ワシントンDCにあるCNNのスタジオでエルボーバンプ(=肘を突き合わせる挨拶)するバイデン前副大統領(左)とサンダーズ上院議員。
REUTERS/Kevin Lamarque
- 人工知能(AI)を使ったコンテンツプラットフォームを提供するコルドバ(Qordoba)のメイ・ハビブ最高経営責任者(CEO)が、トランプ大統領、サンダース上院議員、バイデン前副大統領のツイートを分析した。
- 分析したのは、ツイートに見られる怒りの感情、否定的トーン、受動的攻撃性、個人攻撃、階層意識の傾向だ。
- トランプ氏のツイートは怒りの感情を表す傾向が最も強く、サンダース氏のツイートは受動的攻撃性のレベルが最も高かった。
- それぞれの戦略が有権者の投票行動にどう影響するかはまだ分からない。
政治の世界では言葉が非常に重要だ。政治的メッセージを発信するツールとしてツイッターが広く使われている。
米大統領選挙候補者たちのツイートを分析してみると、彼らのメッセージ戦略が見えてきた。
とりわけトランプ大統領は、自らの支持層が使うような表現を用いて、(自分ではない別の)権力者に向かって都合の悪い真実を突きつけるかのような、独特のコミュニケーション手法を使って支持者たちと特別なつながりを築いてきた。
私がCEOを務めるコルドバは、機械学習を使って言語分析を行っている。
人工知能(AI)を使ったコンテンツプラットフォームを提供するコルドバ(Qordoba)のメイ・ハビブ最高経営責任者(CEO)
May Habib
私たちは今回、トランプ大統領、サンダース上院議員、バイデン前副大統領がそれぞれ投稿した数百のツイートを分析し、怒り、否定的トーン、受動的攻撃性(=消極的な態度や行動で怒りや不平を表現すること)に関わる言葉を精査してみた。
また、「我々」対「彼ら」といった社会階層を意識した表現についても分析を行った。トランプ氏は支持基盤固めを目的に、あえてそうした発言をしていると広く考えられているからだ。
さらに、トランプ氏のやり口を見たバイデン氏やサンダース氏も、同じ手法を取り入れて支持を広げようとしているのかどうか、社会階層に関連する表現に加えて、個人攻撃の言葉も分析した。
調査の対象は、2019年12月6日から2020年3月10日までのツイート。投稿数は、バイデン氏が770、サンダース氏が616、トランプ氏が436だった。分析結果を以下で紹介しよう。
怒りと個人攻撃が最も多く見られるのはトランプ氏
トランプ大統領のツイート戦略は怒りと個人攻撃だけではない。ポジティブな投稿でバランスをとっている。
REUTERS/Kevin Lamarque
怒りの感情と、組織あるいは個人に対する攻撃を意味する言葉を最も多用しているのはトランプ氏だ。
トランプ氏の投稿したツイートの51%から怒りの感情が読み取れるのに対し、バイデン氏は33%、サンダース氏は30%だった。トランプ氏は「チビなマイク(=先に撤退したブルームバーグ候補を指す)」「トランプ」「バーニー」「国境」「フェイクニュース」などの言葉をよく使う。
怒りの感情はどの候補のツイートにも見られる。細かく見ていくと、怒りを表すトランプ氏のツイートでは、「魔女狩り」「妨害」「違法な監視」「でっち上げ弾劾裁判」が頻出する。
一方、バイデン氏は「憎しみに満ちた攻撃」「偏見」「暴力」「道徳上の失敗」などの言葉とともに、サンダース氏の場合は「腐敗」「強欲」「無視された」「嘘をつき続ける」などの言葉とともに怒りを表している。
3人のなかで他の候補を最も攻撃しているのは(予想通り)トランプ氏だ。トランプ氏は予備選の段階で、バイデン氏よりサンダース氏への対決姿勢を強めている。
サンダース氏に対しては、2月14日にこんなツイートを投げつけている。
「狂ったバーニーに前回と同じことが起きている。それは明らかだ。民主党はバーニーの候補者指名を阻止しようとしている。(それに対し)バーニーができることはほとんどない。八百長だ!」
他方、バイデン氏に対しては3月6日にこうツイートしている。
「私はこの3年間と同じように社会保障と医療保険を守る。寝ぼけたジョー・バイデンはあっという間に両方をぶち壊すだろう。彼はそのことさえ分かっていない!」
ただし、これらのツイートの背景にある事情は、それほど単純ではなさそうだ。
トランプ氏は「狂ったバーニー」というあだ名でサンダース氏の判断能力を貶(おとし)める一方で、サンダース氏が2016年に民主党候補者に指名されなかったことについて、民主党内の権力層に行く手を阻まれた結果だという説を展開し、サンダース氏の肩を持つスタンスも見せている。
もしかしたらトランプ氏はそうすることで、自分が勝ちやすい相手が民主党候補になるよう狙っていたのかもしれない。
トランプ氏がバイデン氏を攻撃するときは、サンダース氏に対するときとはまったく異なり、ただひたすら攻撃に徹する。スーパー・チューズデー(=予備選挙や党員集会が一斉に開催される3月の第2火曜日)にバイデン氏が勝利して以来、トランプ氏はさらに攻撃色を強めている。
一方のバイデン氏も、ひんぱんにツイートでトランプ氏に言及している。
バイデン氏がよく使う言葉のトップ5は、「トランプ(またはドナルド・トランプ)」「大統領」「国」「国民」「時間」だ。国家や大統領の職務に言及しながら、トランプ氏を直接的に攻撃している。その度合いはサンダース氏よりもずっと高い。
他方、ついに撤退を決意したサンダース氏だが、指名争いの最中は対立候補よりも政策目標についてツイートする傾向が目立った。自分の公約、国民の団結、変革の実現に関する発言が多かった。
トランプ氏は、前向きなツイートでバランスをとっている
トランプ大統領のツイートから抽出したワードクラウド。
Qordoba
トランプ氏のツイートには怒りを込めた言葉や個人攻撃が多くみられるものの、意外にもネガティブなトーンの投稿は最も少ない。自分自身や、自分が成功と評価したことについても、同じくらいたくさんツイートしているからだ。
トランプ氏は政権スタッフや政治的盟友にも賛辞を送るため、ひんぱんに使う言葉のトップに「ありがとう」が登場する。最近の誉め言葉には「史上最高のアメリカ経済!」「副大統領と新型コロナウイルス対応のタスクフォースは素晴らしい仕事をした。ありがとう!」がある。
トランプ氏のツイートは、政権の業績に対する肯定的評価や、支持者への謝意が大きな割合を占める。否定的なトーンが読み取れるツイートは7%強にすぎず、「強力な」「勝つ」「敬愛する」「ワーオ!」などの肯定的な言葉でバランスを取っている。
それとは対照的にバイデン氏はネガティブなツイートが13%、サンダース氏も12%を占めた。どちらも否定的なニュアンスの言葉として、「終わり」「敗北」「害する」をよく使う。
社会階層に最も言及したのはバイデン氏、僅差でサンダース氏
トランプ大統領と大統領選挙を闘うことがほぼ決まったバイデン前副大統領。
REUTERS/Brendan McDermid
経済レベルや人種などによる社会階層の違いを持ち出す傾向が(僅差で)最も高いのはバイデン氏だ。ツイートの28%で社会階層に言及し、サンダース氏の27%をわずかに上回った。
例えば、バイデン氏は2月11日にこうツイートした。
「99.9% —— この数字は、今回の予備選で投票機会がないアフリカ系アメリカ人有権者の割合だ。有色人の有権者の支持なくして民主党の大統領候補に指名されることはないし、指名されるべきでもない」
バイデン前大統領のツイートから抽出したワードクラウド。
Qordoba
また、サンダース氏は3月4日に次のようなツイートを投稿している。
「労働階級が健康保険や処方薬、高等教育を手にすることができないのは、彼らが不運だからではない。この国の政府と経済が富裕層を不当に優遇しているからだ」
階級格差を取り上げることでこの未対応の問題への理解を印象づけるのは、民主党の大統領候補者によく見られる手法だ。
興味深いことに、すでに候補者指名争いから撤退したウォーレン上院議員は、ツイッターで社会階層に言及する傾向がさらに高かった。31%のツイートで社会格差に触れている。ネガティブなツイートも、トランプ氏、サンダース氏、バイデン氏より多かった。だが、怒りの感情を見せたり、個人攻撃したりする傾向は最も低かった。
受動的攻撃性が最も高いのはサンダース氏
サンダース上院議員のツイートから抽出したワードクラウド。
Qordoba
誰かを直接攻撃する傾向が3人のなかで最も低かったのはサンダース氏だ。だからといって、彼は口を閉ざしていたわけではない。サンダース氏は「国民」「トランプ」「キャンペーン」「国」「運動」などの言葉をよく使っていた。1月28日にはこうツイートしている。
「我々が闘う相手が政界の既成勢力と大富豪だということは隠すまでもない。彼らはアイオワ州で我々を批判する広告キャンペーンを行っている。だが我々には国民がついている。勝利するのは我々の草の根運動だ」
サンダース氏は対立候補の名前を具体的に出さずに、「我々」対「彼ら」というメッセージを出し続けている。
他方、バイデン氏は「壁でウイルスは止められない。人種差別でウイルスは止められない。本来の仕事をすべきだ」のようなコメントをつけて、トランプ大統領のツイートをリツイート(ときにサブツイート=直接名前を出さずに批判するツイート)している。
3人とも「6年生レベルの読解力」で理解できる言葉を使っている
4月8日に指名争いから撤退を宣言したサンダース上院議員。写真は2019年12月のキャンペーン中のもの。
REUTERS/Brian Snyder
アメリカの官公庁などで採用されている指標(フレッシュ・リーディング・イーズ・フォーミュラ)を適用して、3人のツイートの読みやすさ、理解しやすさ(リーダビリティ)を調べたところ、いずれも6年生レベルの読解力で理解できることが分かった。
アメリカ人の少なくとも80%が容易に読めるレベルで、メッセージを確実に有権者に伝えていることになる。
リーダビリティは候補者のメッセージ戦略そのものよりも、短いテキストを送信するというツイッターの機能に由来するのかもしれないが、サンダース氏の指標は6.4、トランプ氏は6.2、バイデン氏は6(最も平易)だった。
バイデン氏とサンダース氏のツイッター戦略は、怒りの感情、否定的なトーン、社会階層についての言及という面で、総じて類似点が多いと言える。怒りや優越感などの感情と個性的なメッセージへのこだわりとの間でトーンが揺れるトランプ氏とは対照的だ。
サンダース氏は4月8日に指名争いからの撤退を表明。バイデン氏が候補者指名されることが確実視されている。サンダース氏と重なるそのツイッター戦略が、トランプ氏に対しても功を奏するのかどうか、結果は11月の本選挙を待つしかない。
そしてその結果次第で、将来の大統領選で取るべきツイッター戦略も見えてくるだろう。
(翻訳:山崎恵理子、編集:川村力)