クラスター感染対策を模索する「Jリーグ取材の最前線」。新型ウイルス対策にZoom取材も

SakaiGotoku

右からヴィッセル神戸の酒井高徳選手、Jリーグの村井満チェアマン、横浜F・マリノスの遠藤渓太選手。酒井選手は新型コロナウイルスの感染が判明した(写真は2月7日に東京都内で行われた「フジゼロックススーパーカップ」の前日記者会見で)。

撮影:大塚淳史

いま、サッカー・Jリーグの取材現場では、記者、選手たちなどの感染連鎖の危険性を下げる取り組みの一環で、ビデオ会議アプリを使った取材を活用し始めている。使われるのは、Zoom(ズーム)、マイクロソフトのTeams(チームズ)やSkype(スカイプ)などだ。

新型コロナウイルスの脅威はサッカー界でも強い危機意識を持つものになりつつある。3月30日にヴィッセル神戸で、元日本代表・酒井高徳選手の陽性が公表されると、さらにセレッソ大阪やザスパクサツ群馬の選手の陽性が発表された(4月1日時点)。

Jリーグは現在、全ての公式戦を延期している。J3(3部)は4月25日、J2(2部)は5月2日、そしてJ1(1部)は5月9日からの再開を目指しているが、再び延期になる可能性も十分あり得る事態だ。

Jリーグ会見に記者ら200人超が「Zoom参加」

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Jリーグのメディア向け会見は、現在Zoomを使って行っている。3月25日に行われた、村井満チェアマンの会見の様子。

取材:大塚淳史

Jリーグを統括する公益社団法人日本プロサッカーリーグでは、新型コロナウイルスの流行が始まる以前から、各クラブとの代表者会議等でZoomを活用していた。一方、Jリーグの理事会後のメディア向けに行う定例会見などは、東京都内の日本サッカー協会ビル(JFAハウス)の一室で開くのが通例だった。

状況が一変したのは、3月17日に判明した日本サッカー協会の田嶋幸三会長の新型コロナウイルス感染だった。

その日の夕方、Jリーグの村井満チェアマンの会見のために多くの記者がJFAハウスに集まっていたが、関係者の感染が判明(その時点では、感染者が田嶋会長とは伝わっていなかった)したことで、急遽会見が中止され、Jリーグの広報から「代わりにZoomを使った会見を開く」と伝えられた。

その夜に、おそらくJリーグ初のZoom会見が実施された。以降、数回開かれたJリーグのメディア向け会見は全て、Zoomを活用している。

Zoom会見は参加している限り、活況だ。リーグの再開判断や感染予防の対策など、メディアからの関心が非常に高まっていることもあり、また現地まで足を運ぶより参加しやすいこともあるのか、冒頭に書いた通り、取材記者とJリーグ関係者らで同時接続数が200を超えることもある。

質問をしたい記者は、Zoom内にある「手を挙げる」ボタンをクリックして順番を待ち、司会を務めるJリーグ広報担当から指名される形が定着してきた。

うっかり画面をみんなに共有

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Zoomを用いたJリーグの会見の様子。質問者が「手を挙げる」ボタンをクリックすると、順番が回ってくると質問者当人の画面が表示される。(※プライバシー保護のため、一部画像を加工しました)

取材:大塚淳史

Jリーグ側がZoomでの会見に参加する記者に求めるのは、表示される名前や媒体がはっきりとわかるようにすること。つまり、一見アルファベットの羅列など、誰かわからないからだ。会見に始まる前の段階で、不明瞭な名前だと広報担当者からアナウンスされ、各々表示名をわかりやすく修正しないといけない。

それでも多くのスポーツ記者にとって、Zoomはまだ使い慣れないものだ。それぞれ四苦八苦しながら使用している感じだった。

某スポーツ紙の記者は、会見が始まる直前の待機中、編集部で同僚記者と一緒にZoomを使っていたのか「あれ? これつながっている? マイクミュートしたのに、おかしいな」という声が、Zoom上にいる人たちに全員に聞こえていた。

また記者自身も、操作になれておらず、うっかりアプリ真ん中下部にある「共有」ボタンを押してしまっていたようで、自分のパソコンの画面が全員に表示されていた。広報の方からチャットで「大塚さんのデスクトップ画面が時々表示されております。お気を付けください」という指摘があり、冷や汗をかいた。

回を重ねるごとに記者たちも慣れてきていて、スムーズにZoomを使った会見が行われるようになっている。

各チームで導入進む。浦和レッズはSkype

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浦和レッズでは、新型コロナウイルス感染拡大を鑑みて、映像通話による取材対応に切り替えた。選手は、プレスルームとは別の場所にいて、パソコン画面越しで記者に対応する。

提供:浦和レッズ

Jリーグの一部チームでもアプリを通じた取材を導入し始めている。

リーグ屈指の人気チームの浦和レッズは、3月1日のチーム練習から、練習後の記者向け取材対応にSkypeを使っている。記者のいるプレスルームにノートPCを置き、選手のロッカールームのあるクラブハウスにもノートPCを置いて、Skypeの映像通話で選手に取材をする。

それまでは、浦和レッズの取材をする記者たちは、直接選手に話を聞く“ぶら下がり”スタイルだった。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、チームの広報が急きょ、ウェブアプリを通じた形の取材に切り替えた。

「(2月25日に)Jリーグが延期が決まっての瞬間的な思いつきではありますが、専任ドクターと相談して、選手とメディアの方が選手を囲んで取材を行うのは、お互いの健康のためにも、リスク回避のためにも、避けましょうという話になりました」(浦和レッズ広報担当者)

レッズ選手のSkypeにカメラを向ける取材記者

浦和レッズの大槻毅監督が映るパソコン画面をのぞき込む記者たち。

出典:浦和レッズ

浦和レッズの練習取材には現在、10人から多い時で15人ほどの記者が集まるという。15人の記者がパソコンを取り囲んで画面に映る選手を取材する……半年前なら滑稽に映ったかもしれないが、それが最前線の日常風景になりつつある。

ただ、広報としてはあくまで苦渋の選択だった。

「私たちはプロサッカーチームなので、(練習グラウンドのある)大原のサッカー場が密室になってしまうと(非公開になると)、広報の役割をしっかりと果たせない。

メディアの方を通じて、やはり外に自分たちチームの状況を伝えたり、(サポーターに記事を通じて)元気を出してもらったり。メディアの方と選手がコミュニケーションをとる時間の必要性を、お互いに感じています。

でも今は対面で取材できないですので、少しでもメディアの方と選手が話ができる手段があるならばと思いついただけのことです」(浦和レッズ広報担当者)

同広報担当者はSkype以外にも、LINEの映像通話や、グーグルのビデオ会議ツール「ハングアウト(Hangouts Meet)」も活用していると話した。

鹿島アントラーズは「ハングアウト」活用

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新型コロナウイルスはスポーツの取材手法も変えた。

提供:浦和レッズ

鹿島アントラーズは、3月19日からアプリによる取材対応に変えた。田嶋会長の新型コロナ感染が発表されたことが契機になったというのは他と同様だ。

鹿島アントラーズの取材に訪れる記者たちの中に、間接的に田嶋会長の関係者と接触している可能性があり得るということで、リスク回避のために導入した。

鹿島アントラーズは2019年、フリマアプリ大手のメルカリに買収されている。買収以降、会議等でハングアウトを活用し始めた背景もあり、練習後の記者と選手の取材の場でも活用することになった。

「通常、鹿島アントラーズでは駐車場で選手が入るところを、各記者さんたちが自由に取材していただくというスタイルをとっている。(新型コロナへの危機感が高まるなかで)田嶋会長が感染したということで使い始めました。今後このやり方を継続するかは、新型コロナの感染状況を見ながら。また、Jリーグが再開するにしても収容率、密集、密接の問題もあります。記者の方にも(遠隔での取材)対応、対策を実行しないといけないことになるかもしせん」(鹿島アントラーズ広報担当者)

ほかにも、ベガルタ仙台が導入している。

「ルヴァンカップの延期が決まった直後の2月27日以降の練習から、(記者による対面取材ではなく)チームの広報から記者へ、選手や監督のコメント、写真、動画を提供するという形にしていました。3月17日からは、LINEやSkypeを使い分けて、チーム練習後の取材対応をしています」(ベガルタ仙台広報担当者)

また、名古屋グランパスは、3月28日にあった横浜FCとの練習試合で、試合後の記者向け取材対応でノートPCを通じた取材対応を試している。

先行きが見通せない新型コロナウイルスの感染対策の問題は、確実にスポーツ界の取材のあり方を変え始めた。直接の接触機会は減らし、取材活動、広報活動をどう続けるか。これもまた、新型コロナウイルスが変えた「スポーツ取材の日常風景」となっていくのだろうか。

(文・大塚淳史)

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