4月1日の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の記者会見。3密の環境を避けるため、Webページで視聴した。
撮影:三ツ村崇志
4月1日、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が開催され、日本の状況の報告と今後に向けた政府への提言がなされた。記者会見で指摘されたのは、「現状の状況理解」「これまでの対応の課題」「今後に対する提言」の3点。
会見で指摘されたポイントを箇条書きにして以下にまとめた。
現状分析:医療体制逼迫している地域がある
東京をはじめとした関東近郊や大阪、福岡などの都市部では、感染源の分からない患者(リンクの追えない患者)が明らかに増えている。こういった患者の感染源を確定させることが、今後の感染対策にとって重要となる。
出典:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
- 3月31日段階で、累積感染者が2000人を上回る。
- 都市部を中心に感染者が急増している。
- 東京や大阪などで、リンクの追えない(感染源が分からない)感染者が増加している。
- 実効再生産数(1人の感染者がうつす人数)は、3月15日の分析時には1人を超える程度。その後21日から30日までのデータに基づく東京の推定値は1.7人程度。
- 感染者のうち、海外からの帰国者の割合が3月11日頃から急増。最大で4割程度に。
- 最近は、若年層だけではなく、中高年層もクラスター発生の原因となっている。
- 今のところ、欧米のような爆発的な感染者の増加(オーバーシュート)はみられていない。
- ただし、都市部を中心に集団感染が多発。医療供給体制が逼迫している地域がある。
- オーバーシュートが起きる前に、医療現場が機能不全(医療崩壊)になることが予想される。
専門家会議の尾身茂副座長は、
「2日〜3日の間に累積患者数が倍増し、その傾向が継続した状態のことを『オーバーシュート』(爆発的な感染者の増加)の状態と定義しました」
と話す。
東京都では3月21日〜30日の10日の間で2.5日ごとに患者数が倍増しており、数字だけ見ると「オーバーシュート」に該当する状態。ただし、専門家会議では東京都の現状について、
「院内感染やリンクが追えている患者も含まれているため、一過性の可能性もあり継続的に注視していく必要がある」
と表現するに留めた。
これまでの課題:警戒感が予想以上に緩んだ
3月20日〜22日の3連休の井の頭公園の様子。例年に比べて花見客は少なかったものの、それなりに人混みができていた。自粛疲れや19日に行われた専門家会議のメッセージを誤解してか、それまでに比べて街に人が溢れていた。そろそろ、3連休で感染した患者が増えてくる時期に差し掛かる(一部写真を加工しています)。
撮影:三ツ村崇志
専門家会議では、これまでの対応について次のような課題があると報告している。
- 3月19日の会見では「地域を3つに分ける」としたが、各自治体がどの区分に属するのか分からないという問題があった。
- 地域の流行状態を判断するための考え方が、都道府県や自治体の間で共有されていなかった。
- 専門家会議からの情報発信の中で、「 3つの『密』(密閉空間、密集場所、密接場面)が重なる場面を避ける」というメッセージが十分に届かなかった可能性がある。
- 「コロナ疲れ」「自粛疲れ」という状況が生じ、警戒感が予想以上に緩んでしまった。
- 国民の行動変容や健康管理にあたって、SNSやアプリなどを使った効率的な取り組みが十分に進んでいなかった。
- 重症者を優先する医療供給体制がまだ不十分。地域病院の役割分担や、院内感染対策などが引き続き必要。
無料チャットアプリを使った感染実態を把握する取り組みが進められている。
撮影:三ツ村崇志
地域への提言:感染状況に応じ3つに区分
・地域状況の判断指標として、下の表に示した要素を提案。必要に応じて専門家会議が自治体に助言を行う。
専門家会議では、地域を3つに分けて考える際には、この表にある要素を考慮すべだとしている。また、判断は専門家会議が行うものではなく、各自治体や生活圏ごとに行われるべきだとしている。
出典:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
・3つの地域区分を「感染拡大警戒地域」「感染確認地域」「感染未確認地域」と名付ける。それぞれの地域の定義や感染症対策における考え方は以下の通り。
1.感染拡大警戒地域
直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が激増し、帰国者・接触者外来の受診者も一定以上増加基調が確認されている地域。近い将来、医療供給状況の切迫性が高い状況。
対応例:オーバーシュートを起こさないよう、住民が互いに3つの密を避けるよう徹底。また、期間を明確にした上での外出の自粛や10名以上が集まるイベントを避ける。家族以外の多人数での会食は避ける。こういった地域では、学校の臨時休業の継続も選択肢としてはありうる。
2.感染確認地域
直近1週間の新規感染者のうち、リンクの無い感染者が一定程度の増加に留まっている地域。帰国者・接触者外来の受診数もあまり増加していない地域。
対応例:3つの密を徹底的に回避する対策をした上で、屋内で50名以上が集めるイベントを避ける。また、一定程度に収まっているように見えても、感染拡大の兆しが見られた場合には、感染拡大のリスクの低い活動も含めて対応を更に検討していくことが求められる
3.感染未確認地域
感染者が確認されていない地域。
対応例:屋外でのスポーツ、文化芸術施設の利用、参加者の把握ができる地域レベルでのイベントなどは適切な対応を行い、リスクを判断して実施が可能。また、状況の変化について、つねに最新の情報を取り入れ、引き続き3密を防ぐ取り組みは必要。
学校への提言:流行状態に合わせて開校判断を
- 子どもは地域で感染を拡大する役割を担っていないといえる。
- 地域や生活圏の流行状態(上記の地域区分)を考え、学校の開校を判断していくことが重要。
- 海外の例を見ても、子どもの重症例は成人、高齢者に対して圧倒的に低い。
- 子どもに対する新たなエビデンスが出てくれば、適宜修正していく。
なお4月1日、文部科学省から学校に関する新たなガイドラインが発表されている。
今後の対策:近距離会話、大声などが特に危険
新型コロナウイルスとの闘いは長く続く。引き続き、密閉、密集、密接という環境を避ける努力が必要だ。
出典:東京都
- 引き続き、「 3つの『密』(密閉空間、密集場所、密接場面)」を避ける。
- 3つの密の中でも、特に近距離での会話、大きな声を出すことや歌うことを避ける。
- 3つの密が濃厚に重なりやすいバー、ナイトクラブ、接客を伴う飲食店業への出入り、およびカラオケ、ライブハウスなどへの出入りを控える。
- ジムや卓球など呼吸の激しくなる運動の場面では、3つの密が一つでもあれば普段以上に手洗いなどの感染対策に注意する。
- 体調が悪くなったときに、どこに連絡し、どんな交通手段で病院に行けば良いのかなど、事前に調べておく。
- クラスター(集団発生)発生に対処することに限定したICTの取り組みを検討。プライバシーや個人情報の観点などから、さまざまな議論を早急に進める。
病院・医療体制:人工呼吸器に関しての理解を
病院内での集団感染が確認された台東区の永寿総合病院のWebページ。病院は外来を停止している。再開の目処は立っていない。
撮影:三ツ村崇志
- 東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の人口が集中している5都府県では、既に医療提供体制が切迫。今日、明日(4月1日、2日)にでも抜本的な対策が必要。
- 地元の医療機関、大学病院など、地域における各医療機関の役割を早急に決める。
- 軽症者はいずれ自宅待機を要請する可能性がある。また、自宅以外の施設で待機する選択肢も用意すべき。
- 医療施設、福祉施設での感染拡大は、極めて重大な問題。感染が疑われる関係者は、すぐにPCR検査を行うよう求める。
- 感染が広がっている地域では、病院での面会中止や、福祉施設の通所サービス(日帰りデイケアなど)の中止などを求める。
- 今後の医療の逼迫に伴い、人工呼吸器などの活用方法について一般の方々に理解してもらう必要がある。
記者会見では、専門家会議に加わっている東京大学医科学研究所の武藤香織教授(専門は医療社会学)から、次のような言及があった。
「まだ自分が患者になることについて他人事に思っている人が多いのではないかと思います。
外出ができない期間に、親しい方々や家族の間で、万が一重症化してしまった時にどのような経験をするのか、その時受けたい医療は何なのか、あるいは受けられないかもしれない医療とは何なのか、タブー無く話し合いをして欲しい」
今後、人工呼吸器が不足した状態で患者が急増した場合、誰に人工呼吸器を使用するのかという選択が迫られる可能性がある。自分、あるいは家族や親しい人が感染し、重症化したときの「心の備え」の必要性を訴えた。
政府へ:経済支援策と対策チームの組織強化を
4月1日、首相官邸で新型コロナウイルス感染症対策本部が開催された。
出典:首相官邸
- 感染症対策のために休業を余儀なくされる店舗の事業継続や、従業員の生活支援のために経済支援策が必要。
- 医療体制維持のために、病床の確保や医療機器導入の財政的な支援、さらに人材の確保に万全を期すべき。
- 濃厚接触者の調査などを行う保健所やクラスター対策班の疲弊が目立つ。これらの組織の強化が極めて不十分であり、迅速な対応が求められる。
- ワクチンや治療薬の臨床研究を迅速に進めるべき。
対策には一般の人々の協力が不可欠
世界各国の累積感染者数
出典:新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
日本で初めて感染者が確認されたのは、1月16日。
日本よりも感染者の発生が遅かった地域でさえ、既に感染者が爆発的に増えている状況。これは、日本の感染症対策における3つの基本方針(「クラスターの早期発見・対策」「重症者に対する医療提供体制の確保」「市民の行動変容」)による対応が、ぎりぎりうまくいっているためだ。
しかし、状況は確実に悪くなっており、今後いつまでこのぎりぎりの状態を保ち続けられるかどうかは分からない。
最後に尾身副座長は、
「一般の市民の皆様は、今まで自発的な行動自粛に取り組んでいただき感謝します。法律で義務化されていなくても、3つの密が重なる場を徹底的に避けるなど、自分や社会を守るために、それぞれが役割を果たしていきましょう」
と、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるためには、政府や自治体、医療従事者だけではなく、一般の方々の協力が引き続き必要不可欠であることを強調した。
(文・三ツ村崇志)