気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。今回の道場相手は前回に引き続き、コルク代表の佐渡島庸平さん。GOの初クライアントとしてブランディングの仕事を発注してくれた佐渡島さんは、三浦のよき理解者であり、ビジネス系インフルエンサーとしてともに走り続ける仲間でもある。そんな2人が向き合うのは「言葉にできないこと」の存在。 言葉がない世界を人はどう伝えればいいのだろうか。
言語にできないことを書く方法
三浦
佐渡島さんは3冊目の本を書いてるんですよね。テーマはなんですか?
佐渡島
言語にできないことに気づく観察力の鍛え方、みたいなこと。今日三浦君に会うにあたって話したいと思ってたのがまさにそのテーマで、「言語にできないことをどうやって書くのか?」ってこと。小説とかマンガとかの物語って、一つのセリフやあらすじでは描けないこと、つまり言語化できないテーマを書こうって試みなわけだけど。
三浦
そうですよね。分かります。
佐渡島
『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』に「小田和正は『言葉にできない』と歌った。言葉にできないは圧倒的真理である。言葉にできないもののほうが、絶対に価値がある」って書いてるじゃん? 僕ここを読んで、あ、三浦君も同じこと考えてるんだと思ったんだよね。だからこの「言葉にできないもの」に気づく方法とか、そのヒントを得る方法とか、自分の直感力を高めたりするために三浦君がやってることをぜひ教えてほしいです。
三浦
分かりました。まず大前提として、「言葉にできないものが世の大半を占めている」と知覚することが、すべての第一歩だと思うんですよ。
佐渡島
うん。
「言葉にできないことこそが一番大事だ」という三浦さん。だからこそ人は言葉への挑戦をし続けるのかもしれない。
三浦
人間には「分かってること」「“分からない”と分かってること」「“分からない”ことさえ分からないこと」の3つがあって、最後の「“分からない”ことさえ分からないこと」が99%くらいじゃないですか。
世の中のほとんどのことって、自分と関係ないところで勝手に起きていて、そのことが分かってないことさえ、分かってない。とはいえ世界にはこの3つがあるよってことを知ってるだけで、ちょっと見え方変わってくる。
佐渡島
たしかに、それが第一歩だね。
三浦
そのうえで、1つすごく大事なことがあるとしたら、何かしらの人生の課題意識を持つことが、センサーを鋭敏にするんじゃないかなと思ってます。直近だとジェンダーの問題とか、ダイバーシティに関する問題とか。そうだ、イシケン君ってわかります?
彼は、政治系の研究者でYouTuberなんですけど、30歳くらい。このあいだ一緒に飯食ったんですけど、彼の指摘で面白かったのが、世の中って性差別や国籍差別に関してはすごく敏感だけど、能力差別に対しては敏感じゃないですねと。
佐渡島
うんうん。
三浦
彼いわく、世の中って、優秀な人・能力高い人が上の方に行くのが当たり前みたいになってるけど、それは能力差別主義だよねと。性差別主義や国籍差別主義には反対の人でも、自分は能力差別主義を選ぼうとしてるということに対して自覚的じゃなきゃいけないです、って言われてハッとしたんですよ。こういうふうに、あるイシューが自分にとってすごく大事だ!と気づくことによって、センサーの鋭敏さは上がるんじゃないかなって。
能力差別主義からの脱却
佐渡島
それで言うと、起業家の人たちはみんな能力差別主義者だと思うよ。他人の会社よりも自分の会社のほうが利益を出したいわけだから、自分の会社に能力がある人を偏らせたいって考える。それって自分も含めて浅い思考ともとれるなと。
三浦
そうですね。
佐渡島
僕が、政治家ってやっぱりすごいと思うのは、決して能力差別主義じゃないというところで。
三浦
ほーお、そうですか?
佐渡島
国を運営するときに、弱者も含めて日本という国だし、アメリカって国ですよね。そこに能力差別を持ち込んだのがナチスであって。基本的に政治家のマインドのなかには……税金をたくさん納めてくれる国民の方がありがたいという気持ちはあると思うよ。でも税金を納めない国民は国民じゃない、みたいな思想はない。だから全員を平等にする施策を考えてる。
三浦
それで言うと、ダイバーシティの先のインクルージョンみたいな、すべてを包摂するべきって考え方がありますけど、政治家は最低限それをインストールされてないといけない職業ってことですよね。
佐渡島
そう思います。今って経営者が日本を改革するアイデアをネットで自由に言えちゃうからどんどん言うじゃない?
三浦
よく言われてますね。
佐渡島
これって一見合理的でうまく行きそうなんだけど、すごく能力差別主義的に感じますね。能力がある人にとっては「生きやすさ」が増す提案をしてるけど、そうじゃない人にとっては「生きやすさ」が増さない提案をしてるなあって感じるときが結構ある。
物語の力で一人ひとりの世界を変える
三浦
佐渡島さんも、イシケン君と同じような問題意識を持ってるんですね。
佐渡島
コルクのミッションは「物語の力で、一人一人の世界を変える」だけど、物語って、能力主義的な世界の中からこぼれ落ちた人たちの心を変えて、もう1回世界に参加するのを助けるものだなとすごく思うんです。
三浦
物語って、人間が脳内で考えるだけならコストがゼロですよね。外から手に入れるにしても、例えば「少年ジャンプ」は300円で買えるし、それこそコルクの作家さんの小説や漫画だって、500円から高くても2000円くらい。極めて安くトリップできるのが物語だし、それが「一人一人の世界を変える」ってすごく意味がありますよね。
佐渡島
そうだね。
三浦
これって「一人一人の」の部分が大事だと思うんですよ。「世界を変える」だけだと極めて能力主義的で、じゃあその「変わった世界」で優遇されるのって誰なんですか?っていう、旧来的な価値のパラダイムじゃないですか。昔で言うと士農工商、今で言うと官僚主義みたいな。じゃなくて、一人ひとりの世界が個別に、1億6000万人いたら1億6000万人の世界が変わればハッピーなのであって。
起業家の言う「世界の新しい仕組みをつくる」ではないところに、意味がありますよね。
佐渡島
実は、そこがコルク社内でもすごく議論したところ。「一人一人の」を足すのか、「世界を変える」だけでいくのか。
三浦
「一人一人の」をつけたのは、めちゃくちゃ正しい選択だった思います。物語とかコンテンツってほんとに民主的なもの。あらゆる人間が同じ金額で享受できるってことに意味がある。
コルクのミッションは「世界を変える」ではなく「一人一人の世界を変える」。物語がその世界をより色鮮やかにする。
佐渡島
そういえば、三浦君と深く話すようになったのって、GOができる半年くらい前に、まさにこのコルクのミッションやビジョンづくりを手伝ってもらったときだよね。三浦君に案を出してもらって、それを僕が直して、三浦君が直して、ってのを繰り返してた。
三浦
佐渡島さんが最初に、「僕ってこんなこと考えてるんだよ」って話をまずしてくれて、それを僕が短い言葉に集約して、佐渡島さんに見せて、「ちょっとこの部分足りてないよね」とか「この部分誤解が生まれるね」とか「うちの社員こういう言い方好きじゃないかもね」とか言われて、直して、という無限のキャッチボールみたいなのを半年くらいやらせてもらいました。その仕事、マジでありがたかったんですよ。
佐渡島
なんで?
三浦
僕が博報堂を辞めるとき、佐渡島さんに「まあ辞めたほうがいいと思うよ」って言われたあと「ところで君、貯金とかあるの?」って聞かれて、ゼロなんですよって答えて振ってくれたのが、そのコルクのブランディング仕事でした。まだ博報堂に在籍中だったんで闇営業ですよね(笑)。
で、GOが立ち上がった瞬間に、第1号クライアントであるコルクさんにお金を振り込んでもらったおかげで、GOのオフィスを借りられたんですよ。めちゃめちゃありがたい、いい話なんです、これ。
佐渡島
(笑)。
(構成・稲田豊史、 連載ロゴデザイン・星野美緒、 撮影・今村拓馬、編集・松田祐子)
三浦崇宏:The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、CampaignASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。2冊目の著書『人脈なんてクソだ。 変化の時代の生存戦略 』が発売中。
佐渡島庸平:株式会社コルク代表取締役。2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテインメントのモデル構築を目指している。