東宝が過去最高益。映画配給「好決算」の背後に新型ウイルスの影…「上映作品が足りない」

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東宝のグループ会社が運営する映画館「TOHOシネマズ」。

Osugi / Shutterstock.com

映画配給大手の東宝、松竹の2社は4月14日、2020年2月期の決算を公表した。東宝は主力の映画事業が好調、演劇事業や不動産事業も売上高・最終利益ともに増収増益、過去最高を更新した。松竹は主力の映画事業が好調だった一方、演劇事業は2月に新型コロナウイルス影響の休演があったこともあり、全体では増収減益となった。

「好調」といえる決算の一方、次の決算が厳しいものになるだろうことは確実視されている。背後に迫る新型コロナウイルスの暗い影に、映画業界はどう向き合うのか。

東宝は『天気の子』の大ヒットなどで最高益

新宿・歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿

新宿・歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿。

撮影:伊藤有

映画業界は2019年、好況に沸いた。公開された邦画と洋画の興行収入は過去最高の2611億8000万円(前年比17.4%増)、入場者数は1億9491万人(同15.2%増)と2億人に迫った(日本映画製作者連盟より)。『天気の子』」だけでなく、『アナと雪の女王2』『アラジン』『トイ・ストーリー4』が興行収入で100億円を超え、東宝、松竹の映画関連の業績を後押しした。

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東宝の2020年2月期決算は過去最高を更新した。

東宝が公開した決算資料より

東宝は映画事業において、同社配給の作品『天気の子』が興行収入140億円の大ヒット、他にも人気アニメの劇場版『名探偵コナン 紺青の拳』や『ドラえもん のび太の月面探査記』、実写作品『キングダム』や『記憶にございません!』と軒並み好調で、傘下の東宝東和が配給した『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』もヒットした。演劇事業や不動産事業も順調に推移し、営業収入2627億6600万円(前期比6.7%増)、営業利益528億5700万円(同17.5%増)、最終利益366億900万円(同21.2%増)のいずれも過去最高を更新した。

松竹:演劇事業に新型コロナウイルスの影響

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松竹の2020年2月期の決算は、増収減益だった。

松竹が公開した決算資料より

一方、松竹は売上高の半分を占める映像関連事業において、国内の映画興行が好調だった一方、演劇事業が新型コロナウイルスの影響で歌舞伎座や新橋演舞場、大阪松竹座などの2月公演が中止になったこともあり、4月13日に業績修正を発表した。

最終的に、演劇事業の営業利益などが前年比で低下し、2020年2月期は、売上高974億7900万円(前期比7.3%増)、営業利益46億400万円(同0.9%増)だった。ただ、最終利益こそ6.8%減の24億2000万円だが、比較的好調と言える。

背後に迫る新型ウイルスの影響

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4月7日、都内の映画館の上映前の様子。人気作品の上映だったが、約400席のうち観客がいたのは20席ほどだった。

撮影:大塚淳史

しかし、両社とも2021年2月期(2020年3月〜2021年2月)は一転して、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり先行き不透明になっている。TOHOシネマズやMOVIXといった規模の大きい複合映画館(シネマコンプレックス)が、都市部を中心に、3月は週末の臨時休業や短縮営業を始めた。TOHOシネマズが公表した3月の月次速報は、興行収入が前年同月比58.8%減の26億3748万円と大きく影響を受けた(松竹は月次速報を公表していない)。

4月も緊急事態宣言を受けて、7都府県の映画館は臨時休館になっている。7都府県以外の映画館でも、短縮営業に加え、映画館への来場を控える消費者心理なども影響し、興行収入に大きく影響を与えている。

こういった状況もあり、東宝と松竹は2021年2月期の業績予想を、現時点での算定は「困難」と表現した。

「2021年2⽉の通期業績⾒通しにつきましては、新型コロナウイルス感染症により影響を現時点で合理的に算定することが困難であることから、開⽰しておりません。連結業績予想の開⽰が可能になった段階で、速やかに公表いたします」(東宝の担当者)


「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い一部地域の映画館の休館、演劇公演の中止及び延期等の影響を受けており、現時点では終息時期の見通しが立たない状況であるため、合理的に見積もることは困難であることから未定としております。今後、業績予想の開示が可能となった時点で速やかに公表いたします」(松竹の決算短信より)

客足低下に加え、映画館を襲う「上映作品不足」

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4月7日、都内の映画館では1席空けなどで対応していた。

撮影:大塚淳史

新型コロナウイルスは、上映する作品にも影響を与えている。

3月、4月に公開を予定していた『映画ドラえもん のび太の新恐竜』『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』『2分の1の魔法』『ドクター・ドリトル』『 ソニック・ザ・ムービー』『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』『ポップスター』『エジソンズ・ゲーム』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』などといった邦画・洋画の新作の公開が次々と延期となった。その結果、3月末から映画館の上映作品不足に陥った。

TOHOシネマズでは、急遽、過去の名作やヒット作品を上映を増やして対応した。過去の名作を、シーズンを通して入れ替わり上映し続ける企画「午前十時の映画祭」(主催 :公益財団法人 川喜多記念映画文化財団、一般社団法人 映画演劇文化協会)のシリーズ10が、2019年4月5日~2020年3月26日で、TOHOシネマズでも上映されていた。本来、シリーズ10で終わる企画だったが、急遽、3月27日以降も「午前十時の映画祭10+」としての継続することが発表され、TOHOシネマズも上映作品不足に対応できた。

都内のあるTOHOシネマズシネマズでは、『ジョーカー』『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』『ローマの休日』『E.T.』『ゴッドファーザー』『JAWS/ジョーズ』『ウエスト・サイド物語』が同時に上映され、映画ファンの間で話題になっていた。

TOHOシネマズの担当者は、次のように現状を吐露する。

「コロナの影響は大きいです。営業が不安定なので、全国のTOHOシネマズでは(過去の名作を)上映しています。新作の公開がハリウッド作品も延びていたり、来年公開予定のハリウッド作品も制作がストップしてしまっている状況。5月7日にもし再開できれば、営業はしますが、作品はそろわないので、今上映している作品の継続上映や、旧作を上映しないと編成が埋まらない状況」(TOHOシネマズの担当者)

松竹のグループ会社が運営するMOVIXでも、上映作品不足の対応に苦慮した。

その時に上映していた作品の上映期間を延長して対応しました。(7都府県の)臨時休館を空けてからの編成は、全く決めていない。5月になって映画館を空けて良いのかとかどうか見えてきたところで、映画配給会社各社が作品をどうするかという話し合いが行われるとは思いますが、こちらからは何とも言えないですね」(松竹の担当者)

また、通期決算の発表が5月に控える東映は、グループ会社が映画館「T・ジョイ」を全国展開するが、同様に映画館の編成が難しいという。

「今の状況がいつまで続くのかわからないので、上映が決められない状況。(仮に)緊急事態宣言が今日明けた(としても)、明日から公開とはいかない。特に出版社関連のアニメ作品だと、出版社さんともお話する必要もあるでしょう」(東映の担当者)

映画業界が新型コロナウイルス問題にどう対応していくのか、頭を悩ます状況が続く。

(文・大塚淳史)

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