1975年熊本県生まれ。外資系金融機関を経て、独立。2014年、シタテルを設立。2年後に東京にも拠点を設ける。
撮影:伊藤圭
アパレル業界には季節性があり、工場と依頼元の企業の間で需要と供給のバランスが崩れやすい。その不均衡をデータ管理によってなくす。シタテルが実現しようとしている事業構想は非常にシンプルだ。
シタテルCEOの河野秀和(45)は2020年2月に事業説明会を実施した。2020年は「大きな転換期。さらなるデジタルトランスフォーメーションの年」だという。
一口に工場とブランド事業者をプラットフォームでつなぐと言っても、衣服という商品の特性上、人による細かなマネジメントは欠かせない。
プラットフォーム上では工場の稼働に空きがあっても、工場がその期間をどう捉えているのかや、ユニフォームを作りたい企業がどんなイメージにしたいのかなど、細かいニュアンスは人を効果的に介在させることでマッチングの精度を飛躍的に上げることができた。
河野自身も、その重要性は痛いほどわかっている。感覚値を形にするアパレル業界と、データという合理的な仕組みを掛け合わせる上でも、こうした人によるマネジメント調整は不可欠だった。
「sitateru」の管理画面のイメージ画像。
しかし、2020年シタテルが挑戦するのは、さらなる“プラットフォーム化”。これまで人が介在する形で行ってきた調整を一部ダイレクト化・自動化し、受発注が成り立つ仕組みを作る。まずは人のサポートを必要としないニーズのあるアパレル企業向けのプロユース版をローンチし、工場との直接のやりとりを可能にした。
そのほか、ユニフォームなどの衣服生産を希望する一般企業向けのカスタムサービスと、デジタル・ネイティブ・ブランド(DNB)向けに生産の支援から在庫管理・生産・販売までをサポートしてくれる一気通貫型サービスという3つの機能を立ち上げた。
シタテルは2020年、河野が当初思い描いたプラットフォームへと近づくために大きく舵を切った。
「アパレルの課題は地方都市のジレンマに近い」
2020年2月上旬に渋谷で開催されたシタテルの事業説明会。河野は会社の未来について語った。
提供:シタテル
発表会から少し時間が経ったある日。今後について、Zoomの向こうで河野が話した中に印象的な言葉がある。シタテルは「都市の運営」に近いと言うのだ。
「おぼろげにずっと感じていたのですが、先日あるセミナーで『衣服産業の課題は、地方都市のビジネスのジレンマに近い』という話をしました。
例えば地方都市で住宅を建てる時には地元の住宅メーカーが設計士やデザイナー、大工さん、内装屋さんなどを集めてチームを作り、その中でコミュニケーションを取りながらプロジェクトを遂行します。つまり、地域で完結するエコシステムができあがっているんです。
でもそこには課題もあって、地方都市であるがゆえに、それ以上の世界ではなかなか仕事が広がらない。もし、これらのやりとりがオンライン上で実現すれば、そのジレンマから解き放たれ、あらゆる可能性が出てくるんじゃないか。それがシタテルの最初の構想でした」
sitateruが都市そのもので、やるべき仕事は街の人々(=事業者)に対するコミュニケーション支援やワークフロー支援、エコシステムやインフラの整備。都市の中で、コミュニケーション能力の高い人たちは自ずとチームを組めるが、困っている人はsitateruに相談をすればいい。
撮影:伊藤圭
「すべてのやりとりの中にsitateruが介在することは現実的ではないし、中央集権型の権力や統制によって管理するのではなく、分散型で、より多くの事業者に自由に参加してもらう方がより良い社会につながる」
「地方都市のジレンマ」という視点は河野が熊本に長くいるからこそ、鮮明になったという。
「アパレルでは、その時だけ工賃の安い工場で衣服を作ればいいということはありません。継続して取引を行うことで品質の向上や稼働率の向上につながり、適正なコストに対する会話が成立します。値段が高いからといってすぐに別の工場と同じ製品を作ることができるわけではない。アパレルはカチッとした製品ではないというか、比較的“ウェット”な部分が多い産業だと思うんです」
地方都市では、ただ儲けるための会社は長続きしない。取引における人と人との本来の結びつきを大切にしながら、継続的にその土地に貢献できる会社こそ地方には求められる。
河野が目指す“都市”とはどんなものなのだろうか。
「未来に対してチャレンジできる余白のあるプラットフォーム。インフラが整備されているので、業務は効率的に行える。さらにその中で人々はつながりを大切にしながら、自由にコミュニケーションを取ることができる。そんな信頼を最大化するためのプラットフォーム作りを目指したいんです」
(敬称略・明日に続く)
(文・角田貴広、写真・伊藤圭)
角田貴広:編集者・ライター。1991年、大阪府生まれ。東京大学医学部健康総合科学科卒業、同大学院医学部医学系研究科中退。ファッション業界紙「WWDジャパン」でのウェブメディア運営やプランニング、編集・記者を経て、フリーランスに。メディアでの執筆をはじめ、ホテルベンチャーの企画・戦略、IT企業のオウンドメディア運営、プロダクト企画など、メディア以外の広義の編集に関わる。