4月2日世界配信。“手描きフル4Kアニメ”「Sol Levante」に挑んだプロダクションI.Gの狙い

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本当にちゃんと4KとHDRを使えば、過去に作られたフィルムアニメを超えるものができます。今回は可能性の一部を提示しただけ、まだまだ可能性の山ですよ」

アニメーション監督の齋藤瑛氏はそう断言する。齋藤氏は、「イノセンス」「スカイ・クロラ」など、多数の緻密な描写を伴うアニメの制作に多数関わった経験を持つ、「ハイエンドアニメ制作のプロ」のひとりだ。

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アニメーション監督の齋藤瑛氏。Production I.Gで制作されたフル4K・HDR制作アニメ「Sol Levante」の監督を務めた。

撮影:西田宗千佳

そんな齋藤氏が監督し、Production I.Gとともに制作した作品が、4月2日16時から、ネットフリックス(Netflix)で世界配信される。

タイトルは「Sol Levante」。4分程度の短い作品だ。

https://youtu.be/Ecr_02W2Csw

Netflix

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試写はネットフリックスジャパンのオフィス内でおこなわれた。

撮影:西田宗千佳

試写を見た筆者は圧倒された。恐ろしい量のディテールが盛り込まれた作品になっているからだ。

この作品は、ネットフリックスの協力のもと、2年の歳月をかけて、「手書きによる4K+HDR+立体音響の作品」として生み出された。そこから得た自信が、冒頭のコメントにつながる。

だが、多くの人は「4Kのアニメなんて、もうあるのでは」と思っていないだろうか。そこに、実は大きな違いがある。

なぜこのような作品が作られるのに至ったのか、そして、そこに秘められた狙いを聞いた。

「すべてが手描き」の驚異的な4Kアニメ作品が生まれた理由

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映像制作に詳しくない人は、「4Kの映像は4Kで作られたもの」と思っているかもしれない。実際にはそうではない。

テクノロジーは進化したものの、デジタル制作のアニメーションのほとんどは、2Kもしくはそれ以下の解像度で作られるものが多い。それをうまく「拡大」することで、より解像度の高いテレビでも視聴できているに過ぎない。

一方、本当に4Kの解像感を持った作品もある。一部の劇場向けアニメーションや、フィルム時代に手間とコストをかけて作られた作品群だ。

現在は高性能なフィルムスキャナーの力を借りることで、元々のフィルムが持っていた情報量を引き出せる。そのため、4K配信や、Ultra HD Blu-rayに収録された4Kの映像では、「過去の劇場公開時を超える解像感を持つ映像」を体験できるようにもなっている。

では、デジタルのアニメーションはアナログに負けるのか?

そうではない、というひとつの証が「Sol Levante」だ。

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メイキング映像より。

出典:Netflix

「Sol Levante」では、すべての映像が「4KかつHDR」であることを前提に作られている。髪の毛1本1本、草むらの描写まで、すべてが「手描き」だ。瞳に映る光や唇の微妙な光沢も、手描きかつ、HDRで表現できる「より多彩な色彩」で直接描かれている。

4Kのアニメ、ということになると、いわゆる3D CGを多用することが多い。手描きでは多数の絵を用意するのが大変だからだ。元の3Dデータを作るのは大変だが、演算処理ならば、解像度を上げても手描きほど手間は増えない。

だが、「Sol Levante」はあくまで「手描き」が中心。省力化のために、一部のカットで「カットアウトアニメーション」という手法を使っている。これは「切り絵」のことで、間接単位で絵を作り、動く前と後のコマとの間を、計算で生成する手法。海外では広く使われているが、日本ではまれな手法だ。

そうして作られた映像は、毎秒24コマ分。通常の日本のアニメは、その半分から9コマ程度だが、「Sol Levante」では全編24コマだ。

そのため、驚くほどのなめらかさと、恐ろしいほどのディテール(情報量)を感じられる。

Sol Levante

メイキング映像より。

出典:Netflix

音も、立体音響システムである「Dolby Atmos」に対応しており、アニメーションの動きに合わせて作られている。例えば、本編中、主人公が馬や鳥に変身するシーンがあるが、そこでは金管楽器セクションの人々がわざと「立ち上がって」演奏しているという。そうやって高さを変え、主人公の視点の変化を音の位置で示そうとしているのだ。

4分ほどの映像だが、齋藤氏は「鬼ループ推奨」と笑う。見るたびに新しい描き込みや音の作り込みに気付く、そんな凝った作品になっているからだ。

「あまり4KとかHDRとか考えず、ただ見て、感じて欲しいです。映像だけじゃなく、音も1回ではわからないくらいの情報量を詰め込みました。次世代の映像だと思って楽しんでください」(齋藤氏)

課題は制作環境、「準備さえできれば日本のアニメーターは対応可能」

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「さぞかし手間のかかったことだろう。それは、なかなか他のところにはできない」

そう思われるかもしれない。

だが、齋藤氏の答えは逆だった。

「ストレスのない制作環境が用意されれば、あっという間に普及しますよ。日本のクリエイターにとってはさほどハードルは高くないのではないでしょうか。日本のクリエイターは、今のアニメでも相当に細かい線を描いているんです。なので、4Kに対応するツールさえ用意できれば、十分な表現ができるでしょう」(齋藤氏)

とはいえ、前述のように、「Sol Levante」の制作には2年の時間が掛かっている。けれども、それは、「ごく少ないスタッフ」で、「ノウハウを蓄積しながら試行錯誤したから」だ。「もう一度同じ規模のものを作るなら、今度はもっと短い時間できるでしょう」と齋藤氏は言う。

では、なぜ「すべて4Kで描いたアニメ」が世の中に出てこなかったのか?

「結局、やらない理由・できない理由はコストと時間です。

普段は短い時間で大量のものをやらないといけないので、演出にしろ、普段は『この枠内でやるには』という発想になります。クオリティと細かさ、時間を天秤にかける感じですが、今回は『一切諦めなくていい』ということだったので。今回のチームは『イノセンス』などを手がけていて、『大変なことはわかっているけれどスゴイものがやりたい』と思っていたんです。なので、自費で作って方々にデモしていたりしたのですが」(齋藤氏)

制作に関わる経緯を、齋藤氏はそう説明する。

実は、今回の映像部分の制作については、メインのスタッフは3人。そこから必要な人員を手配し、時間をかけてノウハウを組み上げ、作品に仕上げた。

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「Sol Levante」のメインスタッフ。初期からの制作に関わったのは中央の3名で、時間をかけてノウハウ構築が行われた。

出典:Netflix

アニメーターが描く細かさは、紙の大きさで決まるため、4Kになると当然大きくならないといけない。それは困難なので、今回は、最初からすべてデジタルで作画だ。描線の太さをどうするかも、すべて作りながら決めた。

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作画はiPadを使い、完全なデジタル作画でつくられたという。

出典:Netflix

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描かれた絵の描線をどの太さ・強さにするかも、作品イメージに合わせて繊細に選ばれた。

撮影:西田宗千佳

4Kの映像というと「4Kで描けばいい」と思われるかもしれない。だが、実際にはそうではなく、「一部の寄りから引いていく絵」を作る場合には、一番寄った時が4Kの絵になるように作る。すなわち、一番大きい「引きの絵」は、ずっと大きなサイズになるのだ。

「(引きの絵は)2万ピクセルを超えたんじゃないですかね。以前、『攻殻機動隊』の広告用に、地下鉄の壁一面に貼るポスターを作ったことがあります。あれが1万ドットくらいだったので、今回の最大の絵は、学校の壁面くらいになりますね(笑)」(齋藤氏)

制作データとノウハウは「オープンソース」で公開

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合成・エフェクトを含めた色彩設計も、全コマ細かく、入念に行われている。

出典:Netflix

それだけの絵を処理し、最終的に映像にするのは大変だ。費用だけでなく、ツールを含めた制作面では、ネットフリックスの技術チームもサポートしている。

ネットフリックス クリエイティブ・テクノロジーエンジニアの宮川遙氏は、

「作画などに問題はなかったのですが、合成などでは予期しない問題が多く発生しました。ハードだけでなくシステム導入の面でも見直しが必要です。ソフト面で発見した問題は、メーカーに伝えて改善に努めています」(宮川氏)

と話す。

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ネットフリックス クリエイティブ・テクノロジーエンジニアの宮川遙氏。ネットフリックス側から技術面のサポートとして今回のプロジェクトに参加した。

撮影:西田宗千佳

ネットフリックスがこうした技術サポートをするのは、クリエイターに可能性を提供するためだ。

そのため同社は、今回の制作で得られたノウハウをすべて公開する、という。

実際に制作に使われた連番形式の画像ファイルや、音響作成に使ったデータは、オープンソースの形で共有される。技術情報については、同社が開いている「Tech Blog」で文書として公開するという。

サーバーなどのソフト技術では、ネットフリックスはオープンソースへのコミットを旨としている。それと同じように、「4K・HDR+立体音響で作品を作るノウハウ」も共有しようとしているのだ。

ソフトの世界では、オープソースによってノウハウが共有されることで、より効率的な制作が進むのが当たり前になってきた。今回のプロジェクトは「作品制作」だが、ネットフリックスはある種の投資として、自ら作品制作費用を負担した上で、ノウハウも公開しようとしている。それは、シリコンバレーの企業が慣れ親しんだ、ソフトウェア開発の手法やり方と同じだ。

(文、写真・西田宗千佳)

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