東京都からの休業要請直後の月曜朝、JR品川駅。マスク以外はいつも通りの風景。しかし、コロナショックは確実に経済を蝕んでいる。
撮影:竹井俊晴
コロナショックの影響は急速に拡大している。
4月7日に安倍首相が「緊急事態宣言」を発令すると、東京都や神奈川県など7都府県が「緊急事態措置」を発表。インターネットカフェやカラオケ、劇場や映画館などに休業を要請したほか、居酒屋を含む飲食店に営業時間の短縮や酒類提供の制限を求めた。メディアやSNS上には、中小事業者からの苦痛や不安の声があふれている。
日銀が9日に公表した地域経済報告(さくらリポート)では、2008年のリーマン・ショック以来初めて、すべての地域の景気見通しが「弱い動き」「下押し圧力が強い」に引き下げられた。
足もとでも、資金繰りに苦しむ中小企業が金融機関や自治体の窓口に殺到している現状がある。
「緊急融資に関する中小企業から政府系金融機関への相談件数が1カ月で40倍に急増した」(時事通信、4月2日)
「資金繰りに苦しむ中小企業が、金融機関からの融資を受けるために、国の信用保証の認定を受けようと自治体の窓口に殺到している。中小企業庁によると、東京都の23区内でこうした状況がみられ、港区では2カ月近く予約が埋まっている」(東京新聞、4月4日)
金融庁が金融機関に対しヒアリングを実施した結果、中小企業からの相談件数は3月半ば時点で20万件を超え、その大半が資金繰りの相談であることも明らかになっている。
コロナ倒産だけでなく、苦境に自主廃業も多く
そうした状況が続くなか、倒産件数が目に見える形で増えてきている。
東京商工リサーチの調査によると、新型コロナ関連の経営破たんは4月15日午後5時の時点で61件(倒産34件、準備中27件)にのぼり、前日14日から1日で5件の経営破たんが報告された。同数値は2月は2件、3月は23件だったので、4月は半月で36件となり、1日あたり2〜3件増えている計算だ。
コロナ関連と認定される経営破たん以外にも、筆者の周辺からは「ここまでお客さんが来ないなら、継いでくれる人材もいないし、もう止めよう」と自主廃業を選ぶ経営者もいるとの声が聞こえてくる。だから、実際は目に見えるよりずっと多くの倒産や廃業があると考えていいだろう。
「なぜいますぐ倒産や廃業の道を選ぶ必要があるのか」「政府系金融機関が提供する無利子の貸し出しを使って耐える方法はないのか」と考える方もいるかもしれない。
しかし、じつは現在利用できる融資制度や給付金は、いずれも問題を抱えている。そのために、融資が間に合わず倒産する、あるいは融資をあきらめて廃業せざるを得ない企業が出てきているのだ。
相談窓口が混んでいて融資に時間がかかる
新型コロナの影響で資金繰りに苦しむ中小零細企業が融資を求めて金融機関に殺到している(写真はイメージです)。
Shutterstock.com
まず、新型コロナウイルスの影響で資金繰りに苦しむ中小企業が利用できる融資としては、以下のようなものが考えられる。
- 金融機関からの純粋なプロパー融資(信用保証協会を挟まない直接融資)
- 信用保証協会の支援制度「セーフティネット保証4号」「同5号」
- 日本政策金融公庫「新型コロナウイルス感染症特別貸付」
- 自治体の制度融資
1. について、平常時から金融機関との付き合いがある場合、担当者経由で2週間〜1カ月程度で融資が実行されるため、比較的に短時間で借り入れを行うことができる。
しかし、すでに融資枠の上限近くまで借りていて、別の金融機関から新たに借り入れを行いたい場合は別だ。融資前の相談・面談の窓口がどこも混雑していて、予約をとるのが難しくなってきている。その分、融資までには時間がかかる。
それでも急いで何とかしたい場合は、混雑しているメガバンクや大手地銀ではなく、税理士と相談した上で、地元の信用金庫など地域密着型の金融機関に足を運ぶ方法がある。
2. の信用保証協会の「セーフティネット保証」については、業歴3カ月以上あれば認定を受けられるように認定基準が緩和され、既存の取引銀行がない事業者や個人事業主でも使える。
セーフティネット保証制度と認定申請について説明する渋谷区のウェブサイト。面談予約がいっぱいで、認定書取得には時間がかかる状況だ。
Screenshot of Sibuya City website
しかし、このセーフティネット保証を活用する際に困った問題が発生している。
信用保証協会にセーフティネット保証(の審査)を申し込むには、前もって市区町村に認定申請を行い、売り上げが一定程度減ったことを示す認定書を発行してもらう必要がある。
ところが、冒頭で引用した東京新聞の記事にもあるように、市区町村に認定してもらうための面談が2〜3週間ほど予約でいっぱいになっているのだ。書類さえ揃っていれば面談の翌日には認定書を発行してもらえるのだが、肝心の面談までなかなかたどり着けない。
2月末の段階で融資実行までに2カ月ほど時間がかかると言われていたが、いまはもっと混んでいて、2カ月半ほどかかる可能性がある。
続いて3. の新型コロナウイルス感染症特別貸付は、「収入が大幅に減少した企業」が対象とされ、具体的には、最近1カ月の売上高が前年または前々年の同期に比べて5%以上減少している必要がある。
3週間から1カ月ほどで融資が実行されると言われ、セーフティネット保証や制度融資よりはスピード感があるものの、申し込みに必要な面談は、やはり他の融資制度と同じように窓口が混雑してきており、順番待ちになっているようだ。
4. 自治体の制度融資だが、こちらはもともと融資実行までに時間がかかる。信用保証協会の審査にたどり着くまでに事業計画書や資金繰り表などをつくり込む必要がある上、融資を受けるための面談がおよそ2週間おきに3回ほどあるのが一般的だ。
本当に苦しい企業には貸してくれない
緊急事態宣言を発令する安倍首相と、ニュースを眺める東京・新宿の通行者。「切れ目のない支援措置」は本当に実現するのか。
撮影:竹井俊晴
このように、コロナショックの深刻化によってそもそも相談窓口が混んでいることに加え、信用保証協会のセーフティネット保証や自治体の制度融資の抱える構造的な課題のために、資金繰りに苦しむ中小企業がすぐに融資を受けられない現実がある。
だからといって、金融機関や信用保証協会、自治体を責めることはできない面もある。税金で成り立っている市区町村が急速に人手を増やすことは難しいし、非常時ということで電話による相談も受けつけるなど、自治体側も可能な限りの方策はとっている。筆者の知る23区内の担当者は、1日に100件以上の電話相談があると明かしてくれた。
そうした現状を踏まえた上で、筆者が最も問題だと思うことを指摘しておきたい。それが、既存の借り入れの多い企業への支援だ。
中小企業の経営者たちからは、こんな声が聞こえてくる。
「コロナショックのような未曾有の危機に瀕しているにもかかわらず、これまでに大きな借り入れを行っている企業には(そうした企業こそがいままさに借りたい企業であるはずなのに)リスクが高いからという理由で貸してくれない。結局、骨抜きの制度ではないか」
日本経済新聞(3月27日)によれば、3月17日までに融資・保証への申し込みが3万7000件あり、翌週の24日には8万3000件まで増えた(日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、信用保証協会の合算)。
ところが、コロナ対応の特別貸付であるとうたっているにもかかわらず、融資が実行された件数は、17日までに1万5000件、24日までに4万5000件と、半分程度にとどまっている。
政府は「切れ目のない支援措置」などと声高に叫ぶが、その対象となるのは、これまでの借り入れが少ない順調な企業、あるいは借り入れが多くても比較的利幅が大きく倒産リスクの少ない企業ばかりという、暗黙の前提があるのだ。
筆者が付き合いのある経営者数人にヒアリングしてみたところ、日本政策金融公庫の担当者らから、こんなことを言われたという。
「あなたの会社は過去に返済のリスケをしているため、正常貸出先ではない。この融資は正常貸出先のためのものであるから、コロナショックがあろうと貸せない」
「そもそも満額貸しており、これ以上貸せない」
人件費の高騰や消費増税による消費の冷え込みなどに耐え、ギリギリのところで経営を続けてきた個人事業主や中小零細企業、あるいは長年の苦労に耐えてようやく業績が回復し始めたばかりの企業が、今回のコロナショックで問答無用、一律に「貸せない企業」としてくくられてしまった。結局、本当に困った人に貸すための融資制度ではないわけだ。
融資制度のそもそもの立てつけを考え直さなければ、今後全国各地でもっと多くの経営破たんが起きることになるだろう。倒産件数や失業者数はリーマン・ショックを上回るかもしれない。政府および政府系金融機関には、迅速かつ大規模な対応をぜひお願いしたい。
森泰一郎(もり・たいいちろう):株式会社森経営コンサルティング代表取締役。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。戦略コンサルティングファームを経て、ITベンチャー企業にて経営企画マネージャーを担当。M&Aや経営企画、事業企画、業務改善に従事。IT企業にて取締役CSOとして経営企画と戦略人事、新規事業開発を担当。現在は大手上場企業から中堅・中小ベンチャー企業まで、成長戦略、組織再編、M&A、コスト削減のコンサルティングを行う。