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日本交通ホールディングス(HD)とディー・エヌ・エー(DeNA)が2020年2月に発表したタクシー配車アプリ事業「Japan Taxi(ジャパンタクシー)」と「MOV(モブ)」の統合。
日本交通の子会社・ジャパンタクシーは4月、社名を「Mobility Technologies(モビリティテクノロジーズ)」に変更し、新社長に元DeNAオートモーティブ事業本部長の中島宏氏が就任した。
新型コロナウイルスの感染が拡大し、公共交通機関の利用者が減少する最中での社長就任になったが、Business Insider Japanの取材に応じた中島氏は、「船出としては向かい風だが、日本のデジタル化が一気に進んでいる点は前向きに捉えたい」と語った。
タクシーに打撃、「前年比2、3割減」も
モビリティテクノロジーズの社長に就任した中島宏氏。
撮影:横山耕太郎
これまでジャパンタクシーは、契約タクシー数7万台、DeNAが運営するモブは3.5万台。両者が手を組めば「日本最大のモビリティサービス」が誕生することから、事業の統合に注目が集まっていた。
しかし、新型コロナの影響による入国制限を受けてのインバウンド客の激減やリモートワークの推進、外出自粛のあおりを受け、タクシー業界も打撃を受けている。日本交通によると、利用客は前年2~3月比で約2、3割減少しているという。
一方、タクシー配車アプリに関しては、「全体の落ち込みに比べると、減少幅が少ない」という。
「もちろんアプリの利用も減り、当初の予測通りではない。しかしそんな状況下でも、アプリによる配車は、外を歩いてタクシーを探すより効率的に乗車できるとユーザーに受け入れられており、タクシー会社にも安定的な需要があると改めて評価されている」
「デジタル化が一気に加速」
サービスの統合を発表した2月の記者会見。中島氏は「日本は配車アプリ後進国だ」と話していた。
撮影:横山耕太郎
中島氏は、新型コロナウイルスで「日本のデジタル化が一気に加速している」と話す。
「今回のコロナウイルスの影響で、直接的に利用が増えたのはインターネットでの買い物やフードデリバリーなどの分野。オンライン会議も増えている。
一方で、タクシー配車アプリは、日本人のネットリテラシーが上がることで、間接的にいい影響が出てくる可能性があると考えている」
現在、タクシー配車アプリの利用は、若い世代が中心だ。今後サービスを普及させるためには、より広い世代の利用がカギになる。
「中国やASEAN(東南アジア諸国連合)に比べ、日本のデジタル化は遅れている。なかなか先端サービスが入ってこないし、広がらない。海外に比べ日本人のネットリテラシーが相対的に高くないこともその一因だと思っている。
それが今回のコロナショックで変わるかもしれない。必要に迫られたネットリテラシーの底上げで、生活が変わっていく可能性が高い。そんなタイミングはなかなかない」
KDDIと資本業務提携
ジャパンタクシーとKDDIの資本業務提携では、「あらたなタクシーサービス創出」に取り組むなどとしている。
出典:JapanTaxiのHPより
タクシー配車アプリの競争は激化している。
ソフトバンクが出資する配車アプリ「DiDi」 や、ソニーとタクシー会社出資する「みんなのタクシー」も、配車アプリを展開しており、シェアの拡大を競っている。
中島氏は競合他社について「危機感はゼロじゃないが、規模が競争の優位性につながる構造なので、統合による規模拡大で有利になった」と話す。
攻勢に出るモビリティテクノロジーズ(当時はジャパンタクシー)は3月26日、KDDIと資本業務提携を発表。出資額は公開していない。
資本業務提携の狙いについて中島氏はこう説明する。
「交通インフラである我々と、通信インフラのKDDI。それぞれ、インフラのデジタライゼーション(デジタル化)を進めることで、シナジーを起こすこと。将来的には他のインフラ関連企業とも連携を進めていきたい」
KDDIとの資本業務提携の内容としては、自動運転の事業化で協力することや、「新たなタクシー文化の創出」を挙げている。新たなタクシー文化とは何か?
「乗車体験のアップデートを進めたい。後部座席に設置されタブレットの活用や、キャッシュレス化のように、タクシーへ新しい付加価値を提供していきたい。5Gを活用したエンタメ要素をプラスするなど、様々な可能性があると考えている」
具体的な実施内容については、「まだ言える時期ではない」と言及を避けた。
タクシーに乗らない人を狙う
中島氏は「タクシー利用のパイを増やしていくことに挑戦していく」と話した。
撮影:横山耕太郎
現在、ジャパンタクシーとモブのサービスは、統合されずに使用できる状態だが、2020年度中には、やはりサービス統合を目指すという。
今後、事業統合によりサービスをどう拡大させていくのか。
現状ではタクシー利用のうち、アプリによる利用は全体の2%だけ。ただ、中島氏はアプリの利用率を高めるだけでは不十分だと指摘する。
「アプリ使用を拡大するには、タクシーに乗らない人に使ってもらうことの方が、成長余地が大きい。相乗り運賃や事前確定運賃など、デジタル化を進めることでお客様の新規開拓をしていきたい。
将来的には、交通全体がデジタル化され、いろいろなプレーヤーがつながり、交通そのものが最適化されていく。交通インフラのデジタライゼーションを進めていくことが私たちの存在意義だと思っている」
(文・横山耕太郎)