「いきなり!ステーキ」の失敗から学べることとは……。
撮影:吉川慧
「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスの業績不振、「バーガーキング」の店舗2割削減など、外食産業ではこの1年あまりで一部チェーンの相次ぐ閉店が話題になった。
一方で「タピオカティー」など特定の商材でブームも生まれたが、ここに来て新型コロナウイルスの感染が拡大。2020年、外食産業は岐路に立たされている。
先行きが見通せない時代、生き残ることができる外食企業の条件とは。外食経営誌『月刊食堂』編集長の通山茂之さんにヒントを聞いた。
「いきなり!ステーキ」敗因は店舗の出しすぎ
外食経営誌『月刊食堂』の通山茂之編集長。1974年生まれ。「日本の外食チェーン」の勃興、隆盛を消費者として見ている世代だ。
撮影:今村拓馬
—— 一部チェーン店の相次ぐ閉店を、どう見ますか。
ひと言で言うと「適正店舗数ではなかった」ということだと思います。ただ、いずれも店舗のリストラクションはここ数年をかけて終わったと思います。
(※編集部注:本インタビューは新型コロナウイルスの感染が国内で深刻化する前に行った)
外食は、業種業態や客単価による適正店舗数があります。基本的には、低価格の業態のほうが店舗数は増やせます。安いから来店頻度も上がる。市場的にもそうなっています。
例えば、ファミリーレストランで店舗数が多いのは「ガスト」や「サイゼリヤ」で、業界では最安値のほうです。それに比べて「ロイヤルホスト」は店舗数が少ない。
「いきなり!ステーキ」の場合は、店舗を出しすぎてしまったという点に尽きると思います。商圏の計算を見誤ってしまった。
もう1つ、閉店が目立った理由があるとすれば立地選定のミスですね。
「いきなり!ステーキ」は2020年中に74店閉店する方針。
出典:ペッパーフードサービス2019年12月期決算説明会資料(2020年2月26日)
※編集部注:「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスの2019年12月期決算は、27億円の最終赤字。同社は近隣の店舗同士で客の奪い合いが起きたとして、2020年中に74店を閉店する方針だ。
—— 店舗をリストラクションするだけじゃなく、再配置をしている企業もある。
ある場所の店を閉じて、別の場所に出店する動きについては、消費者の肌感覚としては店舗数が減っているように見えるのだと思います。
事実、チェーン店の店舗数は減っています。しかし、ただ減らしているだけではなく、減った分をほかに出店する再投資の動きもあります。実は、皆さんが思っているほど閉店ばかりではないんですよね。
チェーン店の出店数は、日本経済が成長しているときは伸びがちです。なので、本来は立地としてポテンシャルが高くない場所にも出店してしまうことがある。
しかし、外食ビジネスは「立地8割」と言われるくらいで、景気の熱が冷めて、実態に近づいてきたとき、立地のポテンシャルが高くなかったことがわかる。
それをリストラクションしたあと、また再投資して新しいお店をオープンするケースもあります。
生き残るには「強い企業」であり続けろ
通山さんは「外食産業を業種・業態で見る時代はもう終わった」と指摘する。
撮影:今村拓馬
—— 国内の外食全体は縮小傾向にある一方、人気を集める店もあります。同じ業種でも差があるような気が。例えば、ステーキ業界では「あさくま」が上場する一方、「いきなり!ステーキ」は2年連続の赤字で苦戦していますよね。
外食産業を業種・業態で見る時代はもう終わったということでしょう。
「どのジャンルが強いのか」ではなく、「どの企業が強いのか」が試される時代になっています。
その意味で言うと、本当に強いコンセプトと強い組織をつくったところが勝ち残っていくことになると思います。
少なくとも「企業」になる外食店って、必ず1店は当てているはずですからね。どの企業も、初めは1店からスタートする。1店目が成功しなかったら、2店目、3店目……とはなりません。
企業化した外食業はみな、当てる能力はあるのだと思います。クリエイティビティとか、コンセプトの構築力とか、そういうのを企業化する会社のトップは持っていますよね。
—— 外食企業としての「強さ」ですか。
いいコンセプト、いい商品、いいサービスがないと当たらないはずです。外食ビジネスは、まぐれでは当たりません。
しかし、そこから伸びる会社と伸びない会社がある。外食業界には「売上30億円の壁」というものがありますが、そこを越えられるか、越えられないかで大きく違う。
外食産業はオーナー企業が多い。カリスマ創業者がいて、その人のカリスマ性と感性で成長できる限界が30億円くらいまで。
そこから先は、組織力だったり、人を育てる仕組みだったり、結局は「人」と「仕組み」になりますよね。そこで苦労されている企業が多いのかなという印象です。
ペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長は2019年12月に「お客様のご来店が減少しております。このままではお近くの店を閉めることになります」と声明文を掲出したが、「上から目線だ」と批判が殺到。その後、改めて謝罪メッセージを店頭に張り出した。
撮影:吉川慧
—— 経営者は、耳の痛いことを言ってくれる人を、そばに置いておくことが大事とよく言われますよね。
偉くなればなるほど、耳の痛いことは入ってこなくなるものです。だから、失敗や改善点はトップに言いやすいようにしないといけません。
部下の中には、ポジショントークをしたり、自分のミスを隠したりする人もいます。仮にミスが隠蔽されて、それが明るみに出たときは、手遅れになっていますよね。
下が上の顔だけを見て仕事をするようになると、それは企業が衰退する始まりです。これまで、おそらく4000店は見てきましたが、そういう企業もいっぱい見てきましたから……。
よっぽど経営者の器が大きいか、経営者が「経営とは何ぞや」を理解していないと、強い組織はつくれません。
「コミュニケーション」より「インフォメーション」を重視しろ
2021年に創刊60周年を迎える『月刊食堂』。創刊以来の根本的なテーマは「日本の外食業界の産業化に貢献すること」だ。
撮影:今村拓馬
—— できる限り、組織の問題点を早く発見し、それを潰していくことが大切。
経営者が「雲の上の人」になってしまうと、現場が見えなくなってしまいますから。
特に外食は、本部と店舗が物理的に離れているので意思疎通がしにくい。経営の頭脳と利益を生むプロフィットセンターが離れている。産業構造的にはガバナンスが機能しづらい産業構造になっている。
一方、常に「お客さま」という消費者の目線には晒されているので、ブラックボックスの部分は比較的少ないとも言えます。
調理するところ、提供するところもすべて見える。そういう意味では、一般消費者の目から、何が行われているかが他の業種より分かりやすい。その抑止は働いてるかもしれないですね。
でもやはり産業構造として、頭脳の部分と手足の部分が離れてるので、統治が利きづらい構造であることは確かです。
これは今後もずっと課題です。特に日本企業は「コミュニケーション」をやたらと重視する傾向があるんですが、私はそれには反対です。「コミュニケーション」より「インフォメーション」、つまり「情報」が大事だと思っています。
結局、コミュニケーションって情報が共有されてないと意味がないんですよね。
インフォメーションの部分で、頭の中に入っている材料と情報量がみな同じだからこそ、コミュニケーションが成り立つんですよね。
例えば、私の頭の中と、あなたの頭の中で、材料の情報量・知識量に隔たりがあると、それはコミュニケーションを取っているようで……。
—— コミュニケーションにはならない。
そう。何か経営上の課題があったとしても、課題解決の化学反応も起きない。
だから「コミュニケーションの前にインフォメーションでしょう」と強く感じます。
社員に情報をしっかり開示し、浸透させる仕組みをつくれば、現場と本部で課題解決も生まれやすい。日本の労働者は世界的に見ても、質は高い。何が問題で、どんな解決策を生み出せるか自ら考えられる。
よく「社員とビジョンを共有する」と言う経営者がいますが、そのためにはまずインフォメーションを与えることが先だと思います。
タピオカブームから学ぶべきは「収益構造」だ
通山さんは「タピオカティースタンドで見るべきは収益構造だ」と指摘する。
撮影:今村拓馬
—— 通山さんが、外食産業を見る上で重視している視点とは。
2019年には「タピオカ」がありましたよね。「タピオカティー」のブームって、みんな「タピオカティー」ばかり注目してるじゃないですか。
だから、みなさんに「次に来るドリンク業態って何ですか?」と聞かれるんです。要するに「タピオカティーに来る次の商材は?」という話になるわけです。
バナナジュースとか台湾ティーとかチーズティーとかいろいろ出てくるんですよ。でも、私はタピオカティースタンドで見るべきは「収益構造」だと思うんですね。
—— 収益構造ですか。
タピオカティーは、べらぼうに収益構造がいいんですよ。まずは家賃の絶対額が低い。狭いスペースでも営業できるので、店舗の坪数が少なくて済む。
それから家賃が低いということは、人をたくさん置かないということなので、レイバーコスト(人件費)も低い。
そしてもう1つ。みんなが意外と見落としているのは、水道光熱費が安いこと。タピオカティーを作るのに、そこまで調理を必要としないですよね。洗い物も少ない。
2019年は「タピオカ」ブームが到来。海外発の専門店が相次いで出店した。
撮影:Business Insider Japan
外食店ではコストのうち水道光熱費が5〜8%を占めます。でもタピオカティードリンク業態って1〜2%です。
水道光熱費が安く、人件費を低く抑えられ、家賃の絶対額も安い。そういう意味では、本当にべらぼうに営業利益率が高いんですよ。
だから私は、外食で見るべきは「タピオカティーが流行っている」「じゃあ次の商材は」ではなくて、収益構造だと思うんです。
なので、次のブームを考えるのであれば「同じ収益構造で組み立てられる別の商材は何か」という視点で探したほうがいいと思います。
収益構造をしっかりと見る。基本ですが、これが外食産業のこれからを考える上で大切な視点だと思っています。
(取材・構成・文、吉川慧)
『月刊食堂』:柴田書店が刊行する日本最古の外食経営誌。1961年(昭和36年)創刊。公称発行部数は8万2000部。メイン読者層は外食業の店長以上のマネジメント層。外食業界の最新トレンドや注目点の経営手法、人気メニューなどを豊富なビジュアルとともに紹介している。徹底的な分析から飲食業界のバイブル的な存在として信頼を集める。