今回は、こちらの応募フォームからお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。
テーマは「新しい職場で、“改善”“改革”をどう進めていけばいいか」です。
連載第1回でもお話ししたとおり、昨今、企業が中途採用を行う目的として「組織に新風を吹き込み、刺激を与えてほしい」「既存社員の固定観念を取り払い、変革をしてほしい」というものが増えています。
「変革」そのものが採用目的ではなくても、中途入社者は「新しい視点やノウハウを持ち込んでほしい」という期待を多かれ少なかれ持たれるものです。
もちろん、中途入社者自身も、「自分が入ったことで組織に貢献したい」「価値を発揮したい」と思うでしょう。それに、自分が業務を行うにあたり、「やりにくい」「前の会社のやり方のほうがいいのに」と思うことは改善したいですよね。
しかしながら、「最初の一歩」を踏み出しづらいこともあります。今回は、「改善提案」をどう切り出せばいいかについてお話ししましょう。
何かを変えるということは、過去を否定すること
今回のお悩みは、けっこう「あるある」なお話です。最終面接で経営トップから、「ぜひ改革の旗振り役となってほしい」と期待の言葉をかけられたのに、現場は冷めている、という……。
成果を挙げて期待に応えたいのに、一緒に働くメンバーは非協力的。入社後にさっそく行き詰まってしまう人、実は少なくありません。
さて、どのように進めていきましょうか。
間違っても、「私は社長から直々に改革の命を受けたのですから、それを遂行します!」などと、「背後の権力」を振りかざしてはいけません。あっという間に孤立してしまう可能性大です。
前回もお話ししたとおり、成果を焦るのは禁物。まずは既存のやり方を受け入れ、周囲を観察し、実情や背景を理解しましょう。改善提案を行うのはそれからです。
何かを「変える」ということは、それまでのものを「否定」することになります。
しかし、入社してまだ日が浅い人が、職場の問題点を批判的に指摘し、自分のノウハウを導入するよう提案することは、もちろん歓迎されることもありますが、反発を受ける可能性も。
既存社員の立場からすると、自分たちが信じてやってきたことを、つい最近まで部外者だった人に真っ向から「否定」されるのは気分がいいものではありません。提示されたアイデアがいくら斬新で画期的なものであっても、「押し付けられている」と抵抗感を抱かれる恐れもあります。
提案がスムーズに受け入れられる4つの切り出し方
ですから、その職場でのやり方を教わったとき、いきなり否定的なことを言うことは控え、一旦は素直に受け入れて、そのやり方でやってみましょう。その上で、「やはり改善すべきだ」と判断したら、提案を出しましょう。
そのとき、カドを立てず、相手にすんなりと受け入れられやすい切り出し方として、4つの方法をお伝えします。
1.「質問」の体裁で指摘する
「こういうやり方にしているのはどんな理由が?」問いの形での投げかけは、相手に再考を促す効果がある。
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「このやり方は効率が悪いと思います」などとストレートに言うのではなく、「質問する」という形で切り出してみましょう。
「これは、どうしてこういうやり方をしているんですか?」
「こういう流れで進めるのには、何か理由があるんですか?」
そこで明確な理由があることが分かれば、あなたも納得できるでしょう。しかし、実は大した理由もなく、ただ「以前からの習慣」を続けているだけのこともあります。
その場合は、既存社員も「そういえば、どうしてだろう?」と、初めて疑問を抱くかもしれません。その流れで、「必ずしもこうである必要はないのでは」と自然に気づいてもらえます。そのタイミングで、「こういう方法もあると思いますが」と提案すれば、受け入れられやすくなるでしょう。
2. 理解を示したうえで「感想」として伝える
いきなり「このやり方は非効率だ」「絶対にこうしたほうがいい」と決めてかかる言い方は避けましょう。
「このやり方をされているのには、何らかの理由や事情があると思うのですが、一つの意見として、私が感じていることを聞いていただけますでしょうか」
このように、「ノウハウを教える」ではなく「感じていることを伝える」というスタンスで切り出すと、耳を傾けてもらいやすくなると思います。
3.「成功事例」として伝え、メリットを感じてもらう
「私が前にいた会社ではこうしていた。このやり方に変えるべき」という提案の仕方では反発を招いてしまいます。同じことを伝えるにも、表現を変えましょう。
「私が前にいた会社でもこんな課題があって、このやり方を導入したらうまくいったんです。うちでも取り入れてみると、今より楽になるんじゃないでしょうか。一度試してみませんか」
このように、チームの皆が「今よりも楽になる」「手間や時間を短縮できる」「ミスを防げる」といったメリットを併せて伝えることで、「チームのために、より良くすることを考えてくれているんだな」と好意的に受け取ってもらえるはずです。
4. 褒め言葉を述べたうえで伝える
良い点は積極的に褒めること。称賛とセットなら、改善提案も受け入れられやすくなる。
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「この会社は、〇〇を実践していてすばらしいですね。前の会社ではもっと××でした。ただ、△△についてはもっといい方法があるように思います」
「とても効率のいいオペレーションが確立されていて素晴らしいですね。ただ、○○の部分が少し抜けているので、××というリスクがあるように感じます」
「この資料はどなたが作られたのでしょう。よく調べられていますね。これにプラスして、○○の要素もあるといいのではないでしょうか」
つまり、「否定」だけでなく、「称賛」もセットで伝えることで、強い反発は起きにくくなると思います。その職場の良い面にフォーカスし、さらにプラスしていく形であれば、受け入れられやすいものです。
以上、4つの方法を状況に合わせて使い分けてみてください。
繰り返しますが、「否定」ではなく、「こうするともっとよくなる」を強調するのがポイントです。そうすれば、「外から来て自分たちを否定する人」ではなく、「自分たちの仕事がもっとやりやすくなるようにヒントや情報を与えてくれる人」と見てもらえるようになります。
自分たちにとってプラスになる、メリットになる情報やアイデアを持っている人だと認識されれば、聞く耳を持ってもらえ、後々、大きな提案もスムーズに受け入れられやすくなります。
とにかく「最初が肝心」。何かを変えようとするなら、反発を招かないような形からスタートしましょう。
※この記事は2020年4月13日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。