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「家族」でなければ情報開示できない?新型コロナで顕在化する同性カップルの不安

手をつなぐ女性二人

LGBTQの人たちは今、何に怯え、何を必要としているのだろうか(写真はイメージです)。

Shutterstock/oneinchpunch

新型コロナウイルス感染拡大の収束が見通せない中、世界中での感染拡大という不安に加え、LGBTQの人たちはある強い危機感を持っている。当事者は今、何に怯え、何を必要としているのか。その声を聞いた。

プライバシーはどこまで守られる?

同性パートナーと暮らす会社員・Kさん(40代後半、女性)は、20年以上の付き合いがある同性パートナーの存在や同居の事実を、家族にも職場にも明かしていない。

Kさんに話を聞いたのは、東京都はじめ7都市に政府の緊急事態宣言が出た翌日。業務がリモートワークに切り替わる前、Kさんは職場での会話に強いストレスを感じていた。

「リモートワークとか時短勤務といった働き方の検討がされるときに、必然的に社員の同居家族の話題が増えるんです。『家族は大丈夫?』みたいな話になっても、自分は単身者として話をするしかないんですね。20年以上付き合っているパートナーを『いないこと』にして振る舞わざるを得ないストレスを、普段以上に感じました」

女性の後ろ姿

パートナーが新型コロナウイルスに感染して自分が濃厚接触者になったとき、プライバシーがどこまで守られるのか懸念する同性カップルも(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

「気軽な独り身ですから」

職場で家族の話題が出るたびに、Kさんはいつもこの言葉でやり過ごしてきた。

また、コロナに限らず、家族持ちの人は何かと職場で優先されやすい。例えば家族が病気にかかったとき、会社に相談すれば看病のために早退させてくれるケースもある。しかし、Kさんはそれができない。どちらかが苦しい思いをしているときに助け合えないもどかしさを常に感じてきた。

Kさんが今一番心配しているのは、万が一パートナーが新型コロナウイルスに感染し、自分が濃厚接触者になった場合のことだ。濃厚接触者の判定に際して同居の事実を言わざるを得なくなったときに、親や職場に対して「自分のプライバシーがどこまで守られるかわからない」と不安を漏らす。

さらに懸念しているのが、万が一自分が感染して死亡した場合に、自分名義の家に残されたパートナーのことだ。

「パートナーとはローンと生活費を折半しているのにもかかわらず、家の名義は私1人。今2人で私名義の家に住んでいるので、私が死んだらパートナーは出て行かなくてはなりません。でも、親は私が独り身だと思っているので、私の家に来ますよね。そこで2人が会ったときにどんなことが起きるかと思うと……すごく怖いです」

20年以上連れ添ったパートナーがいても“独身”

夜の街並み

Kさんは、もし自分が20代のときに同性同士の付き合いが世間に受け入れられていたら「全く違う人生になっていたと思います」と話す(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

パートナーとの同棲を明かしていないことによって、Kさんが感じている精神的な負担は大きい。しかし、Kさんに周囲にカミングアウトする意思はない。それは家族や職場に理解がないから、という話でもないようだ。

「私は、きょうだいに重度の障がい者がいるんです。だから親にはそれ以上の心配はかけられないと思って、常に親の期待に沿った生き方をしてきてしまったんですね。大学も就職も、『心配しなくていいよ』と。男性と結婚することや孫の顔を見せることへの無言のプレッシャーも感じていて、『この人と結婚してしまった方が楽かな』と思ったことは何度もありました」

そう悩んでいたときに、Kさんは今のパートナーと出会った。20年以上連れ添っているが、周囲からは独身だと思われている。

ちなみに、Kさんの住む自治体にパートナーシップ制度はない。

パートナーシップ制度:同性のカップルを「婚姻に相当する関係」のパートナーとして公的に認める制度のこと。2015年の渋谷区と世田谷区を皮切りに、現在では全国で47の自治体が採用し(2020年4月1日時点)、公営住宅にカップルで入れるなど利用できる公的サービスは広がっている。ただしその自治体限定の制度で、法的拘束力はない。

だが、もし制度があったとしても、Kさんは使わないという。

「使わない、というより、使えないと思います。パートナーシップ制度を使っても、関係性が公になってしまうリスクを感じる割に、婚姻関係ほど保障が得られる訳ではないので。決して親に明かしたくない今の状況で使うのは、難しいです。ただ、パートナーシップ制度によって同性カップルの存在が承認されれば、マイノリティが抱える生きづらさの解消に近づくと思うので、制度自体はあった方が良いと考えています」

もし自分が20代のときに、同性同士の付き合いが世間に受け入れられていたら——。

「全く違う人生になっていたと思います」

とKさんは胸の内を明かす。

「自分は『女性が結婚すべし』という最後の時代を生きてきたと思う。その価値観の中で生きざるを得なかったんです」

そんな複雑な思いを抱えるKさんとパートーナーに、新型コロナウイルスがもたらす「もしもの時」の不安は重くはのしかかっている。

法律上の家族でなければ「情報開示はできない」

救急車

コロナ以前から、同性パートナーが救急車に乗れない、手術の同意ができない、病気に関する説明を受けられない、ICUに入れないといったことが医療分野で問題になっている。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

LGBTQの理解を深める啓蒙活動に取り組んでいる国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの柳沢正和さんのもとには、実際にコロナ陽性の疑いで同性パートナーが緊急搬送された当事者からの相談が届いている。

3月某日、大阪府在住のAさん(30代、男性)は、同居している同性パートナーが兵庫県内の勤務先で発熱し、県内の病院に緊急搬送された旨の連絡を本人から受けた。

しかし、その後容体は悪化。パートナーとの連絡が取れなくなり、病院に連絡すると、「コロナ陽性の疑いがある」として、同県内の感染症専門病院へ移送されたとわかった。そこでAさんは移送先の病院名を聞くと、「法律上の家族ではないので情報は開示できない」と突き放されたという。

最終的にパートナーは陰性で、熱が下がった翌日に連絡がついた。Aさんは法律上の制約は理解しながらも、陽性だった場合、二度と会えない可能性を考えると一時的にパニックに陥った。接触者に関する聞き取りで、Aさんの名前をパートナーに挙げてもらう場合、関係を聞かれ、望まぬカミングアウトにつながることもある。

柳沢さんによると、同性パートナーに対する医療機関の対応には東京と地方での格差があるという。

「コロナ以前から、同性パートナーが救急車に乗れない、手術の同意ができない、病気に関する説明を受けられない、ICUに入れないといったことが医療分野で問題になっています。都心では理解のある病院もあるものの、全国的には課題も多い」

同性パートナーへの対応は、医療機関任せ

例えば渋谷区では、パートナーシップ制度が条例で定められており、区内の病院や保健所は研修を受けていることも多い。しかし、制度のない自治体では、病院の医師や職員は自ら学ぼうとしなければ基本的にそうした機会はない。各自治体によって同性カップルに対する理解度に差がある中、同性パートナーへの対応は各病院の判断に一任されてしまっている。

こうした問題は、パートナーシップ制度の導入を自治体任せにするのではなく、国レベルで推進することが現実的な解決策だと、柳沢さんは指摘する。

「最近は保守的な国会議員の方でも、同性パートナーの存在を国がシンボリックに認めることに関して反対する人はかなり少なくなってきています。そもそも『家族』を制度化して守ろうという発想は保守派と親和性がある。新型コロナウイルスのような緊急事態において、“今”悩んでいる同性カップルを救うには、国による制度をつくることが不可欠です」

濃厚接触者の判定は「強制的なカミングアウト」になりうる

昼の街並み

同性カップルがコロナ禍で直面している問題は、日常的に存在していた問題が顕在化したものだ。

撮影:竹井俊晴

一般社団法人Marriage For All Japanは、LGBTQやその家族、同僚や友人などの関係者がコロナ禍で抱える困難を知ろうと、4月6日付で緊急アンケートを実施した。冒頭のKさんもその回答者の1人だ。

同団体代表理事の寺原真希子弁護士によると、同性パートナーと暮らす人々がコロナ禍で直面している問題は、大きく2つに分けられる。

「1つは、Kさんのお話にもあったとおり、濃厚接触者を判定する過程で、意図せぬカミングアウトになってしまう恐れ、という問題です。もし陽性反応が出れば、誰と生活しているかだけでなく、どのお店に行ったかなどについても報告することが求められます。報告しなくても罰せられることはありませんが、感染症法上では協力することが『努力義務』として定められています」

この努力義務が足かせになりかねない。

「行動履歴や接触した人を明らかにすることは、陽性反応が出た人にとって強制的なカミングアウトとなりうるだけでなく、その周囲の人々にとってのアウティングにもつながる恐れがあると、多くの人が危機感を抱いています。このような不安は、本来、差別や偏見のない社会であれば抱かなくても済むものです」

もう1つの問題は、関係が法的に保障されていないことによって、パートナーが入院・死亡したときに、当然には配偶者として扱われない点だという。

「これは同性カップルが普段から抱えている問題ですが、コロナの場合は容体が急変すると1〜2日で亡くなってしまう可能性もある。いつかは直面すると思っていた心配が、『今すぐにでもやってくるかもしれない』という具体的な不安に変わっています」

寺原弁護士は、同性婚の実現が、本当の解決策だとする。

「地方自治体による公証という意味では、パートナーシップ制度には意義がありますが、残念ながら、パートナーシップには法律婚をした配偶者に与えられる法的効果は一切伴いません。パートナーシップ制度が全国に広がることの象徴的意義は大きいものの、パートナーとしての権利関係を守るには不十分だからです」

同性カップルがコロナ禍で直面している問題は、突発的に生じたのではない。LGBTQの人たちにとって、日常的に存在していた問題が顕在化したものだ。

「生きていくために、日常的につかざるを得ない嘘がある」

「万が一のときにパートナーの側に居られないかもしれない」

こうした困難を抱える人々の危機感は差し迫っている。多様な生き方を肯定し、その権利が守られる社会に変わることができるのか。これもまた、新型コロナウイルスの感染拡大が、私たちに問いかけている重要なテーマだ。

(文・一本麻衣)

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