パタハラ訴えを棄却。三菱モルガン元幹部への休職命令"育休が理由"と認めず

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支援者らと裁判所を出るウッド・グレン氏(中央)。この日も支援者約10人が集まった。

撮影:横山耕太郎

育児休業の取得をきっかけとしたパタハラでうつ病を発症し、療養後も正当な理由なく休職命令を受けたとして、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に特命部長として勤務していた、グレン・ウッド(Glen Wood)氏(50)が同社を相手取り、損害賠償などを求めた訴訟(佐久間健吉裁判長)の判決が4月3日、東京地裁で言い渡された。

判決では「育児休業取得を理由として従前の業務から外した事実があったとは認められない」などとして、ウッド氏の請求は棄却された。

ウッド氏が勤務先の三菱UFJモルガン・スタンレー証券を相手取り、2017年10月に、地位保全や賃金の仮払いを求める仮処分申請を東京地裁に起こしてから2年半近く。日本におけるパタハラ訴訟として国内外のメディアで報じられ、大きな注目を集めてきた事案に一つの判断が下された。

ウッド氏は判決後に都内で開いた会見で、「非常に残念な判決だ」と話した。今後、東京高裁に控訴する方針という。

解雇「客観的に合理的な理由がある」

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東京地方裁判所では、ウッド氏の訴えは退けられた(写真はイメージです)。

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裁判では、ウッド氏が育休取得を理由として不利益な扱いを受けたかどうかが争点の一つになった。

ウッド氏は育休取得後、「TV会議」や「リサーチ定例ミーティング」に呼ばれなくなったと主張。また育休後に海外出張がなくなったことについても「上司から一度も出張の指示を受けなかった」と訴えていたが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は否定していた。

判決では会議について、「これから3カ月間はできるだけ赤ちゃんの面倒を見てあげるべきだ」と上司がグレン氏にメールしていることや、「会議への出席はグレン氏の任意」と別の上司が証言したことから、「会議にかかる職務から原告を外した事実があったとは認められない」とした。

また海外出張については、「出張者自らが企画をしたうえで部長の承認を経て手配するもので、業務指示によるものではない」と、海外出張からも意図的に外した訳ではないとする被告側の主張を認めた。

その上で、休職命令や解雇については、記者会見などを通じて会社の信頼を貶めたことなど「客観的に合理的な理由がある」などとし、損害賠償請求や賃金請求は認められないとした。

「子どもを産んでもキャリアを続ける権利ある」

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記者会見で「日本にとって残念な判決」と話すウッド氏(中央)。

撮影:横山耕太郎

ウッド氏は訴訟で、育休取得が認められなかった際に受けた苦痛と、育休を取得した後に受けた不利益に対する慰謝料200万円に加え、育休取得後に未払いだった賞与約1000万円と賃金を、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に請求していた。

同社はウッド氏の主張は事実に反し名誉と信用を傷つけたとして、2018年にウッド氏を解雇。ウッド氏側は、これを不当解雇だとして、地位確認も求めていたが、訴えは認められなかった。

裁判後、記者会見を開いたウッド氏はこう話した。

「非常に残念で、日本にとって悲しい判決。多くの応援をしてもらい、私だけの裁判ではなく、親子や一人親などみんなの裁判だ。子どもを産むことは罪ではないし、子どもを産んでもキャリアを続ける権利がある。必要があれば最高裁、国際裁判まで戦いたい」

男性育休は大きく前進

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グレン・ウッド氏が裁判を始めてから、日本での男性育休をめぐる動きは加速した(写真はイメージです)。

Getty Images

ウッド氏が三菱UFJモルガン・スタンレー証券を相手取った訴訟を起こした2年半前、日本において「男性育休」を取り巻く環境は今よりもさらに厳しいものだった。

育児休業制度は男性にも女性にも保証されているにもかかわらず、職場で育児休業を男性が申請するには「育児は女性がするもの」という「周囲の無理解」が立ちはだかり、2017年の男性育休取得率はわずか5.1%に止まっていた。

それからわずか2年とはいえ、男性育休をめぐる動きはめざましく変わりつつある。

三菱UFJ銀行や積水ハウスなど大手企業が、男性社員の育休取得の義務化を進めたほか、2020年1月には、小泉進次郎環境相が育休取得を発表して話題になった。

また男性国家公務員についても、政府は2020年度から「育休1カ月以上」を目指す方針を示している。ウッド氏の訴訟も数々のメディアに取り上げられ、こうした社会の意識の変化に一石を投じたことは間違いない。

記者会見を終えたウッド氏はこう話した。

「訴訟を始めてからだいぶ日本の社会が動いたと思っている。裁判を初めてからは約2年半だが、子どもは今年5歳になるので、5年も戦ってきたことになる。訴訟を続けるのは簡単ではないが、できる限り戦っていきたい」

(文・取材、横山耕太郎、滝川麻衣子)

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