“新型コロナ後の世界”に2大変化。強権政府の復権と「グローバル・リーダー」アメリカの退場

中国半旗

新型コロナウイルスによる犠牲者を追悼するために、武漢のホテル付近で掲げられた半旗(4月4日撮影)。この日、習近平国家主席をはじめとする指導者や国民が黙とうを捧げた。

REUTERS/Aly Song

コロナパンデミック後で世界はどう変わるか。感染拡大が止らない中、透けて見えてきたものがある。

第1はグローバル化によって弱体化された国家と政府が復権し、強権政府に期待する人たちの姿。もう1つは、自国の利益のみを優先するアメリカのグローバル・リーダーからの退場である。

2つの変化を軸にコロナ後の世界を読み解く。

グローバル化で実権奪った多国籍企業

ブリュッセルにあるEU本部

グローバル化により、国境という概念が薄れつつあった。その象徴がEUだ。

REUTERS/Yves Herman

まず国家と政府の復権。1989年の冷戦終結にともない世界はヒト、モノ、カネが国境を越える地球規模の経済システムが築かれた。世界中に複雑に張り巡らされたサプライチェーン(供給網)を支配する多国籍企業は、本来は国家主権に属する金融・通貨政策はもちろん、雇用を含む経済・社会を左右する実権を国家から奪った。

グローバル化は文化・歴史を共有する多国間の協力と統合を促し、欧州連合(EU)や東南アジア諸国連合(ASEAN)の求心力を高めた。これが30年にわたって、われわれが経験したグローバル化した世界だ。世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言(3月11日)は、グローバルなサプライチェーンを破断し、世界中で生産停止ないし停滞が始まった。

1929年に起きた「大恐慌」で世界は、10年に及ぶ深刻な不況を体験した。当時「震源地」のアメリカをはじめ各国が採用したのが、ケインズの「有効需要論」に基づく「社会主義的」政策だった。国家・政府が景気回復のため減税や失業者を雇用する国家主導型の経済政策である。

国民を救えるのは政府のみ

ニューヨークで設営される仮設病院

ニューヨーク市内の大型展示場内で設営される仮設病院(4月3日撮影)。トランプ大統領は3日、同仮設病院を運営するために米軍兵士と連邦職員を派遣することを発表した。

REUTERS/Andrew Kelly

感染・死者数が中国を超えたアメリカのニューヨーク市場では3月12日、主要企業でつくるダウ工業株が過去最大の下げ幅を記録した。失業保険の新規申請が3月下旬からの2週間で1000万件を超え、失業率は4月には10%前後まで上昇する勢いだ。

当初、新型コロナウイルスの感染力を軽視したトランプ政権だったが、経済指標の急下降で、年収7万5000ドル(約825万円)以下の大人1人1000ドル(約13万円)を4月に現金で支給するなど、計2兆2千億ドル(約238兆円)の経済対策を成立させた。

自らもウイルス感染したイギリスのジョンソン首相も賃金の85%(最大35万円)を保証する方針を決め、フランスは一時帰休の従業員が賃金の約84%を受け取れる制度を打ち出した。

こうした国家主導型政策が意味するのは、グローバル化で退場した「政府の復権」である。パンデミック対策と経済再構築のために国際協力は不可欠だが、その前に「国民」が死んでしまえば元も子もない。

多国籍企業には世界経済をリードする力があった。だが病気と貧困にあえぐ市民に、救いの手を差し伸べる意思も能力もない。企業倒産と失業者に金銭支援できるのは「政府」だけ。いま目の前で繰り広げられているのは、こうした主役交代の風景である。

試される「独裁か民主か」

インドのロックダウンの風景

インドで、ロックダウン(都市封鎖)の条件に違反した罰として、スクワットをさせられる市民。モディ政権は3月25日から全土封鎖の強権を発動した(4月1日撮影)。

REUTERS/P. Ravikumar

中国政府が、「武漢封鎖」の荒療治に出た時、「独裁国家だからできた」という見立てが溢れた。

ではアメリカ、イギリス、イタリアを含め欧米先進国が、外出時の罰金を含め私権を制限するロックダウン(都市封鎖)に出たことをどう説明すればいいのか。それが、感染拡大防止という緊急で一時的な政策だとしても。

足元の日本。立憲民主、国民など主要野党は、私権を制限する「改正新型インフルエンザ特別措置法」の成立に賛成した。3月末から感染者が急増すると、野党も「反安倍」勢力も、「緊急事態宣言」に踏み切れない安倍首相に苛立ち募らせ、発動を促すまでに。

強権政府への期待論が日本でも芽生えている兆候ではないのか。

「アジア最大の民主国家」インドのモディ政権は3月25日から全土封鎖の強権を発動。ハンガリーのオルバン政権は政府権限を強化する「非常事態法」を成立させた。ロシアをはじめ中欧・東欧諸国では、既にあるポピュリズムの土台の上にコロナ対策を理由にした強権政治が勢いを増している。

コロナ禍は「グローバル化」に疲れた世界に、国家回帰を加速させる作用をもたらしている。

強権的政府が復権すると、統治システムをめぐる「民主か独裁か」というアジェンダ設定の有効性も試される。国家ガバナンスの性格を決定するのは、制度そのものより、国・地域の伝統・文化によって形成される集団意識ではないかとの見方が説得性を持つ。

「アメリカはもう真の友は持たない」

トランプ大統領

20世紀と冷戦終結後の30年、世界をリードしてきたアメリカは、今やそのグローバルリーダーの役を退きつつある。

REUTERS/Joshua Roberts

次に検討するのは、20世紀と冷戦終結後の30年をリードしてきたアメリカの役割。政治コンサルタント会社、ユーラシアグループのイアン・ブレマー社長は、コロナ後の世界について「米中関係をさらに悪化させ、『Gゼロの世界(主導国なき時代)』をより混沌とさせる」(日経デジタル版、3月27日)とみる。

そして米中の「デカップリング(分断)」が深まり、アメリカは「中国だけでなく欧州などその他の地域からも孤立」し、「世界におけるアメリカの力は弱まる」と予測した。この見方はブレマー氏に限らない。欧米の国際政治学者や歴史学者に共通する。

イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ハラリ氏は米誌「TIME」(3月15日付)に寄せた「人類はコロナウイルスといかに闘うべきか」で次のように書く。

「アメリカはグローバルなリーダーの役を退いてしまった。(中略)アメリカはもう真の友は持たず、利害関係しか念頭にないことを全世界に非常に明確に示した。そして、新型コロナウイルス危機が勃発したときには傍観を決め込み、これまでのところ指導的役割を引き受けることを控えている」

国家は手にした強権を手放すか

ユヴァル・ハラリ氏

イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ハラリ氏。『サピエンス全史』『ホモ・デウス』は、全世界的なベストセラーとなった。

REUTERS/Denis Balibouse

ハラリ氏は、コロナ後の国際政治について、

「感染拡大による打撃は長く国際関係に影響していくことになる。しかしすべての危機はチャンスでもある。新型コロナの流行が、グローバルな分裂が重大な危険をもたらすと人類が理解する機会になることを願う」

と、グローバルな協力復活の必要性を説いている。

コロナ禍が収まれば、世界はいったん閉じた国境を再開し、「サプライチェーン」を再構築するためのグローバル協力も一定程度、蘇るだろう。それが経済合理性だからだ。

しかし、いったん強権を手にした国家・政府が、自ら強権を手放し再退場するとは思えない。「大恐慌」の後、アメリカが産業保護のため高関税政策を導入、それが第二次大戦の導火線になったことを想起すべきだ。

コロナ禍がなくても、アメリカは中国に高関税を課す貿易戦争を仕掛け、中国の台頭を抑え込もうとした。コロナ禍による健康被害が大きければ大きいほど、そしてそれに伴う経済的コストが大きいほど、トランプ政権が保護主義政策を強める可能性は高まる。

中国が展開する「マスク外交」

3月中旬には感染拡大を食い止めた中国は、新たな「震源地」のイタリアをはじめ、分断傾向が顕在化するヨーロッパ諸国を医療支援する「マスク外交」を展開している。グローバル化の下で経済的果実を手にした中国にとって、サプライチェーンを一刻も早く再構築しなければ、経済再生はおぼつかない。

これから感染のピークを迎える欧米諸国、そして日本には経済外交を展開する余力はない。世界のパワーバランスはどうみても中国に傾斜している。覇権国家と新興国家による戦争の危険性を説く「トゥキディデスの罠」がこれまで以上に現実味を帯びる。仕掛けるのは防戦側のアメリカである。

日米同盟基軸を掲げる日本にとって、秩序再編の主導権を握ろうとする中国とどのような距離をとるかは、コロナ前以上に難しい課題だ。だがその距離は、衰退に歯止めのかからない日本の生存がかかる。強権国家同士がぶつかり合う火花をどうさばくか。世界は経験したことのない時代に入る。

岡田充:共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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