体調悪くても出勤する「闇の感染」。ドラッグストアやコンビニ店員が心配する自分と同僚の生活

緊急事態宣言

緊急事態宣言が出て在宅勤務を要請されても、出勤する人の数は絶えない。

撮影:竹井俊晴

新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が発令され、4月10日、東京都は基本的な休業要請の対象施設や業種を発表、政府も職場への出勤者を7割減らすよう要請した。だが、こうした中でも外出して大勢の人と接し、働かざるをえない職種の人たちがいる。そうしなければ生活できない人たちもいる。

首都圏のドラッグストアに勤めるAさん(女性)もその1人だ。

ドラッグストアは不特定多数の客に接するため、従業員は感染のリスクに晒されている。Aさんも日々、感染の危険や不安を抱いて働いている。

しかし今、Aさんが不安に思うのは、こうした“既に予想されている”感染だけではない。予想できない「闇の感染」が、人々に広がることをとりわけ懸念している。

体調悪くなっても「バレたらどうしよう」

ドラッグストアで日用品を買う人々。

マスク不足が続く中、連日開店前からドラッグストアの前には長蛇の列ができる。

REUTERS/Athit Perawongmetha

Aさんは数年前大病を患い、フリーランスで続けていた仕事が思うようにできなくなり、収入が激減した。現在は、フリーランスの仕事を細々と続けながら、派遣社員としてドラッグストア2店舗に勤務。早朝と夜勤のシフトをこなすことで生計を立てている。

一緒に働く同僚の多くはシングルマザーだ。60代以上の高齢者も少なくない。皆、低収入に苦しんでいる。

特に感染の不安を感じるのは、早朝のシフトだ。いまだに連日、マスクや消毒用のアルコールを求めて、開店前から長蛇の列ができ、狭い店内に客が密集する。

スーパーやドラッグストアの従業員への感染防止策は、海外と比べると、日本はまだ手薄な印象だ。Aさんの働く店でも特別な予防策はされてこなかった。客同士で距離をとらせたり、従業員が勤務前に体温を測ったりすることもなく、マスクも自分で用意しなければならない。

東京都などは4月10日にようやく列に並ぶ人同士の距離をとるよう求めたが、その要請以前に、レジでの客との間に防護シートを下げるなどの対策を講じたのは大手コンビニくらい。これから、どれだけの店舗や業態が適用するかはわからない。

「自分は大丈夫だろうか?」「もし感染したら?」「自分の感染で店が閉じたら、クビになる?」

さまざまな不安がよぎるようになった3月初旬。Aさんは風邪の症状に悩まされた。微熱と咳が出て、4、5日経っても治らない。コロナかもしれないと怖くなった。

もしコロナだとしたら、このまま出勤すると、周囲や客に感染させてしまう。

ところが頭に咄嗟に浮かんだのは、「ヤバイ!バレたらどうしよう!」だった。コロナ疑いで2週間も隔離されたら、収入がなくなる。店にすぐ申告する気には、とてもなれなかった。

「私のように症状が出ているのに、申告しなかった人間は『過失犯罪者』です。でも、 ここで休んだら、シフトが減って少ない収入がさらに減ってしまう。疑いがあるとなれば、店も閉めないといけない。正直に申告したことで、 コロナ疑いで店がクローズしたら……。店や同僚の損害を考えると恐ろしくて。

みなに顔向けできず、自分から店を辞めるしかない。やっぱり、収入はなくなる。それが怖かった 」

派遣会社からは「一切補償はない」

商品の陳列をするスーパーの店員。

生活必需品を売るスーパーやドラッグストアなどは宣言下でも営業を続ける。そこで働く人たちの健康をどう守るかが、問われている(写真はイメージです)。

REUTERS/Yuya Shino

罪悪感を抱きながらも、仕方なく、体調の悪いまま、出勤を続けた。

「市販の薬を飲んで経過を見ていたら、幸い、悪化することなく快復しました」

しかし、それは本当に“幸い”だったのか。

Aさんは今後のために、万が一感染した場合の休業や労災などの補償について店に問い合わせてみた。「感染したら補償はするが、感染場所が店内か店外かで補償の割合は変わる」という回答だった。派遣会社にも確認したが、「一切補償しない」だった。

「貯蓄もなく、日々の生活を維持するのに精一杯。家賃や食費、公共料金の支払いを考えると、大勢の人と接するところで働いていても、感染疑いは『隠す』以外ない。

そんな人はほかにも大勢いるはず。今、感染経路が不明の人が増えていますよね?その中には、私のように『黙っている人』が感染させる、いわば『闇の感染』がたくさんあるんじゃないでしょうか」(Aさん)

職場から「感染したら損害賠償請求する」

満員電車

満員電車での感染リスクも指摘されている(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

Aさんとは別に、やはり接客の必要な職場で働き、近親者に高い確率で感染の疑いが出た人の話を聞いた。

職場の責任者に、「自分も感染の疑いがある」と伝えた直後、休業手当が出ないことに加え、「感染したら損害賠償請求する」と告げられたという。

一般的に、感染しただけで賠償の対象にはならない。通常のウイルス感染での過失は問えないからだ。 逆にこうした対応については、労働者側がパワーハラスメントで訴えることもできる。

しかし、損害賠償などと言われたことで、この人も客に黙って出勤せざるをえなかった。

緊急事態宣言下でも、ドラッグストアのような薬や生活必需品を売る店が休業することはない。

「休業になって、収入が途切れてしまう方が怖いから、この状況で仕事があるのはむしろ、ありがたいんです。でも……」

と前出のAさんは言い淀む。

早朝、Aさんは夜勤を終えて電車に乗ると気になる人がいる。一体いつからのものか「まっ茶色のマスク」を着けている中年の男性。油の染みたようなリュックを背負い、指先も黒く汚れている。

大規模工場で日雇い仕事も経験したことのあるAさんは、心配する。

「夜勤の工場は『三密』そのもの。私が働いていた工場の食堂は換気もなく、作業場以上に密度が高かった。私の今の職場はまだまし。食べ物を加工したりしているのに、もっと劣悪な環境や状況で働かざるをえない人が大勢いる。コロナ疑いの症状が出ても、生活費のために隠して。

こういう人たちがいるのに、休業補償もあいまいなままで、『自粛要請』して意味があるんでしょうか」

解雇されそうになったら諦めずに相談を

緊急事態宣言を発出した安倍首相を見上げる人々。

政府は緊急事態宣言が出された7都府県の全ての企業に、「出勤者を7割減らすよう」要請したが……。

撮影:竹井俊晴

「やっぱり、言わなきゃ」

Aさんは、派遣会社の担当者に再度問い合わせをした。

「コロナに感染した場合、御社と契約している派遣社員にはどんな補償がされますか?」

返事は「後日改めて」。現時点で、まだ返事はない。

日本労働弁護団・中村優介弁護士はこう話す。

「日本労働弁護団としては、休業手当など補償を国にも企業にも求める働きかけをしていく。 政府は個人への給付、休業する企業への支援も検討すべきだ。コロナを理由に解雇されそうになったら、諦めず、相談して欲しい」

労働弁護団の相談窓口 新型コロナウィルス労働問題全国一斉相談ホットライン

まずは企業に対して要求・交渉を

品川駅の通勤時の様子。

出勤者をどこまで減らせるのか、問われている。

撮影:竹井俊晴

一方で、まずは企業に対して要求、交渉することも重要だと中村弁護士は指摘する。

「現場で何が起こり、何に困っていて、何が怖いのか。それを上層部に伝え、『私たちの生活を守ってくれ』と訴える。経営者側からのアクションを待っているだけでは、思うようには動いてくれない」

例えば、マスクなどの問題では、労働契約法や労働安全衛生法の中で、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負っていることが明確に定められている。そのことを指摘した上で話し合いをするといいという。

「結果はその企業の体力にもよるが、要求すれば『補償します』と言える企業もある。だから、まずは要求する。自分だけでは怖くて言えない場合は、誰か一人でも仲間を作って一緒に交渉する方法もあるし、一人で入れる組合もある」(中村弁護士)

(文・三木いずみ)

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