「このままでは限界」長引く休校で子どもに負担、葛藤する先生たち

shutterstock_1672550962

長引く休校でオンライン授業の需要が高まっている(写真はイメージです)。

Shutterstock

新型コロナウイルスの感染拡大を受けたすでに緊急事態宣言下にある7都道府県では、義務教育では95%以上の学校が休校し、新学期はほとんどの学校で家庭学習になっている。緊急事態宣言は全国に拡大されることになり、休校の流れはさらに広がりそうだ。

日本のICT教育の遅れや、子どもたちが社会との接点を失っている現状について取材したBusiness Insider Japanの記事には、「学校の業務もパンクしている」「4月も休校になって教員も不安」と、教育の現場からも反響があった。

突然の休校、その延長、いつ再開できるのかは不透明——。異例の事態に戸惑う教育現場で今、何が起きているのか。

タブレット、全校で1クラス分のみ

shutterstock_550302523

オンライン授業に対応できない学校も少なくない。

Shutterstock

「オンライン授業は正直、非現実的な解決策にしか思えません」

そう話すのは、関東地方の公立小学校教諭の男性(30代)だ。長引く休校措置にしびれを切らした全国の保護者からは、ICT化を求める声も上がっている。

文部科学省はひとり一台のICT機器の配布を前倒しする予定だが、時期は未定。現実との乖離(かいり)を感じるという。

「タブレットは数百人いる全校で1クラス分程度。児童の数には全く足りません。学校内でICTに詳しい職員もほとんどおらず、端末不足とICTの知識不足の2つはどうしてもネックになると思います」(30代男性教諭)

この男性の勤務先では、民間のサービスを使ったICT教育コンテンツを保護者に紹介。メールとパスワードも配布したものの、使っているのはクラスの2割程度だという。

休校期間中の学習「学校任せ」

ST_bi_705

7都府県に出された緊急事態宣言により、ほどんどの学校が休校している。

撮影:竹井俊晴

休校期間中も、先生たちが「休み」なわけでは決してない。3月の休校期間、この男性教諭の学校でも、先生たちは学校に来ていたという。親が働きに出ているなど、希望する家庭の子どもたちを預かる一方で、片付けや記録作成など年度末の作業を行った。

4月は新年度の新しい学習指導要領に合わせた教材研究をしているという。

「学校現場は刻々と変わる通達に振り回され、かなり困惑しました。教育委員会も学校が再開された時のことばかりになっていて、休校期間中の学習方法は学校任せ。残っている学習と、新学年の勉強とがどんどんずれて行って不安です」(30代男性教諭)

教育委員会自体も、めまぐるしく変わる状況を把握するのに手一杯で、異例の事態に対応できているとはとても言えない状況だ。

家庭訪問で見えた児童の実態

suzu

すずすけさんのブログ「パパ教員の戯れ言日記」を撮影。

撮影:横山耕太郎

埼玉県内の公立小学校に勤める男性教諭(30代)が3月、児童の家庭訪問をした際のブログが注目された。

「一人でお留守番している子の目は大抵死んでる。でも、私の顔を見ると何人かはパッと明るくなるの、かわいいですよね。

(タブレットなど)一人一台の環境があれば、朝に『みんなでZoomミーティング集合ね』で終わるんですけどねー!!!!」

男性教諭は「すずすけ」というハンドルネームで、ICT導入が進まない教育現場の現状をブログやTwitterにつづっている。

Business Insider Japanの取材に応じたすずすけさんは、長期化する休校で子どもの負担が大きくなっていると話す。

「子どもたちは家でYouTubeを見るなど相当ヒマにしています。休みに入る前に50枚ほどのプリントを作りましたが、家庭訪問ではもっと欲しいという声もありました。

5月初旬の登校は正直難しいと感じていますが、このまま課題を与えていくのはもう限界。オンラインを含め、新しい指導の形を考えないといけないと感じています

Zoomで朝の会

shutterstock_758899732

shutterstock

オンラインでの授業も解決策の一つだが、環境整備は遅れている。すずすけさんによると、市の教育委員会から支給された教員用のパソコンの性能は低く、オンライン授業を行うのに十分な回線もない

ただ、すずすけさんが実施を提案していたオンライン会議システムZoomを使用した朝の会は、校長の理解もあって、4月中旬になってやっと実現できたという。

「アンケートを取って、パソコンやオンライン環境が整っている家庭が約85%だった。授業は難しいが、朝の会だけならやってみようということになりました。

子どもたちの顔が並んで見られてうれしかったし、子どもたちも久々にみんなと会えて喜んでいました。最初は苦手意識があった先生たちも、実際にやってみてその良さを分かってくれた」(すずすけさん)

先生も自宅からオンライン授業

IMG_2789

オンライン授業を行う聖望学園の教諭。現在は先生も出勤せずに授業を行っている。

提供:聖望学園中学校高等学校

一方、私立の学校ではオンライン教育に切り替えが進んでいる。

埼玉県飯能市の聖望学園中学校高等学校では、4月13日からiPadを使ったオンライン授業を実施している。同校ではもともと、ひとり一台iPadを貸与。オンライン授業では、45分授業を1日6~7コマ行っており、先生も出勤せずに自宅から授業しているという。

同校でICTの導入を担当している永澤勇気教諭(42)は、初めてのオンライン授業についてこう話す。

画面を通してだとうまく伝えられない部分もあるけれども、『案外できるな』というのがやってみての感想です。生徒が集中できているのか把握するのが難しいですが、一人ひとりがiPadに記入した内容を確認したり、クラスで共有したりもできるので授業の工夫の余地がある」

いじめを予防するサービスを運用するマモル代表の隈有子氏は、4月初旬、聖望学園の教諭を対象にしたいじめの早期発見についての研修をZoomを使って実施した。

隈氏は「研修では参加した先生をどんどん指名して、発言してもらうようにした。聞いている側が飽きないような工夫が必要」と話す。こうしたZoomでの研修などを通じ、教員側もオンライン授業への苦手意識を減らしていったという。

聖望学園でも始まったばかりのオンライン授業だが、生徒の反応は上々だったという。

「感想を聞いてみると、オンラインだと質問がしやすいことなどから、『オンラインの方ががいい』と答えた生徒もいた。これまで導入が進まなかったICTだが、コロナの影響で一気に加速できた」(永澤教諭)

「50年続けてきたことに疑問もっていい」

_L6C6771

撮影:今村拓馬

長引く休校期間にどう学習してもらうのか、若手を中心に現場の教員は試行錯誤を重ねており、新型コロナが教育を見直すきっかけになっているのは事実だ。

前出の、関東地方の公立校の男性教諭はこう語る。

「教育者は基本的に真面目な人が多く、子どものためなら時間や労力を惜しまず、取り組んでいます。

しかし50年間続けて来たことに疑問をもったり、効率よくやったりすれば楽になるという考えがもっとあればと思います

新型コロナの前から、学校現場には「変わらなければ」「もっとコスト意識を持ってやらないと疲弊する」という危機意識を持った先生たちがいた。公立校であっても、熊本市のように、小中学校でオンライン授業を開始した自治体もある。タブレットなど端末を持たない家庭には、市が貸し出しをするという。

教育現場に訪れたコロナの危機が、公立私立を問わず、変化の起爆剤になる要素は十分にあるはずだ。

(文・横山耕太郎、滝川麻衣子)

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み