コロナ経営苦と闘う「コンサドーレ札幌」選手団、異例の“給与減額”申し入れ

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4月6日、コンサドーレ札幌の全選手からの給与減額申し入れがあったことを説明する野々村芳和社長。野々村社長自身も報酬の一部返上を表明している。

提供:コンサドーレ札幌

新型コロナウイルスの猛威が、いよいよ日本のプロスポーツチームの経営を揺るがし始めているようだ。サッカー・Jリーグのコンサドーレ札幌は4月6日、全28選手から2020年シーズンの給与減額の申し入れがあったことを公表した。

5日に主将の宮沢裕樹、選手会長の荒野拓馬、菅野孝憲の3選手が代表して、野々村芳和社長に伝えた。選手それぞれの減額程度は明らかにされてはいないが、総額で約1億円になるという。日本のプロスポーツにおいて、選手側による報酬の返上は、史上初めてとみられる。

宮沢主将を始めとした選手の声として、チームの公式ホームページ上で

「このような状況だからこそ、いつも以上に支え合わなければならないと感じています。新型コロナウイルスによるクラブへの影響も大きくなる現在の状況を鑑み、我々北海道コンサドーレ札幌の選手一同は、クラブに対して支援することを全選手合意のもと、決めました。その先にある北海道への支援につながると考えたからです」

と理由を説明した。

野々村社長は「嬉しいというか感謝の気持ちでいっぱい」と述べた。

「1億円以上の費用負担減」も、苦しい状況は続く

コンサドーレ札幌が公表している決算公告やJリーグの資料によると、コンサドーレ札幌の2019年1月期決算(※2020年1月期決算はまだ公表していない)は、売上高にあたる営業収益が29億8800万円で、その内訳は興行収入が21.3%、広告料収入が44.7%、商品売上が6.3%、Jリーグ配分金収入が13.1%、その他の売上高が14.6%。また、チームの運営コストに相当する営業費用は32億3300万円で、本業の儲けにあたる営業損益は2億4500万円の営業赤字だった。

営業費用にうち、チーム人件費は15億200万円とおよそ半分を占める。きたる2020年シーズンにおいても、人件費が大きな割合を占めているとみられる。

選手側の申し入れを受けいれるとなれば、1億円以上の負担が減る形にはなる。しかし、それでも苦しい状況は変わらない。公式戦自体が開催される見込みが不透明だからだ。試合が開かれないとなると、興行収入や商品売上に影響を及ぼす。

Jリーグやプロ野球の選手たちから感染者

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Jリーグと日本野球機構が開いた「新型コロナウイルス対策連絡会議」の専門家チームのひとり、賀来満夫氏(東北医科薬科大学医学部感染症学教室特任教授、東北大学名誉教授)。

第5回新型コロナウイルス対策連絡会議の賀来氏(スクリーンショット)

感染者数が日増しに増加しており、Jリーグやプロ野球の選手や関係者たちからも感染者が出始めている。その中、4月3日に東京都内で、Jリーグとプロ野球を運営する日本野球機構(NPB)は、感染症の専門家チーム(※)を交えた「新型コロナウイルス対策連絡会議」の第5回が行われた。

※専門家チーム:座長の賀来満夫氏(東北医科薬科大学医学部感染症学教室特任教授、東北大学名誉教授)、三鴨廣繁氏(愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学教授)、舘田一博氏(東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授)の3人。

賀来氏は「現段階で感染の患者が全国で急増している厳しい状態。どこでも感染が起こりえる状況で、(Jリーグやプロ野球の公式戦を)4月に開催するのは難しい。できるかぎり、開催の時期を後に伸ばして欲しい」とJリーグとプロ野球に提言した。

同じく専門家チームの三鴨氏も、

「再開を模索していたが、昨今事情が変わってしまった。私見ではあるが、3月28日頃から新型コロナウイルスの局面が変わってしまった。私が勤務する病院でも、別の疾患で入院してきたのに、新型コロナウイルスの感染が見つかったりしている。それくらい感染が広がっている。日本を代表する2大スポーツの社会に対する責任を果たさないといけない。4月の開催は困難だろうとなった

と苦渋の判断だったとした。

試合開催なければ収入もない「経営苦」。対策はあるのか

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4月25日からのJリーグ再開を白紙に戻した村井満チェアマン。

これを受けて、Jリーグの村井満チェアマンは、4月25日以降から順次再開予定だったJリーグ公式戦を再び白紙とした。また、プロ野球も、連絡会議後に行われた12球団代表者会議で、4月24日に延期となっていたプロ野球開幕戦を正式に白紙とした。

Jリーグもプロ野球も、再延期となれば、それぞれ全試合の日程消化が非常に厳しくなる。それでも、村井チェアマンは「無観客試合を開催するとしても、選手たちをリスクにさらしてしまう」と安全性を考慮した。

公式戦の試合数が減るということは、試合の入場料などの興行収入、来場客のグッズなど販売収入が得られない。そしてテレビ局やスポーツ動画配信サービス「DAZN(ダ・ゾーン)」から得られる放映権収入も減る。

今回のコンサドーレ札幌は、現時点では、クラブ経営が悪化しているという報道が出ている訳ではない。ただ、コンサドーレ札幌に限らず、Jリーグやプロ野球の各チームが、予定していた収入が得られなくなるということは当然、チーム経営を切迫する。

日本に限らず、世界中で同様の事態に直面している。ヨーロッパのサッカーリーグでは、資金が潤沢と言われている大型チームでも既に、選手の大幅給与カットや、解雇等が発生している。

Jリーグとプロ野球はひとまず、1カ月以上先の5月下旬以降の再開を模索していくことになる。

新型コロナウイルス感染が厄介な点

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第5回新型コロナウイルス対策連絡会議の様子。メディア向けの会見はウェブを通じて行われた。

しかし、新型コロナウイルスの感染が厄介な点がある。感染の有無を確認するPCR検査で、陰性になっても、後に再び陽性となるケースが中国等で報道されている。つまり、新型コロナウイルス感染から“完治した”という判断がしづらい点だ。

専門家チームの賀来氏は、公式戦の開催見込みに対するBusiness Insider Japanの取材に対し、次のように答えている。

「長期間体内にある程度、新型コロナウイルスが定着するのではないかという報告が多い。PCR検査で2回陰性になっても、コロナが体内に残っている可能性は否定できない。

どんな感染症もそうだが、コロナの場合は長く残っている可能性を否定できない。感染した選手が退院してからも、1〜2週間は、(自身、周囲への感染リスクなど)十分に体調管理や精神的な重荷などを留意しないといけない。トレーニングや試合に出てはいけないという訳ではない」(賀来氏)

これまでJリーグとプロ野球は、チームの選手や関係者、そして観客から、感染者が出ないように、クラスターが発生しないようにと、慎重に議論や対策を進めてきていた。

ただ、全世界の状況を見る限り、早期の再開判断はほぼ不可能に近い状況に見える。リーグとして先行きの見えないコロナとの闘いを続ける一方、試合をしなければチーム経営は成り立たない。

賀来氏のコメントからは、プロリーグが今後直面する苦悩が見え隠れするように思える。

(文、大塚淳史)

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