大企業からフルリモート企業に転職した筆者の一日、そこは「現実世界よりリアル」

在宅

そもそも創業以来、フルリモートという企業で働く一日はどんな様子か(写真はイメージ)。

GettyImages/artparadigm

「リモートワーク」というワードがトレンドに登ってはや数カ月。新型コロナウイルスの世界的な感染爆発という未曾有の事態で、感染拡大が深刻化する東京では首都封鎖(ロックダウン)も現実味を帯びてきた。

様々な企業が手探りでリモートワーク導入に踏み出し、長期化、本格化する自粛要請に奔走している。そんな中、そもそも会社の創業以来、社員全員が常にリモートワークの「フルリモート」という勤務形態をとる企業がある。

誰も出社せず、一緒に働くメンバーに一度も会ったことがなく、半年働いても顔を知らない人すらいる——この少々変わった勤務形態を採用しているのは、東京都渋谷区に本社を置く株式会社bosyu(ボシュー)。同社は「できること、してほしいこと、やりたいことを募集できるWEBサービス・bosyu」を提供しているIT企業であり、筆者の勤務先でもある。

私がUIデザイナーとしてbosyuに勤務し始めたのは、およそ半年前。それまで決まった時間に出社し、対面で顔を合わせて会議をするごく一般的な大手企業に勤めていた私にとって、そこはSF映画の世界のような、あるいはゲームの世界のような、ある種、異世界じみた場所だった。

9:00 チャットアプリに出勤。最初に話す相手は機械?

スラックのチャット画面。

チャットアプリSlackのスクリーンショット。

筆者提供

始業時間、出勤するのはオフィスではなく『slack(チャットアプリ)』だ。アプリを立ち上げるなりピコンと赤いマークがついて、さっそく誰かが話しかけてきたことに気付く。「今日はなにやる?」 Slackの画面上に表示された文字を確認したのち、私はカタカタとキーボードを打って返信する。

「今日はキャンペーン関連の諸々をやります」「順調ですか? 困ってること、お願いしたいことない?」「大丈夫!」「伝えたいことある?」「ちょっと頭痛いかもな〜」「Thank you! have Fun!」

突然流暢な英語を話し出したこの相手、実は上司ではない。というか、人ですらない。チャットボット(機械による自動発言システム)である。このチャットボットは毎日決まった時間に、今日やることや、やったことを尋ねてくる。

一見すると機械と会話する寂しい人のように見えるかもしれないが、ここで返答した内容は自動でslackの朝礼チャンネルに投稿される。チャンネルを開くと、みんなの今日の様子が一覧で見れる仕様である。

頭痛いかも、と投稿したコメントには、すぐに「お大事に」のスタンプがつく。スタンプを押しているのは、遠隔で働く会社のメンバーたちだ。どうやら頭痛を心配してくれているらしい。

10:00 テレビ会議室にログイン。今日のアバターは何にしよう?

ZOOMの作業部屋のスクリーンショット。

筆者提供

一通りslackを確認しつつ、『Zoomアプリ』を立ち上げて、いつもの『作業部屋』にログインする。

『Zoom』はテレビ会議ツールで、遠く離れた海外にいるメンバーとも、まるで隣にいるかのように会話できる優れものである。マイクをオンにして、すでにログインしているメンバーに挨拶する。

「おはようございます〜」「おはようございます。頭痛いの、大丈夫です?」「リモートは頭痛くなりやすいんで、体動かしたほうがいいっすよ」「やっぱり? ジム通おうかなあ」

雑談しながら、『SnapCamera』を立ち上げて今日のアバターを選ぶ。

『SnapCamera』はカメラで撮影した自分の顔に、リアルタイムでエフェクトを付けることができるツールで、使うエフェクトによっては化粧をしたような顔になったり、完全に別の生き物になったりすることができる。

bosyu社のメンバーの多くは、アバター姿で会議に参加する。半年近く一緒に働いているのに一度も素顔を見たことがない人もいるが、仕事に支障は全くない。化粧をしなくても、部屋に洗濯物が干してあっても何ら問題ないため、私ももっぱらアバターである。ちなみに今日のアバターは靴下だ。

Zoomの『作業部屋』はオフィスのようなもので、出勤している社員は基本的にログインしており、話しかければ答えてくれる。画面共有をしながらわからないことを聞いている時は、さながら隣に座っている先輩に、パソコンを見せながら相談しているような心持ちである。

現実世界で一つのパソコンを覗き込めるのはせいぜい3人が限度だが、Zoomを経由すれば10人でも20人でも同じ画面を見ることができる。耳元のイヤホンから聞こえる声は、もはや現実世界より近くに感じるような気すらする。

12:00 SNSで知り合った友人とオンラインでランチ。

オンラインランチ相手募集画面。

Twitterで「オンラインランチ」相手を探してZOOMで一緒にランチする。

筆者提供

ひとしきり作業を終えて、正午。ランチに行くと言い残し、一旦会議室からログアウトする。

運動がてら外食する日もあるが、今日は「オンラインランチ」の日だ。一度席を立ってキッチンに行き、冷蔵庫にしまってあった昼食を温めてから、再び席に戻ってZoomを立ち上げる。「お疲れ!」と画面の向こうで手を振るのは、SNSで知り合ったママ友である。

普段は出社している彼女も、最近の騒ぎでリモート勤務になったらしい。私のアバター姿を見ながら、「それ良いね」「私もそれにしようかな」などと話す友人。仕事の話、子供の話など、とりとめのない会話をしながら、合間に食事を進める。

ひとしきり話すともう13時だ。挨拶をして通話を切り、食器を流しに入れるついでに、食洗機とロボット掃除機の電源も入れておく。仕事をしている間に、ロボットたちに家事を済ませてもらおうという算段だ。

13:00 会議。オンラインホワイトボードに書き込みながら議論。

13時からは会議だ。会議にはオンラインホワイトボードの『Miro』を使う。『Miro』はリアルのホワイトボードと同じように、同時に何人もがアクセスし、リアルタイムで手書きの文字を書いたり、付箋を貼ったりすることができるツールだ。

現実のホワイトボードのように使えるのはもちろん、PDFでホワイトボードの内容を書き出したり、ボードのサイズをどこまでも広げたり、オンラインならではの便利な機能が実装されている。

一度Miroを使うと、もう現実のホワイトボードに戻れないと言っても過言ではない。最近は対面で人と話す時ですら、Miroを介して意見交換をする有様である。

会議のあとは、ホワイトボードの内容を画像データとして書き出して、議事録ツールの『esa』に記録しておく。これで会議に参加していなかったメンバーも経緯がわかるはずだ。

17:50 チャットボットに就業の挨拶。保育園にお迎えに!

ベビーカーを押す女性

リモートワーク仕事はお迎えまでが早い(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

会議が終わったら作業部屋に戻り、黙々と仕事を進める。はっと気付くと18時前。そろそろ、2歳の息子を保育園に迎えに行く時間である。slackを見るとピコンと赤いマークがついていて、チャットボットが終業の挨拶をしていることに気付く。

「日報タイムだよ、今日の気持ちは?」「忙しかった!」「今日はなにやった?」「キャンペーン関連の諸々」「今日も一日お疲れ様でした!」

挨拶を終えたら、立ち上がって身支度をする。そもそも私がリモートワークになったきっかけは、保育園の送迎があるからだ。それまで勤めていた企業では、保育園に間に合うように帰宅しようと思うと、どうしても時短にせざるを得なかった。そんな時に声をかけてくれたのがこの会社だ

面談もリモート、役員面接もリモート、契約締結もリモート、入社すらリモートで、一度も誰にも会わないままチームに入ることが決まったことにも驚いたが、むしろそこになんの違和感も覚えなかったことに衝撃を受けたのを覚えている。

フルリモートワーク、デメリットはあるのか?

Zoom

「世に新しく出るサービスたちは、その遠い距離を補って、なお余りある」と、筆者は実感している。

GettyImages

現在働いているチームメンバーの所在地はバラバラだ。会社は東京にあるが、メンバーが多いのは東海地方や九州地方、海外でワーケーション中に働く人もいれば、ふたを開けてみたらごくごく近所に住んでいた人もいる。雇用形態も、フルタイムの社員、週4日で契約している社員、育休中だが少しだけ働いている社員、業務委託で不定期に働くメンバーと様々である。

先日、入社以来初めて、実際にチームメンバーが一同に介し、事業の今後を話し合う機会があった。いつも通話で顔を見ているため「会ったことがあった気がする」と錯覚する人もいれば、本当に実際に会ったことのある人、普段がアバター姿のため初めて顔を見た人、思ったより背が高かった人、いずれも初対面という感覚はなく、ごく自然にいつも通りの会議が行われた。

リモートワークになるとコミュニケーションが失われる、スピード感が損なわれるといった話も耳にするが、実際のところ、日々テクノロジーは進化している。現実世界の朝礼は多様な勤務形態に対応できないし、ホワイトボードを無限に拡張することはできないし、私のパソコンを同時にのぞき込めるのはせいぜい3人が限界。

世に新しく出るサービスたちは、その遠い距離を補って、なお余りある効果をもたらしてくれる。リモートならではのメリットを駆使すれば、デメリットはほぼ全てメリットの裏返しであると気付くだろう。

「リモートでも今まで通りに働くこと」ではなく、「リモートだからこそできる、より良い働き方」を考えてみよう。それは、ひいては「より良い働き方とは何か」、最終的には「各々の職種にとって、本当に良い働き方とは何か」といった根元的な問いにも繋がっていく

かつてない数の人がリモートワークに図らずとも移行することになった今こそ、リモートワークを通じて「働き方」について、真剣に向き合う時が来ている。

(文・伊美沙智穂)


伊美沙智穂:1993年生まれ。立教大学卒業、株式会社NTTドコモの法人営業部を経て、現在は株式会社Caster・株式会社bosyuのUIデザイナー、Business Insider Japanでライターのほか、個人でもWEBメディアを運営するフルリモート・パラレルワーカー。1児の母。新しい仕組みやテクノロジーが大好きで、育児や家事、仕事など、積極的に生活に取り入れている実体験を元に記事を書きます。

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