ニューヨークの中心部。企業はコロナショック後のオフィスの広さ、使い方を再検討しようとしている。
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- コロナショックによる景気後退が予測されるなか、数千万ドルの固定費を生む賃貸オフィス契約を再検討する動きが企業の間で広がり、オフィス市場の先行きに暗い影を落としている。
- 共同作業を促し効率性を高めるためにオフィスのレイアウトをオープンスペースに変更するといったトレンドがあったが、ポストコロナ時代にもそれが通用するのか、企業側は様子を見ているとみられる。
- ニューヨーク・マンハッタン地区のオフィス市場は一種のバブル状態だったが、コロナショックで冷え込みが始まり、新たな契約を見合わせるテナントが増えている。
マンハッタンの大手テナントがオフィススペース確保計画の見直しを始めている。新型コロナウイルスの世界的流行により、世界経済の先行きに暗雲が立ち込め、オフィスのあり方が今後どう変わっていくのか不透明になってきているからだ。
米資産運用会社レイモンド・ジェームズ・ファイナンシャルは、3カ所に分散していたオフィスをパークアベニュー320番地(16万平方フィート)にまとめる計画をペンディングにすることを決めたという。同社は取材に応じていないが、契約を直接知る関係者に確認した。
食料品宅配サービスのフレッシュリー(Freshly)も、パークアベニュー2番地(10万平方フィート)のオフィスへの移転計画をキャンセルした模様だ。
両社の契約に詳しい関係者によれば、オフィス移転の全面中止ということではなく、調査再検討の上であらためて契約する可能性もあるという。
米法律事務所グリーンバーグ・トラウリグの副代表で、不動産投資信託プラクティス(法務)部門の共同代表を兼務するロバート・アイヴァンホーはこう言う。
「正式契約に至っていない賃貸案件はほぼすべて、この先どんな状況になるか見えるまで、キャンセルあるいは保留状態です」
アイヴァンホーは最近、マンハッタンからロングアイランドシティのオフィス(30万平方フィート)への移転を計画しているテナントの契約に関与したが、それもコロナショックでご破産になったという。
「正確に言えば保留なのですが、復活の可能性があるのか……何とも言えませんね」
コロナ後に職場のあり方は変化するとの見方
ニューヨーク大学ランゴン医療センターのスタッフたち。新型コロナウイルスの罹患者を救うため献身的な活動を続けているが、感染爆発の威力は大きく、死者数はニューヨーク市内だけですでに1万人を超えている。
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このコロナショックのさなか、あるいは不透明さを増すコロナ後に、ひとたび決定すれば(契約期間内で)数千万ドルの支払いが発生するような大きな契約を結ぶことに、ニューヨークに拠点を置くあらゆる企業が不安を感じているということだ。
全米の新型コロナによる死者数は4月17日午前5時(中央ヨーロッパ時間)時点で2万5000人を超え、失業保険の申請件数は2200万件超となっている。エコノミストたちの多くはこのコロナショックをきっかけに景気後退が始まると指摘。職場の安全性についても、企業には不安が広がっている。もはやオフィスの確保など後回しだと誰もが感じているのが現実だ。
問題を複雑にしているのは、コロナショックでオフィスのあり方がどんなふうに変わるのかがわからないことだ。
近年、どの企業も固定費をできるだけ抑えようと、少ない面積により多くの従業員を詰め込み、同時に協業を促すためオープンレイアウトを採用するトレンドがあった。
しかし、新型コロナウイルスの影響で今後もソーシャルディスタンス(社会的距離)をとるのが普通になり、感染を防ぐためにスペースに余裕をもたせ、衝立(ついたて)もあったほうがいいとなれば、いったいどれくらいのサイズのオフィスが必要になるかわからない。
不動産総合サービスRXRリアルティのスコット・レクラー会長兼最高経営責任者(CEO)は、こう説明する。
「企業はいまオフィススペースの『脱』過密を考えています。これまでの密度が極端に高すぎました。ポストコロナの世界では、健康と幸福のために考え方と行動を変えなくてはならない、そんな認識が共有されているのです」
企業はこの変化に対応するため、一部の従業員にはリモートワークを継続させたり、あるいはオフィスの密度を下げるため出勤と在宅をシフト制にしたり、選択肢を増やそうとするかもしれない。もしそうした方策が広く受け入れられれば、広い面積は必要なくなり、オフィス需要も減ることになるだろう。
フェイスブックが入居を検討しているジェームズ・ファーレー郵便局。歴史的建築物で、隣接するペンシルバニア駅と一体的に再開発。オフィスフロアも整備される。
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もちろん、この逆風ですべてのオフィス賃貸契約が吹き飛んでしまったわけではなく、例えば、ペンシルベニア駅の西隣りに建つジェームズ・ファーレー郵便局ビルに入居(約70万平方フィート)を検討しているフェイスブックは、詳しい関係者によると、予定通りの契約にたどり着きそうだ。
とはいえ、コロナショックの影響でオフィス市場に深刻なダメージが出始めていることは間違いない。
事業用不動産サービス会社CBREの最新データによれば、2020年1〜3月の成約済み賃貸オフィス面積は約610万平方フィート。これは2019年10〜12月に比べて35%減、2019年1〜3月と比べても12%減という厳しい数字だ。
(翻訳・編集:川村力)