4月初旬の原宿・竹下通り。新型コロナウイルスの影響で、閑散としていた。
撮影:西山里緒
ぴあ総研の発表によると、ライブエンタメ業界は新型コロナウイルスの影響で「市場4割消失の危機」となっている —— そんな衝撃の試算が3月下旬に発表された。
今、エンタメ業界は「アフター・コロナ」に向けてどう備えるべきなのか?
4月9日に業務提携を発表した、きゃりーぱみゅぱみゅらが所属するエンタメ企業「アソビシステム」社⻑の中川悠介⽒と、メディアプラットフォーム「note」を運営するnote社(7日にピースオブケイクから社名変更)CEOの加藤貞顕氏に話を聞いた。
ライブエンタメ売り上げは4割消失
薄灰色の雨が降る、4月初旬の原宿。取材のためにアソビシステムのオフィスを訪れると、普段は人混みで歩くことすら難しい街から、人が消えていた。
中川氏・加藤氏ともに記者は初対面だが、加藤氏はビデオ通話での参加。新型コロナウイルスの影響下で、すべてが異例づくしの取材となった。
取材の趣旨は、「新型コロナウイルス後」の世界で、エンタメ業界はどのようにビジネスを立ち上げていくか。
ぴあ総研によると、3月下旬までに1750億円のチケット代が払い戻しになったという。
出典:ぴあ総研
ぴあ総研によると、新型コロナウイルスの影響による公演中止で、3月下旬までに1750億円ものチケットが払い戻しになった。5月末まで現状が継続されると、年間市場規模約9000億円に対して、売り上げが4割失われる計算だ。
「(イベントは)ほぼ中止になっていますね。再開の予想がつかない状態です。オンラインのビジネスも立ち上げてはいますが、リアルイベントをすごく大切にしてきたので……」(中川氏)
重苦しい空気の中、インタビューが始まった。
プラットフォームに依存しない“個人”のビジネス
アソビシステム社長 中川悠介氏(右)、note CEO 加藤貞顕氏。加藤氏はビデオ通話で参加した。
撮影:西山里緒
「リアルイベントができない状況というのは、今後は起こってはならないこと。それはオンラインのビジネスで代替できるものではない」 ——そう語る一方で、新型コロナウイルスが猛威を振るう前から予測できていた事態もある、と中川氏は話す。
それはプラットフォームに依存しない、“個人”を軸としたビジネスを立ち上げていかなければ生き残れないという危機意識だ。
「インスタグラマーやYouTuberなど、個人が注目されて稼げる時代にはなりましたが、フォロワーや再生回数を増やす話ばかりになってしまっているところもある。それだけでは“ホンモノ”は生まれないと思っています」(中川氏)
SNSの文脈を読んで「バズる」コンテンツを生み出すことからだけでは、本当に創造性のあるカルチャーは生まれない。ファッションにしろ音楽にしろ、その人が得意とする分野を深掘りして発信できる環境を、いかに整えるか? そうした課題はここ数年、エンタメ業界が直面してきたものだ。
新型コロナウイルスの感染拡大でその必要性は喫緊のものとなったが、根底の課題意識は以前からあったものだ、と中川氏は話す。
noteのMAUは4400万、半年で2倍に
noteの加藤氏も「あらゆるクリエイターがオンラインで完結するビジネスを立ち上げるという動きは、コロナがあろうとなかろうと進んでいたこと」と強調する。
noteは2014年のサービス開始当初、文章や写真、音楽といったコンテンツを自由に値付けできるプラットフォームとして始まったが、ECサイトとの連携や、月額会費制コミュニティなど、その機能を大きく拡張してきた。
noteのMAUの推移。2020年3月には4400万人を突破した。
出典:note
ユーザー数も順調に伸び続け、4月7日のリリースによると、MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー=月間アクティブユーザー数)が4400万人を突破している。2019年9月末からの半年でも利用者は倍増しており、企業の利用も増えているという。
「今までは、既存のメディア(テレビ出演など)・イベント・オンラインと(ビジネスの)軸が3個あったが、今、オンラインの比率が高まらざるを得ない状況になった」(加藤氏)
今回の提携は、今までオウンドメディアとしての利用が主だった企業によるnote活用をもう一歩進めた格好だ。
従来の企業向け仕様のnote proの拡張版にあたる新機能「note media」では、所属タレントやスタッフのnoteを一元管理し、ポータルサイトとして使うことができる。さらには定期購読マガジン、オリジナルグッズやプロデュース商品の販売などを一括してnoteでできるようになるという。
note mediaのイメージ図。タレントやスタッフによる記事、プレスリリースなどが一元化できる。
提供:note
現状、クリエイターがビジネスを立ち上げようとすると、インスタグラム、YouTube、オンラインサロン、ECサイトなど、それぞれのプラットフォームで、いちからコンテンツを立ち上げなくてはならない。note mediaでは、それらが一元化できる点が強みになる、と中川氏は期待を寄せる。
受注型から発信型への変革を
「アフター・コロナ」において、エンタメビジネスはどんな変革を迫られるのか?その答えとして、中川氏はこう語る。
「受注型から発信型の仕事に変わっていくのかな、という感じはします。広告をもらうだけではなくて、自ら市場を作っていくこと。考えを発信して(ファンと)一緒に仕事を作り上げていく形になっていくと思います。逆にいうと、今の状況は厳しいけど、やれることは無限にあるのかなと」
加藤氏は「企業が思想を伝えたり、コミュニティ化しなければならないというのは、エンタメ産業に限ったことではない」と付け加える。
「例えばアップルという会社は、社長自らがスピーチして、商品の魅力を伝え、自分の店で直販する。そうした思想の伝え方が『指名買い』されるブランドを作っていくんです」
新型コロナウイルスの影響はすでに経済にも如実に現れている。その中で、企業はどう生き残るのか —— 。それぞれが、変革を迫られている。
(文・西山里緒)