アメリカでユーザー数を大きく伸ばしているスマートニュース。
Screenshot of SmartNews
- 人工知能活用のニュースアグリゲーションアプリ「スマートニュース(SmartNews)」が、新型コロナウイルスの世界的流行を背景に、3月1日からの約1カ月でユーザー数倍増を果たした。
- 利用者急増の理由について、同社は、新型コロナ流行への強い関心をあげた。
- スマートニュースアプリは、新型コロナの世界的大流行に関連するニュースについて、位置情報など個別のユーザーにパーソナライズされたヘッドラインを表示する「コロナウイルスチャンネル」タブを設置している。
- 同社によると、新型コロナ流行による景気低迷でマーケティング費用の削減を進めているものの、売り上げにネガティブな影響は出ていないという。
新型コロナウイルスの世界的大流行により、外出が禁じられ、経済は大打撃を受け、いま人々はニュースに飢えている。
2012年に東京で生まれたスマートニュースは、3月にアメリカでのダウンロード数を大きく伸ばした。2019年8月時点での日米合わせた月間アクティブユーザー数(MAU)は2000万人だったが、3月末までに2倍以上にふくれ上がった。
同社の時価総額は11億ドル(約1200億円)。Business Insiderを含む400のパブリッシャーが提供する政治・スポーツ・グローバル・エンタメなどのニュース記事を、機械学習にもとづく評価アルゴリズムを活用し、キュレーション配信している。
アップルの定額制サービス「Apple News+(ニュースプラス)」と競合するが、ペイウォール(課金)ではなく広告モデルを採用している。
また、グーグルのAMPやフェイスブックのインスタント記事に相当する、ページの読み込み時間を短縮する「スマートビュー」機能も実装している。
アップルのサブスクリプション(定額制)サービス「Apple News+(ニュースプラス)」。
Hadrian / Shutterstock.com
スマートニュースの経営幹部によると、3月のユーザー数急増は、のちに国家的緊急事態に発展していく新型コロナウイルス関連記事へのニーズに、すばやく対応したのが第一の理由だという。
同社では、2月に新型コロナウイルス関連のニュースを選定するための専用アルゴリズムを開発した。コンテンツ担当バイスプレジデントのリッチ・ジャロスロフスキー氏によれば、中国と日本をコロナショックが直撃したころ、そして「アメリカで新型コロナが意識され始める前」の話だ。
スマートニュースのアプリでは通常、ユーザーが自主的にチャンネル(パブリッシャー)を追加する仕様になっているが、同社は3月初旬に「コロナウイルス」を常設チャンネルとして固定。ユーザーはその後、徐々にコトの重大さを認識していくことになる。
大手報道機関が新型コロナウイルスの取材に全面的にシフトしたあとも、国家規模のニュースと、数マイルの距離でも内容の異なるスーパーローカルなニュースの両方を提供することで、独自の役割を果たしてきた。
前出のジャロスロフスキー氏は次のように説明する。
「マーケティング担当バイスプレジデントのファビアン・ピエール・ニコラスは、僕の家から30マイルほど離れたシリコンバレーの北端に住んでるんだけど、彼のアプリのヘッドラインは僕のと全然違うんだ。ニコラスにはすぐ近くのサンフランシスコから、僕にはパロアルトやレッドウッドシティのニュースが飛んでくるのさ」
さらに、ニコラス氏はこう補足した。
「非常事態の渦中にいる人々の要求をきちんと満たす、本質的なものであるかどうか、結局はそれに尽きる。さまざまな角度から見た、信頼できる質の高い情報を得られることが重要だ」
大統領選で過去最高、すぐにコロナで記録更新
都市封鎖(ロックダウン)に至る未曾有の事態。アメリカ国民は自らの命を守るため、ニュースを必要としている。
REUTERS/Joe Penney
ジャロスロフスキー氏によると、新型コロナ関連記事への関心の高さは、大統領選挙をはるかに上回るものだという。
「人々はいまニュース記事を読んで、それに合わせて行動を決めている。ジャーナリズムの世界に長く身を置いているけれども、2001年の米同時多発テロや2007〜08年のリーマン・ショックを含めた金融危機以外に、こんな状況は見たことがない。歴史的にも異例の事態だし、人々もそのことに気づいている」
スマートニュースによると、もっとニュースが必要だという渇望感がアメリカで最も高まったのは、3月12日だったという。サンフランシスコ・ベイエリアが不要不急の企業活動を禁じるロックダウン(都市封鎖)を発表する数日前だ。ニコラス氏はこう語る。
「NBAがレギュラーシーズン中断を決め、トム・ハンクスがコロナ感染を公表した日、そしてアメリカが国家非常事態を宣言するまさにその前日が3月12日。僕らのアプリのユーザー数が跳ね上がった日だ」
ニコラス氏によると、スマートニュースはスーパーチューズデー(=米大統領選挙の予備選や党員集会が集中した3月3日)に過去最高のユーザー数を記録していた。ところが、まもなく新型コロナウイルスへの関心が高まり、記録はあっという間に更新されたという。
ただし、2019年8月に日米合算で2000万MAUという数字以外に、同社は具体的なユーザー数の指標を明らかにしていない。
データ分析会社のアップトピア(Apptopia)によるダウンロードトラッカーの数字は、ニコラス氏の話との整合性を示しており、スマートニュースのダウンロード数がCNNやFox Newsなど大手メディアを上回る勢いで伸びていることは間違いない。
ニュースアプリのダウンロード数比較。3月12日以降、大手メディアも含めて急増しているが、スマートニュースは他社の倍以上と突出した伸びを示している。
Apptopia
新型コロナウイルスの影響で経済が縮小するなか、スマートニュースもマーケティングコストの削減を進めており、アプリダウンロード数の急増やアクティブユーザーの伸びが同社のビジネスに貢献するかどうかは現時点では判断できない。
スマートニュースはビジネスにネガティブな影響は現時点ではないとしている。しかし、エンゲージメント率を大きく伸ばしていたツイッターが、業績見通しを下方修正してマーケティング費用の削減を図るなど、市場の先行きに暗雲が立ち込めているのは確かだ。
(翻訳・編集:川村力)