都知事から外出自粛要請が出た後も朝のラッシュ時にはこの混雑ぶり(3月31日、品川駅)。
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日本で、新型コロナウイルス拡大の爆発的な感染はあるのか。東京都はロックダウンするのか。注目しているのは日本人ばかりではない。日本に住む各国の外国人も不安を募らせながら注視している。
彼らに話を聞くと、日本政府や地方自治体、メディアからの情報が欧米に比べると少なく、ストレスを溜めていることが分かる。不安のあまり、仕事を辞めて母国に帰国する人もいる。
「私は日本人が大好きだから、とても心配。たくさんの人がどんなに危機的な状況になるかということに気がついていないと思う」(元英会話教師アレクサンドラ・マカラさん=30)
マカラさんは東京に2年間住んでいたが、3月下旬、両親の家がある米ニュージャージー州に帰国した。翻訳の仕事もこなすバイリンガルだが、新型コロナの感染状況と、日本政府の対策の情報があまりに欠如しているのに失望したためだ。
1対1で英会話を教えていたのは小さなブースで、生徒は50〜60歳代 が中心。距離も60センチほどしか離れていなかったという。
「小さい時から病気ひとつしたことはないけど、もし私が感染したら、気がつかないうちにウイルスをまき散らすことになると罪の意識を持ったのも、帰国を決心する一つの引き金だった」
もちろん他にも、アメリカへの航空便が次々と欠航になったこと、日本経済がこのまま冷え込んだ場合、フリーランスの英会話教師の収入が打撃を受けると予想したことなど、帰国に至った理由はいくつかある。
他の国との違いにショックを受けた
新型コロナウイルスの感染が広がったクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号への対応を巡って、海外メディアなどからは批判記事が相次いだ。。
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しかし、一番失望したのは、日本政府の動きだ。彼女の不満は以下の3つに集約される。
- クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で集団感染が起きた際、乗船客の全員検査をしないという決断をし、次々と措置が後手に回った。
- 新型コロナ対策に力を注いでいるようには見えなかった。WHO(世界保健機構)が検査をなるべくするようにとガイドラインを出しているのに、菅官房長官を含め閣僚が「医師が必要と認めた場合のみ」と言い続けている。
- アメリカなど各国の大都市がロックダウンに入る中、日本は学校を休校し、自宅勤務を奨励しただけで、多くの人が職場に出勤している状況が続き、他の国との違いにショックを受けた。
「日本政府には、もっと検査し、もっと隔離し、市民が何をするべきかを知らせ、先を見越した行動をして欲しかった。ウイルスは、国も人種も選ばないのに、情報が少なく、政府の透明性が低い。しかも日本は高齢化社会なのに、多くの人は情報に基づいた行動ができていない」(マカラさん)
「不要不急の外出の自粛」を要請した小池都知事。当初、「不要不急」が具体性に欠けると批判された。
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東京都八王子市に住む、通訳会社「蛇滝商会」社長、デレック・ウェスマン氏(40)は、今回のような危機の場合、日本政府のシステムが専門家とうまくコミュニケーションを取れるようになっていないのではないか、と冷静にみている。
「人々が安倍政権を批判するのは簡単だが、政府のシステムを変えることにはつながらない」
「小池百合子・東京都知事はやっと、”3つの密“を避けるなどの情報を出し、それは役に立つと思う。ただ効果を上げるためには、例えばパチンコ店なども自粛対象にするべきだ」
地方都市では「他人事のよう」
地方都市に住む外国人にとっては、政府だけでなく、地方自治体からの情報が少ないことも深刻な問題だ。
地方都市に住むカナダ人A氏。日本在住は1980年代からだ。彼も情報不足に失望し、日本のことを心配していると強調した。
市役所には手の消毒液があるだけで、新型コロナについての張り出しなどの情報は見当たらなかった。
「市民が、まるで他人事であるかのように新型コロナ危機に無関心で、自分たちが十分に情報を得ていると思っているところが、今後のダメージにつながる」
「パンデミック(世界的流行)なのに、1カ国だけ例外というのは信じられないから、発表されている感染者数は信じられない」
と危機感を募らせる。
一斉休校している小中学校。新学期からの対応は地域ごとの実情に合わせて、とされている。
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人口数万人の地方都市で英語教師をしているアメリカ人Bさんは、行き場がない不安に襲われているという。
勤務する学校は3月に休校となったが、教師は出勤することになり、職員室にはマスクをしない人さえいる。もし教師が感染した場合、「どういうルールがあるのか」と聞いても学校から答えはない。
市内で検査ができる病院はなく、もし該当する症状が出たら、大都市の病院に行けと言われたが、電車に乗って他の人の健康を犠牲にするのか。高齢者が多い地方都市で、自分が感染したらどうしたらいいのか。
ところが、帰宅する途中で見たものは約50人が集まっての花見バーベキュー……と彼女は嘆く。
「新学期の打ち合わせ後は、全員がマスクをすることになった。でも英会話の学習の際、生徒が2人ペアで学習するのはいいが、3人以上はダメということになった。耳を疑った」
「ニューヨークのクオモ州知事、イギリス、フランスなど先行した対策をとっていても感染が広がったという教訓を、日本は見てみないふりをしている」
メディアも政府にもっと突っ込むべき
彼らの日本メディアに対する見方も厳しい。
前出のマカラさんはNHKや日本語のオンラインニュースをチェックしていた。しかし、彼女にとって日本メディアの問題は、政府が発表したことを伝えるだけで、「〜とみられる」など、
「注意深く言葉を選び、批判を抑えめにし、問い詰めることをしないし、説明、分析、専門家のコメントも限られている」(マカラさん)
という。他にも、
「日本メディアは政府に対してもっと突っ込んだ質問をするべきだ」(ウェスマン氏)
という意見もある。
なお、今回インタビューした中で小さな街に住んでいる外国人は「匿名」を希望した。「外国人は目立つので、皆が自分のことを知っている。コメントをしたことで仕事に支障が出るかもしれない」というのが理由だ。
爆発的感染が起こっているニューヨークで抜群のリーダーシップを発揮しているクオモ州知事。定例会見では感染症についての情報を公開し、質疑応答にも十分に時間をかけている。
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今回、筆者が取材したのは、アメリカ人とカナダ人だけだが、日本には多くの異なる国から来た人々がいる。政府や地方自治体は、こうした人たちにはどう対応したらいいのか。
「とにかく英語で情報をもっと発信してほしい。英語になっていれば、グーグル翻訳を使って、多くの言語に訳せる」(マカラさん)
「英語にするだけでなく、情報へアクセスしやすいようにするべきだ。例えば、日本語と同じ内容が英語で見られると思ってEnglishボタンをクリックすると、ホームに戻ってしまったりする」(A氏)
緊急事態の場合、誰もが平等に情報にアクセスできるようにすることが必要だ。
ニューヨークでは、クオモ・ニューヨーク州知事とデブラジオ・ニューヨーク市長が連日、記者会見を開き、記者との質疑応答にも時間をかけるため1時間〜1時間半に及ぶ。
これは爆発的感染が起きる前の3月上旬から続いている。市民はテレビ中継だけでなく、ストリーミングでいつでも会見は見られる。感染者数や死亡者数だけでなく、病床やガウンなどの医療用保護具(PPE)、人工呼吸器の調達の方法・経過、新たな対策があればそれをする理由までデータを示し説明している。
(文・津山恵子)