人材が足りていない今がチャンス。女性のWell-beingが、企業の成長につながるワケ

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世界経済フォーラム(WEF)が2019年末に発表した「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は153か国中121位と大きく順位を下げた。なぜ日本では女性活躍が進まないのか。MASHING UP SUMMIT 2020 の収録(2020年2月28日実施)では、社会や経済の最前線で活躍する女性たちが熱く語り合った。

なぜ日本は何十年たっても変わらないのか

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登壇したのは、プロノバの代表取締役社長で、多くの会社で社外取締役も務める岡島悦子さん、「ほぼ日」のCFOを退任後「ジョブレス」を自称し活動する(※注:2020年2月28日時点。3月1日よりエール株式会社の取締役に就任)篠田真貴子さん、ビジネスインサイダージャパン統括編集長浜田敬子さん、OECD(経済協力開発機構) 東京センター所長の村上由美子さん。

4人とも、男女雇用機会均等法の直後から社会人として働き始めた、いわゆる「均等法世代」だ。長子が高校生だという篠田さんは、日本の実情を肌で感じているという。

「日系・外資系のさまざまな企業で働きながら、子ども2人を育ててきました。私自身、社会人として、母や妻として期待されることにいろいろな葛藤を抱えてきましたが、今の20代~30代の女性に話を聞くと、私が若いころとあまり変わっていない。そこに、そもそもの問題が表れていますよね」(篠田さん)

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約1年間の「ジョブレス」を経て、3月1日よりエール株式会社の取締役に就任した篠田真貴子さん。

モデレーターの浜田さんは、新型コロナウイルスの影響で小中学校が休校になったことを受け、「女性だけが子どもの対応を心配している。男性がその議論に入ってこないことを疑問に感じました」と、今の状況から浮かび上がる問題を指摘した。

OECD東京センターの村上さんは長年海外で過ごした経験からこう語る。

「2013年に25年ぶりに日本に帰ってくると、篠田さんがおっしゃるとおり、女性の環境はあまり変わっていなかった。ジェンダー・ギャップ指数が121位なのは、日本が悪くなっているというよりも、ほかの国よりスピードが遅いということです」

「あなたならできるから、やってみよう」と働きかけて

「なぜ、こんなに遅いのでしょうか」という浜田さんの問いに、岡島さんは、さまざまな企業の社外取締役をするうえで感じていることを述べた。

「経営者は皆さんほぼ同じことを言います。『うちの女性社員は管理職になりたがらない』『ロールモデルがいないから無理』という2つ。『やりたいか』と言われると、保険をかけたくなってしまう女性が多いんですね。だから『あなたならできるから、やってみようよ』という働きかけが大切」

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プロノバの代表取締役社長で、多数の会社で社外取締役も務める岡島悦子さん。

また、企業が女性を登用するメリットとして、岡島さんと村上さんはこう説明する。

意思決定の場に女性が加わると、非連続な成長につながるんです。企業が大きくジャンプして変化できる可能性があります」(岡島さん)

意思決定のプロセスに多様な価値観やアイデアが入ることが、企業価値を高めます。これはさまざまな調査や分析で証明されており、シリコンバレーなどイノベーションが進んでいるところでは常識。日本では『取締役に女性を入れると業績が上がる』という、多様性と業績のリンクが浸透していないんですね」(村上さん)

あなたのパートナーを“ファースト・ペンギン”にしよう

改革のできる会社とできない会社は何が違うのだろうか。

危機感があるのは大事な要素です。わたしが社外取締役を務める丸井グループでは、『小売りが売れない』という危機に直面して、ビジネスモデルを変える必要性に迫られました。異なる考えの人を入れるしかないと、意思決定に必ず女性を入れるという形作りからはじめたのです。会議に女性がいないと、社長が帰ってしまう。それを10年くらい続けて、文化が大きく変わってきました」(岡島さん)

一方で、そこまでの改革ができない企業が大多数だ。

「日本経済はまだ製造業に支えられています。イノベーションが必要な知識型のビジネスにまだ勢いがない。今までのビジネスで十分、という考え方がなかなか抜けないのでしょう」(村上さん)

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OECD(経済協力開発機構) 東京センター所長の村上由美子さん。

一方、家庭でのアプローチについて、篠田さんはこう指摘する。

出発点であり、最後でもある壁は“家庭”だと思います。会社が女性活用に積極的でも、夫が“ウルトラ保守的”で家事を全くしないような人だと難しい。実体験として、会社より家庭の方が対話で解決しづらいと思っています」(篠田さん)

パートナーが三か月の育休を取ったという浜田さんは、子育て中の女性の後輩によく言っていることがある。

「会社に交渉するばかりでなく、あなた自身が家族にも『週2回でもいいからお迎えに行ってほしい』などと言ってみてほしい。夫はその会社で、初めて定時で帰る“ファースト・ペンギン”になるかもしれない。夫を変えることで、会社が、社会が変わっていく可能性があるんですよね」

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ビジネスインサイダージャパン統括編集長の浜田敬子さん。

「人材が足りない」今が変革のチャンス

変化が遅いと言われるこの日本にも、「よい兆し」はあるのだろうか。

最も期待しているのは、人が足りていないということです。企業がなかなか人を獲得できないことは大きなチャンス。例えば、入社式で着るものがカジュアルになるといったことから、企業の危機感が表れているのではないでしょうか。社会の成長が遅い分、早めにスタートしているところはいずれ勝つと思います」(村上さん)

岡島さんが指摘するのは、日本の経営者の資質だ。

「日本の経営者は、自分を会社の一部のように考えている人が多く、『自分さえよければいい』と思っている人はほとんどいません。そこで私が取り組んできたのは、オーナー系の企業に働きかけること。特に、お嬢さんがいる経営者は(女性活躍を)自分ごととしてとらえてくれるので、そこから成功事例が作れます」(岡島さん)

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たくさんの有意義な意見が出た今回のセッション。最後はそれぞれの考えるWell-beingについて、4人が述べて締めくくりとなった。

「働き方を考えるときに、職場の話だけになってしまっては少し足りないと思います。仕事は楽しいけれど、家庭も大事。さまざまな人生があり、さまざまな幸せの形がある。思い込みを外して『本当の私はどう思っているのだろう』と、考えられるといいですね」(篠田さん)

「幸福度調査で見ると、『幸せですか?』という質問に対する主観的な調査では、日本は数値が低くなります。ところが、客観的なデータである健康状態は良好なんです。そのギャップはあるものの、主観的に『幸せである』と答える人の条件がわかってきていて、それは『選択肢がある』ということ。人生に起こる仕事や結婚、子育てやそのタイミングについて、選択ができるほうが主観的な幸福度は上がる。日本の場合、社会的にも文化的にもかなり制約があるのが実情なんです」(村上さん)

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「まずは、自分にとって一体どんな状態でいることを幸せなのか、を知ることが大事だと思います。『家庭が大事』で終わるのではなく、もっと粒度を高めて『家族と毎日話がしたい』なのか『しっかり稼いでもらいたい』なのか……。そこから、自分の呪縛、思い込みに気が付けるといいでしょうね。自分の幸せを理解して、バイアスを外せれば、いろいろな選択肢が生まれるはず」(岡島さん)

「変化が遅い日本でも、危機感が高まってくればよい兆しはあります。私たちができることは、自分の無意識のバイアスに気づいて、本当は目の前にある自由や選択肢を見つめることではないでしょうか」(浜田さん)

社会の動きに敏感でありつつ、自分で自分を縛っている思いに気づく。その両輪がありはじめて、Well-beingな働き方が実現していくのだろう。

MASHING UP SUMMIT 2020

TALK SESSION

The Future of Women’s Well-being 働く女性を取り巻く課題、未来のかたち

撮影/中山実華、文/栃尾江美


MASHING UPより転載(2020年04月10日公開

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