気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。今回の道場相手はコルク代表の佐渡島庸平さん。GOの初クライアントとしてブランディングの仕事を発注してくれた佐渡島さんは、三浦のよき理解者であり、ビジネス系インフルエンサーとしてともに走り続ける仲間でもある。言葉の本質、物語の力を信じる2人が今もっとも語り合いたいこととは?
YouTubeチャンネルの会員を増やしたい!
佐渡島庸平(以下・佐渡島)
実は、「編集者 佐渡島チャンネル【ドラゴン桜】」っていうYouTubeチャンネルを1年3カ月くらいやってるんだけど、登録者はやっと2万人超えたくらいなんだよね。どうやったらもっと増えるかな?
三浦崇宏(以下・三浦)
これから自然と伸びますよ。「大人向けYouTuber」がようやく認知されつつあるので。多くの大人がYouTubeに興味を示し始めてます。YouTubeという文化が大人に浸透してきたタイミングが、まさに今。
佐渡島
なるほど。
三浦
だから、このチャンネルでやんなきゃいけないのは、「佐渡島さんが大人向けのYouTuberである」と宣言することです。
佐渡島さんってすごく独特のポジションじゃないですか。いわゆる「ビジネス芸人」でありながら、わりとスタティック(静的)。
佐渡島
うん。
三浦
えてして多くのビジネス芸人って、僕も含めて箕輪厚介くんとか、明石ガクトさんとか……
佐渡島
みんな炎上好きだよね(笑)。
三浦
(笑)。煽り系ですよね。「いいからやれよ」「頑張れ」「とにかく動け」「手を動かせ」。そういう「熱狂的ビジネス芸人」が多いなか、佐渡島さんは淡々と「本当のことを見つめようぜ」とか「焦るよりも、まずは自分の足場を固めることが大事」といった、極めて冷静なメッセージを発信してる。いわば「静的ビジネス芸人」。
佐渡島
静的ビジネス芸人(笑)。
三浦
セクシャル(性的)って意味じゃないですよ(笑)。スタティックなビジネス芸人は今すごく独特なので、そのポジションにいることをもっと公言したほうがいいと思います。元祖「大人のためのビジネス芸人」みたいな。
佐渡島
なるほど。
「静的」インフルエンサーである佐渡島さん。しかしファッションにはアグレッシブさを感じさせる。
三浦
熱狂的ビジネス芸人は「とにかく動け」って言うけど、実は「どう動くか」を考えること自体、もう動くことの始まりじゃないですか。
だから思考を深めたり、自分と世の中との関わり方を見つめ直したりするためのスタティックなYouTube、スタティックなビジネスサプリとして、佐渡島さんのチャンネルは機能する。
そういうのを求めてる人って、実はたくさんいますから。
佐渡島
あと僕、スタティックだから全然気づかれないんだよね(笑)。
三浦
だから、もっと言っていかないと。ターゲットは大人で、ある程度知的だけど、これからどう動こうか迷っている人。彼らに対して、まずは考えるところからはじめようとメッセージしましょう。「考える」は「動く」と違ってリスクがないので始めやすい。
大人向けYouTuberの市場はこれから広がっていきますよ。
佐渡島
たしかにそうだね。頑張ります。
三浦
あとは、大人向けYouTuberネットワーク、たとえば博報堂ケトルの嶋浩一郎さん、スープストックトーキョーの遠山正道さんとか、スタティックビジネス芸人ネットワークを作る。
そのベースキャンプとして「編集者 佐渡島チャンネル【ドラゴン桜】」 があればいいんじゃないでしょうか。
言葉は借り物でいい
佐渡島
ところで、三浦君の初著書『言語化力〜言葉にできれば人生は変わる』読んだよ。すごくいい本だった。「言語化力」って聞くと、出来事をちょっとした短文にするとか、どっちかというとコピーをつくるイメージと思いきや、タイトルを『言語化力〜ストーリーにすれば人生は変わる』に変えてもいいくらいの内容だと思った。
それってコルクのミッション「物語の力で一人一人の世界を変える」にも通じるなと。自分の人生や思考をどうやって物語り、変えていくかという、語り口の話だからね。
三浦
ありがとうございます。まさにそうなんです。
佐渡島
僕も新人作家には「なるべく個人的な話をしよう」って言ってる。彼らは「物語をつくるぞ!」って意気込んで、一生懸命頭の中で考えようとするんだけど、頭の中で考えた何かよりも、その人の記憶に残ってる、わざわざ言うほどのことかな?みたいなことを短編にしたほうがいい。
三浦
こないだ『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞を4冠制覇したポン・ジュノ監督が、「もっともクリエイティブな話とは、もっとも個人的な話である」と言ってたのが、まさにそれ。誰しも固有の人生と固有の感性を持ってるんだから、そのことを語ったほうが普遍的な物語になるって思います。
佐渡島
読み始めてすぐ、「言語化力」って言いながら名言botみたいな本だなって思った(笑)。他人の名言bot。
三浦
キュレーション(笑)。
「物語ることにより世界は変えられる」。業種は違えど世界の変革を目指し、水魚の交わりのごとく思考を確認し合う2人。
佐渡島
結局何がオリジナルなの?って話ともつながるんだけど、言葉ってみんなが使ってるものだから、結局はどっかから借りてきたものでしかない。ただ、それが単語レベルだったら誰もパクリって言わないけど、文章だと僕みたいに「名言bot」って揶揄されちゃうじゃん。それを三浦君が意識的にやってるのか、後からそれをOKにしたのかわかんないけど、そういうのがいいんだとも書いてるよね。だから、最後まで読むといやらしくない(笑)。
三浦
僕はつねづね、日本人のオリジナル信仰に対して異を唱えたいなと思ってるんですよ。オリジナリティじゃなきゃだめだとか、独創性が必要だって言うけど、そういうのが人を超不幸にしてる。同じ言葉でも、使い方とかシチュエーションによって変わるじゃないですか。
佐渡島
コンテクストによるオリジナリティを出そう、ってことだよね 。
三浦
そうなんですよ。その場、その瞬間にどういう言葉を選ぶのかって話です。他人の言葉でも置かれた場所や文脈が違えば、まったく違う意味を持つ。自分の言葉がないからつらい……と思ってる人に勇気を与えられたらなという思いも込めて書きました。
変化が起きるのがいい言葉
佐渡島
本の中に「変化が起きるのがいい言葉」とあるけど、これも僕が漫画家によく言ってる「読者の中に変化が起きるのがいいストーリー」に近いと思った。
三浦
コピーって、つい美しい言葉とかエモーショナルな表現とかを求めがちですけど、それは作家や詩人がやればいいこと。僕は言葉の職人として広告の仕事をずっとしているので、「それを好きになる」「それを買いたくなる」「そこに行きたくなる」みたいな、人間の欲望を喚起して「行動が変わる」ような言葉じゃないと意味がないということが、ずっと頭にありました。
佐渡島
なるほどね。他にも僕がいつも言ってることと、この本に書かれてることがけっこう重なっている部分が多いと感じた。たとえば『ドラゴン桜』がなぜ説得力をもって読者に伝わったか。たとえ話ばっかりだから。
三浦
僕も同じこと書いてますね。「たとえ話が上手い人は構造を捉えてるんだよ」
佐渡島
そう。たとえ話は会話を知的に見せる方法でもある。一回俯瞰して物事の構造を捉えない限り、たとえ話はできない。だから具体と抽象を行き来する練習をして、日常会話の中にぴったりはまるたとえ話ができると、知的に見えやすいよと。
三浦
たしかに、その通りですね。
複雑な思考を噛み砕いて伝達する三浦さんは、「たとえ化力」の達人でもある。
佐渡島
あとは、「悩むことに意味ないぞ」っていうのも。新人漫画家ってストーリーに悩むけど、僕はいつも言うんだよ。「漫画やってる風」になるな、「一生懸命考えてる風」になるなとね。とにかく手を動かそうと。
三浦
漫画だと描くこと自体に労力がかかると思うんですけど、コピーライターとかデザイナーって、それに輪をかけて考えてるってこと自体にはほんと意味がない。だからとにかく書け、合ってないかもしれなくても、ちょっと違うかもと思っても、書けと。書いているうちに合ってるもの合ってないものが見えてくるから。まずは一回アウトプットしろと。僕もよく言います。
佐渡島
だよね。あともうひとつ、本の中の「スタンスを決める、本質をつかむ、感情を見つめる、言葉を整える」ってとこ。ここもまさに、漫画家たちにすごく言ってる。あらすじみたいな感じで言葉を書いてから、ネームを割るといいよと 。
三浦
物語にしても自分の会話にしても、自分がどういう立場からものを言うのかをしっかり決めて、本質的な構造さえ作れちゃえば、あとは何度でも書き直しできますもんね。
佐渡島
観た映画のあらすじを「それ観たい」と思われるように説明できるようになれば、漫画家は漫画がうまくなるよ。
三浦
僕も本の中で、「映画のストーリーをうまく解説する」というプロセスを通じて、何かを言葉にする技術の練習方法を書きました。
佐渡島
その部分、ページをめっちゃスクショして漫画家たちに送ってるよ。
三浦
むちゃくちゃ嬉しい!ありがとうございます。
※本連載の後編は、4月17日(金)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 連載ロゴデザイン・星野美緒、 撮影・今村拓馬、編集・松田祐子)
三浦崇宏:The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、CampaignASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』が発売中。発売前から予約でAmazonのビジネス書で1位に。
佐渡島庸平:株式会社コルク代表取締役。2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテインメントのモデル構築を目指している。