追加調達47億円、Apple Pay対応。決済ベンチャーKyash鷹取氏語る「そろそろ本勝負」の真意

鷹取真一氏

海外ベンチャーキャピタルから47億円の資金調達を行ったKyash代表取締役の鷹取真一氏。

出典:Kyash

“●●Pay”に代表されるキャッシュレス還元ブームが日本に到来して久しい。2019年11月のヤフーとLINEの経営統合や、2020年1月のメルペイによるOrigami買収など、日本のキャッシュレス決済市場は新たなステージに移行しつつある。

そんな中で特筆すべき動きをしているのが、Visaブランドのカードやスマホ決済サービスを展開する「Kyash」だ。4月7日にiPhoneユーザー待望のApple Pay対応を果たし、同日昼頃にはTwitterの国内トレンド入りするなど、注目を集めている。

そんなApple Pay対応発表直前の3月31日、同社は海外ベンチャーキャピタルからの約47億円の資金調達(シリーズC。比較的後期の資金調達にあたる)を発表した。これにより同社の累計調達額は74億円になった。

国内向けサービスであるKyashが、なぜ海外のベンチャーキャピタルから資金調達したのか。Kyash代表取締役の鷹取真一氏に話を聞いた。

「海外投資家から評価された」Kyashの自社技術

Kyashのリリース

KyashのラウンドCに名を連ねた投資家・ベンチャーキャピタル。JAFCO以外は海外に拠点を持つ。

出典:Kyash

3月31日のリリースを見ると、アメリカの「Goodwater Capital」「Greenspring Associates」「Altos Ventures」「Broadhaven Ventures」「Tekton Ventures」や、イギリスの「Greyhound Capital」、フランスの「Partech Partners」など、欧米を本拠地に構えるベンチャーキャピタルが揃っており、これらはどれも日本の拠点は一切持っていない。

鷹取氏は、シリーズCの資金調達がこうした顔ぶれになった理由について「Cラウンドに動き出すタイミングから、海外資本は入れたかった」と振り返る。

「テレコム(通信)やバンキング(金融)といった産業は外資の参入が難しく、それぞれの国ごとに育っていく側面がある。

海外投資家の方に、日本でKyashがこれまで培ってきた実績などの数値に加え、テクノロジーや拡張性で高い評価を得られたと考えている」(鷹取氏)

Kyashの技術とは、利用者目線で見れば、アプリで即時発行できるVisaのデジタルプリペイドカード(リアルカードもあり)のサービスだ。類似のサービスは、市場を見わたせば数社存在するが、他社との違いとしてKyashが挙げているのが、ほとんどの機能を自社で開発している点にあるという。

Kyash Direct

Kyashの技術をB2Bのビジネスに変える「Kyash Direct」。(2019年10月撮影)

撮影:小林優多郎

例えば、加盟店からの決済データを処理する「プロセシング」や、カードを発行する「イシュイング」といった役割は、既存の開発ベンダーやライセンスを持つ企業に委託するのが一般的だ。Kyashの場合は、これらとアプリの開発をすべて自社で行うことで、ユーザーに0.5〜1%のポイント還元やリアルタイムの決済通知などを提供している。

さらに、同社は2019年10月に法人向けにこうした技術基盤を提供する「Kyash Direct」もスタート。ビジネスとしても活用する方針を打ち出している。

株式上場や海外展開も選択肢のひとつに

Kyash

Apple Pay対応になったKyash。

撮影:伊藤有

鷹取氏は今回のシリーズCの調達で「そろそろ本勝負」と意気込みを語っているが、上場や海外展開は考えているのだろうか。いずれについても“可能性”は否定していない。

「上場については、IPOでいいのか、国内だけでいいのか、もう少しシリーズを刻んでからがいいのか、色々なオプションがある。

海外展開は、中長期的に見るとありうるとは思う。ただ、海外展開を見越して(今回の)投資を入れるわけではない。日本はGDP(国内総生産)3位の国でまだまだポテンシャルがある」(鷹取氏)

Chime

アメリカのフィンテック系スタートアップのChime。

出展:Chime

1つ象徴的なアクションとしては、今回のシリーズCの投資家の面々には、Kyash初の個人投資家としてRahul Mehta(ラウル・メイタ)氏が名を連ねている。鷹取氏は「ポリシーとして(今まで)個人投資家を受け入れてこなかった」としながらも「彼は特別」と語る。

Mehta氏はFacebook初の外部株主としても有名で、アメリカのChimeやブラジルのNubankなど、各国の有名フィンテック企業に投資をしている。鷹取氏は従来、「金融はエンジェル投資みたいな雰囲気の領域ではない」としてきたが、フィンテックなど既存の産業構造を変える事業への投資実績のあるMehta氏を受け入れることで、ほかの投資家などから注目を集める意図があると見られる。

お金の“完全流動性”を実現する新しい金融とは?

KyashCard

申込受付中で、4月10日に順次配送となる新しい「Kyash Card」。

出典:Kyash

Kyashがこの先に歩もうとしている道はどんなものなのか。鷹取氏は「まもなくバンキングに近い領域をする準備が整う」と話す。

「『知りたい』『使いたい』『借りたい』というお金に関わる三大需要をモバイルファーストという形で、ユーザーに届ける。それは銀行免許をとらなくても提供できる。

銀行業のライセンスをとらない、というのは語弊があるかもしれないが、今の銀行はまさに進化を遂げようとしている最中で、旧来の銀行業の領域をとりにいくとは考えていない。

決済機能はKyash Card(4月10日より順次発送)によって抜本的に変えていく。使える金額や場所が広がるだけではなく、お金の流れが家計簿みたいに振り返られるなど直感的にわかるようなものも考えている」(鷹取氏)

具体的な機能や実装時期については明言を避けているが、鷹取氏はKyashが現金以上の存在になるような内容を構想する。

「出金に対するニーズも認識している。お金を貸す形になるか、後払い的にやるか選択肢はあるが、イベントや行事などの際のお金が必要になった際のニーズにも応えていきたい。

入金と出金の流動性を劇的に上げていく。中期的にはペイロール(給与支払い)などもあるかもしれない。長期的には、デジタル的な手段だけが解ではないと思う。危機的状況のときにどうするのか。Visaで使えないときに現金にできるか、などお金にまつわる“完全流動性”を実現していきたい」(鷹取氏)

6月末で経済産業省による最大5%のキャッシュレス・ポイント還元事業は終わり、日本のキャッシュレス業界に1つの節目が訪れる。その中でKyashが今後、どんな活躍をするのか目が離せない。

(文・小林優多郎)

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