでもどこにでも移動できて、自由に経済活動ができる」状態が相応に達成され、また今後もさらにその方向に世界が進んでいくことを、経済活動の当然の前提としてきた。

だからこそ、多くの日本企業は収益のトップラインが伸び悩むなかで、安い労賃を求めて生産拠点の国際展開を進め、生産性と効率性をぎりぎりまで最大化することで、売上高が伸びなくても利益を増やし、株主の要求に応えてきた。

ところが、コロナショックによって、この前提はいとも簡単に崩れることが分かった。

確かに、新型コロナウイルスの流行以前にも、ポピュリズムの台頭によってグローバル化のネジが為政者の手で逆に巻かれ、世界の国々が「政治的に」分断されるリスクが意識されてはいた。

しかし、いかにトランプ大統領でも、移民だけでなくあらゆる外国人の入国を拒むことまではしなかった。「アメリカ・ファースト」という理想は、アメリカ以外の国と一緒に実現することができないだけで、あくまでグローバル化が前提だった。オイシイ部分は自国に、という発想にすぎない。

ところが、新型コロナウイルスはいとも簡単に世界を「物理的に」分断してしまった。

マッキンゼー論文に学ぶこと

アフターコロナの世界では、あらためて「想定外」に備える国家戦略、企業戦略が必要となる。

コンサル世界大手マッキンゼー・アンド・カンパニーが1997年にハーバード・ビジネス・レビュー誌で発表した「不確実性のもとでの経営戦略(Strategy under Uncertainty)」という論文では、広義の不確実性を、(1)十分に明確な未来(2)選択肢の中のどれかになる未来(3)一定の幅の中のどこかに落ちる未来(4)真の不確実性、という4段階に分けている。

このうち(2)(3)においては、経営者は考えられる「選択肢」や「選択の幅」の中から競合相手の動きを読みつつ、最良と思われる選択をすることになる。

しかし、なまじ選択肢が見えるだけに、競争相手の動きを考慮せざるを得ず、結果的にプレーヤーが総すくみになって「勝てない」隘路(あいろ)に陥りやすい。「囚人のジレンマ」と呼ばれる状況がその典型だ。

また、魅力的ではあるもののリスクの大きい選択肢があって、それをめぐって大企業とベンチャーとが競合する場合、大企業は往々にしてベンチャーを先に走らせておいて、勝敗が見えてきたところで強力な販売網や資金力を使って勝ち馬に乗る「二番手戦略」をとりがちだ。

とくに日本ではそういう傾向が強く、あえてリスクを取っても先行者利益が約束されないため、往々にして「誰も動かない」隘路に陥る。

これに対して(4)では、自分も含めたすべてのプレーヤーにとって、とるべき戦略がまったく見えない。だから、競争相手の動きを読むのではなく、競争のルールが変わる次の時代に向けて、新たな方向性を白いカンバスの上に提示する戦略をとるしかない。

そして、新たな方向性の提示に成功したプレーヤーは、「逆説的(paradoxically)」に低いリスクで高いリターンを享受できる可能性が高い。

一方、そうした不確実な状況のもとで「二番手戦略」をとることは、座して死を待つことを意味するから、誰もが何らかの新たな戦略をもって臨む。その場合、どのプレーヤーにも平等に勝つチャンスが与えられる、とマッキンゼー論文は指摘する。

「冗長性」への投資こそ次のコア戦略

株価 日経平均

万が一のときに大きく収益が下振れするビジネスモデルは脆く、今後は株価を押し下げる要因にもなりかねない。

REUTERS/Edgard Garrido

では、次の時代の戦略とはどのようなものか。

たいへん難しい問題だが、筆者は「冗長性(redundancy)への投資」がキーワードの一つになるような気がしている。

グローバル化を所与の条件としないと世界経済が回らないという前提自体は、今後も不変の事実だ。だが、その前提がときに思いもよらない理由で寸断されることは、今回の新型コロナウイルスのまん延という事態を経て、「想定内」とせねばならなくなった。

そうなると、これまでのようにグローバル化を前提に世界規模で高い効率性を求めるビジネスモデルには「脆さ」が目立つようになる。

万が一のときに大きく収益が下振れする構造は、企業収益のボラティリティ(変動性)=リスクを高めるから、仮に目先の収益率が高くても、株価が押し下げられる。

だから、コスト的には多少無駄があっても、万が一の場合に「遊び」のある「柔構造」の収益モデルが市場に好まれる可能性が高い

例えば、多少効率は落ちても、家でできるホワイトカラーの仕事は、内外を問わず在宅勤務を前提にして本格的に再構築する。

一方、工場生産については、海外の低労賃は引き続き享受しつつ、国内にもあえて二重投資して、平時は一定人数を雇用して低稼働率で操業しておく。万が一の場合に備えて、ロボット化などを通じて同じ人数でも数倍の生産量を確保できるようにする。

国もそうした「冗長性確保のための働き方改革」を支援し、また国内(特に地方)に生まれる「冗長性への投資」を、低金利での融資や補助金、割増償却といった方法で積極的に支援し、地方に「冗長性確保のための雇用」を生み出す。

上野 アメ横

外出自粛要請を受け、都内は閑散。ウイルス流行が終息しても、一件落着で景気回復というわけにはいかないだろう。

REUTERS/Issei Kato

いまは企業の資金繰りを支援するだけで目一杯の状況だが、新型コロナが終息したら一件落着というわけにはいかない。

普通に考えれば、アフターコロナの投資家たちは慎重になるだろうし、そのことが経済をさらに下押しする懸念がある。そうかといって、単純なバラマキだけでは市場の反応が鈍いことはすでに経験済みだ。

そこで、グローバル化は推進しつつも、想定外に備えるための冗長性への投資や、効率性を犠牲にした働き方の推進を政府としてフォローする。そのあたりに、「アフターコロナ」の経済政策や企業戦略の方向性と、「特需」を生み出す視点がありそうに思える。


大垣尚司(おおがき・ひさし):京都市生まれ。1982年東京大学法学部卒業、同年日本興業銀行に入行。1985年米コロンビア大学法学修士。アクサ生命専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学教授を経て、青山学院大学教授・金融技術研究所長。博士(法学)。一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事、一般社団法人日本モーゲージバンカー協議会会長。

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